5 異世界の洗礼
魔法をこの目で見られるドキドキとか、そんなものはどっかにいってしまったよ。
威力が、規模が、何もかもが、ゲーム内と違い過ぎる。
ファイアーボールなんて小さい火球がゆっくり飛んで行くだけの魔法だぞ?
それに対して俺が放ったやつはどうだ。一歩間違えれば災害だよ。そんなとんでもない代物だった。
どうしてこうなった?
スキルの説明自体はゲームと同じものだったはず。であればこの世界特有の現象か?
……いや、そうか。ステータスがそのままスキルに反映されているんだ。であれば色々と辻褄は合う。
ゲーム内ではあくまで決められたアニメーションを再生するだけだったスキルも、ここではステータスに依存してその姿と結果が変わると言う訳だ。
と言うことで改めてステータスを表示させると、予想通りMPが本来よりも多く消費されていた。
それこそ第六等級魔法を使った時くらいには減っている。
INTが高い分、それに応じたMPが勝手に消費されてしまったと言う事だろう。
なら対処は簡単。消費するMPを適正量にすればいいだけだ。
スキルの発動自体は感覚でわかるから、どれくらいMPを消費するのかもある程度は制御できる。
「これくらいだろうか……ファイアーボール」
その瞬間、俺の手の平から小さめの火球が放たれた。成功だ。
「おお、これだよこれ! ファイアーボールと言えばこれくらいのサイズじゃないと!」
威力を小さくして喜んでいると言うのも変な話だが、この方が小回りも効くしMPの消費も少ない。
燃費的にはこの方がずっと扱いやすいはずだ。
勝手に膨大な量のMPが消費されたせいで必要な時になって撃てないってのは本当に困るからな。
さて、諸々の確認も終わったし、さっさと移動するとしよう。
日が暮れる前には人のいるところに辿り着きたいしな。
――――――――――――
あれから数十分程歩いたところで村らしきものが見えてきた。
とりあえず俺の脳内マップは間違っていなかったらしい。
全く見当違いの方向へと向かって遭難……なんてことにはならずに済んで本当に良かった。
超絶久しぶりに訪れたこの村だが……ゲーム内とは見た目がかなり違った。
広場には知らん像が立っているし、村全体の造りも微妙に記憶とは異なっている。
まあそこはゲーム内と完全に一致している訳では無いってことなんだろうな。
せっかくだから色々と観光して周りたいところだが、まずは今夜泊る宿を探さなければな。
流石に魔物が出る世界で野宿はキツイ。
村の中とは言え、建物の中か外かの違いは雲泥の差だ。
「おっと、ここか……」
宿屋と書いてある看板を発見した。
どうやら文字は読めるし会話も聞き取れるようだ。
ここにきて言語が通じなかったら相当に不味かったが、その心配はいらないようで一安心。
「……らっしゃい」
目についたその宿屋に入ると、そこにはいかつい見た目の男がいた。
カウンターっぽい所にいるし彼がこの宿屋の主人ってことで間違いないだろうな。
「すみません、部屋は空いて……うわっ」
「うぉっ!?」
部屋が空いているかを尋ねようとした所、後ろからやってきたであろう男が俺にぶつかり床に転がった。
「すまねえ、前をよく見て無かったぜ」
そう言うと男は俺の横を通り過ぎて店主の元へと向かった。
「5泊頼めるか?」
「それなら25リルだ」
男は懐から大き目の銅貨を2枚と普通サイズの銅貨を5枚取り出して男に渡した。
と言うことはあの大きい銅貨は銅貨10枚分の価値があるってことか。
そんで25リルであの支払いなら銅貨一枚1リルってことで良いみたいだな。
リルはネワオンのゲーム内マネーと同じ通貨だし、そのまま使えるみたいで良かった。
アイテム欄から取り出そうとすれば勝手に適切な枚数に変換されるみたいだし、面倒な計算はしなくていいのも助かる。
「すみません、部屋の方はまだ空いてますか?」
男が部屋に向かったため、改めて店主に部屋が空いているかを聞いた。
彼で最後の一部屋だったかもしれないしな。
「……空いてるよ」
よかった。まだ開いているようだ。
「では一泊でお願いします」
とりあえずまずは一泊。明日はまた別の場所に向かいたくなるかもしれないし、一旦はこれでいい。
「あんた、一人なのか?」
「はい。それが何か……?」
「そうか……それなら、15リルだ」
15リルだって……?
先程の男は5泊で25リルだったはずだが……連泊割引?
「……」
その時だ。何やら視線を感じた。
宿屋の一階は酒場になっているらしく、今もそれなりの人数が酒を飲んでいる。
そんな彼らが何故か俺の方を見ているように感じた。
「なあ、あの子……」
「ああそうだな……可哀そうに。女一人だからってぼったくられてらあ」
と、囁き声での会話が鮮明に聞こえてくる。
恐らくこれは今の俺がハイエルフだからなのだろう。耳が物凄く良くなっている訳だ。
で、彼らの会話のおかげでなんで彼らが俺を見ているのかがわかった。
この世界、治安があまりよろしくないんだな。まあこういう系のファンタジー世界ともなればそんなもんか。
そんな状況で女一人だなんて、正直カモでしかない。
店主は15リルと言っていたが本来はもっと安いんだろう。
それこそ先程の男のように一泊5リル辺りか……そもそもあの男の払った額が適正価格なのかすら、今の俺にはわからなかった。
それでも、このままぼったくられて終わる俺では無いぞ。
今の俺が女だからぼったくられるのなら、逆に女であることを利用して目にもの見せてやるさ!
「随分と、高いんですね……?」
そう言いながらカウンターに体重を預ける。
まずは上目遣いだ。店主よりも下に顔を持っていき、上目遣いで彼の顔を見た。
今の俺は超絶美少女だからな。これだけでもかなりの効果があるだずだ。
「その、私……あまり持ち合わせが無くてですね」
嘘である。金なら滅茶苦茶にある。装備強化のためにひたすらため込んだ金がな。
だが重要なのはそこでは無い。
そう言いながら乳を揺らしたことが大事なのだ。
「……」
店主の視線が俺の胸に集中している。
加えて、気持ち鼻息が荒くなっている気もする。
そうだろうそうだろう。この圧倒的なサイズ感のドスケベおっぱいを見せつけられて喜ばぬ男はいない。
「もう少しだけ、お安くなりませんか……?」
「……良いだろう、3リルでどうだ」
勝ったッ! 第3部完!
なんで負けたか、明日までに考えておくことだな!
こうして俺は生まれて初めて、ハニートラップを行ったのだった。
そして後になって滅茶苦茶恥ずかしくなり、死にたくなった。
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