第13話 想定外の事態

 これは想定外の事態だ。

 好感触と思いきや、まさか嫌われていたなんて。


 というか、それより気になるのはクレイグとの関係性だ。

 クレイグ先生はコニーの肩に手を回し、彼女もそれを受け入れている。


 学園の教員とあそこまで親密な関係を築いていたなんて!?

 言ってみれば禁断の恋!?

 そういうのに憧れるタイプだったのか!?


 ……待て。

 冷静になるんだ。

 まだ慌てるような時間じゃない。


 舞踏会までの間になんとか立て直しを図らなくては。

 いっそヤツからコニーを寝取るか?

 ……いや、それはスマートなやり方じゃない。


 大体、そんなやり方では真の意味で忠誠心を持たせることはできないだろう。


 俺は形だけの配下などいらない。


 心から俺を崇拝し、何の疑問も持たず俺のために労働するのはご褒美と思えるくらいになってもらわなくては困る。

でなければ真の社畜とは言えないだろう。


 潔く身を引く方が男らしいのだろうけど、俺はどうしてもあきらめきれなかった。

 あの魔力量と魔鉱石を扱うセンスは捨てがたい。


 やはりこのままってわけにはいかないな。


 ――それに、まったく脈なしというわけでもないと思う。


 断じて負け惜しみなどではなく……工房にクレイグ先生がやってきたと知った時のコニーの表情が気になった。


 ほんの一瞬だったが、「どうしてあなたがここに?」と言わんばかりに表情が引きつって見えたのだ。

 

 それに、俺がダンスに誘って断われた直後にクレイグ先生が工房を訪れたというタイミングも気になる。


「……ルチーナ」

「はい」

「クレイグ・ベッカートを監視してくれ」

「なぜ彼を?」

「ヤツは何らかの理由でコニーを脅しているかもしれない。でなければあのタイミングで俺の誘いを断るはずがない」


 かなり強引な理論だが、相手がルチーナならこれくらいでちょうどいい。


「なるほど。確かに、この世界でレーク様の誘いを断る者などいるはずがありませんからね。何か裏の事情があると読むのが自然。早速調べてみます」


 ほらね。

 なんかもうぶっ飛んだ理由で納得してくれた。

 俺としてはもう何でもいいから動いてほしいので助かるけど。



  ◇◇◇



 ルチーナはクレイグ先生に張りついてヤツに関する情報を集めてくれた。

 もはやストーカーを疑われても仕方がないくらい執拗に調べ、おかげでヤツが神聖な学び舎を舞台にとんでもない計画を練っていたことが判明する。


 実行に移すまで時間はないが……これは状況をひっくり返せる大チャンスだ。


 あれからというもの、俺がコニーに振られたという噂が学園中に広まり、いい笑い者となっていた。


 正直、貴族と良好な関係を構築しようと目論む俺にとっては痛手だが、評価はこれからじっくり変えていけばいい。


 ともかく、俺は状況を打開する策を思いついた。

 そのために必要なアイテムの製作をルチーナへと依頼する。


「あと二日で完成できるか?」

「一日で大丈夫です」

「よし。なら一日で仕上げてくれ」

「かしこまりました」


 なんとか準備は整いそうだな。


 しかし、相手は魔法を専門にする教師。


 簡単に足がつかないよう、入念に仕掛けてきている可能性もある。

 アイテムが完成するまでの間、その辺の調査は俺自らが行おう。


 さて、ここから一発逆転といこうか。

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