5.少年法って何だろう?

「ふあーあああ。」

古城ではないが、大きな欠伸を一つ。

ああどうして、昼休みの後すぐに授業があるのか。学生が睡魔に襲われる危険性を考慮してないのはなぜか。

俺はその危険性を重々承知しているから、それを打ち滅ぼすために、机に突っ伏し、対策を考えることにした。決して、古城と同格まで、堕ちた、わけでは、ない…


あっはっはっはっはっ

「いやぁ荒屋敷くぅん、災難だったねえ!気持ちよく寝てた時に先生に当てられちゃって!」

「笑うな…」

放課後、部室。

葦附が先の授業での俺の失態をケタケタと笑う。非道極まりない。

「最初に先生が『荒屋敷君』って呼んでも反応が無くて、それで先生がもう一回呼んだら、」

「呼んだらぁ?」

「『あっへぇ?!』って、変な声、上げたんだよ!面白かったぁ!」

「面白くない。少なくとも俺は全然面白くない。」

それに笑ってたのは葦附くらいで、教室はシンと静まり返っていた。皆んなの視線だけが刺さった。こういうときにフォローしてくれる友達がいないのが、ちょっと心にくる。

「あちゃぁー、やっちゃったねぇ、副部長。でも気にしない気にしない、よくあることさぁ。」

「お前に慰められてもな。居眠り常習犯。」

「うーん、私もよく寝ちゃうけどぉ、いきなり当てられて、起こされたとしても、まるで何事もなかったように、『はぁい』って返事する姿勢が、大事なんだよぉ。」

「寝てたのがバレていてもか?」

「バレてるからこそ、だよぉ。動揺してるより、堂々としている方が、先生も怒りづらいからねぇ。」

「なるほど、その方がいいのかもな。今度はもっと落ち着いて寝るとしようか。」

「そうそう、胆力がコツだよぉ。」

「ちょっと!二人とも!こないだ授業料の話したばっかりじゃん!寝てるときもお金はかかってるんだからね!お父さんお母さん、泣いちゃうよ!」

ぷくー

頬を膨らます。

そんくらいで親が泣くかよ、大袈裟なんだよ。

とは思いつつも正論なので、ぐうの音も出ない。

古城と二人、肩身が狭い思いをする。


「…葦附は?寝ないのか?」

「そりゃ眠たいなぁって時はあるよ?でも先生もせっかく授業してくれてるんだし、お父さんお母さんもお金出してくれてるから、『起きなきゃ!』って気持ちになるよ。ほっぺたつねったりしちゃってね。」

最近こいつの純粋さが眩しく思えてきた。その分俺の卑屈さが自覚されてつらい。

「とにかく!寝てもお巡りさんに捕まったりはしないけど、できるだけ寝ないこと!いいね?!」

「できるだけ、はぁい。」

「なるべくな、はい。」

二人とも保険を残す形で返事した。

それにしても、

「警察に捕まるなんて随分な表現だな。捕まってみたかったり?」

「そりゃあ、一回は思うよ?捕まったらどうなるんだろう、って。」

うっわぁ。冗談のつもりだったのに。いよいよおかしくなったか。

「部長ぉ~そりゃないですよぉ~私たちに親を泣かせるな、って言っておいてぇ、自分は逮捕されるだなんてぇ~」

「いやいやいや?!ホントに逮捕されたいわけじゃないよ?!悪いこと、何もしてないし?!ただ、手錠はめられたり、牢屋に入れられたりしたら、どんななのかな、って思っただけ!何もしないから!」

純粋さも時には罪になりそうだとは思うが。

「でも実際、どんなことをしたら牢屋に入れられちゃうんだろうね?」

「私たちは未成年で、『少年法』が適用されるからぁ、ちょっと大人とは違うかもねぇ。」

「少年法って聞いたことあるけど、どんな法律なんだっけ?」

「俺も、未成年だから罪が軽くなる、くらいの認知しかないな。」

「未成年ってだけで罪が軽くなるの?十九歳と二十歳ってそんなに違うものなの?」

「でも最近、選挙の年齢が十八歳まで引き下げられたろ?少年法にも影響ないものかね。」

「いいねぇ、じゃあ今日は自分が犯罪を起こさないためにも、少年法について、話し合ってみようかぁ。」

「いいぞ。」

「お願いします!」

「諦めるんじゃない。お前も考えろ。」


「色々分からないところはあるけど、そもそも少年法って何なんだろう?」

「法律上の目的はこんな感じになってるよぉ。」


第一章 総則

(この法律の目的)

第一条

この法律は、少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに、少年の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする。

(※)


「これだけ読むと、少年には未来があるから、そこに期待して罪を軽くする代わりに、きっちり観察保護を続けて経過を見守る、っていうふうに感じるな。」

「そうそうそんな感じぃ。じゃあ、法律の中身を掘り下げていこうねぇ。」


第一章 総則

(定義)

第二条

この法律において「少年」とは、二十歳に満たない者をいう。


「やっぱり二十歳が境目なんだ。二十って、数字として大きく見えちゃうのかな?」

「肉体的にも成長が止まるだろうし、だいたい人生の四分の一ではあるから、結構区切りのいい年齢なんじゃないか?まぁそんなに気にするなよ。」

「年齢については、令和四年に十八、十九歳の扱いが改正されて、『特定少年』っていう扱いになったんだってぇ。」

「少年ではあるけれど、十七歳以下とはちょっと違う、特別扱いってことか。」

「十八、十九歳って、もう大人だもんね。あ、いや、でも私たちって来年十八歳になるよね?来年から大人扱いになるんだもんね?」

「部分的にな。」

「うぅん、大人って認められるのは嬉しいけど、もう子供じゃないってのも、なんだか寂しい気がしたり?しなかったり?」

「別にいいだろ。年齢なんて不可逆、どうしようもない、諦めろ。」

「むぅ、そうですかぁ。」

何で不機嫌になるんだよ。俺おかしくないだろ。年齢が無いメルヘン世界の住人にでもなりたいのか?

ワンチャンなりたそうに思えるのが怖い。

「特定少年がどう違うかに触れる前に、年齢についてもうちょっと見ていこうかぁ。」


第二章 少年の保護事件

第一節 通則

(審判に付すべき少年)

第三条

次に掲げる少年は、これを家庭裁判所の審判に付する。

一、罪を犯した少年

二、十四歳に満たないで刑罰法令に触れる行為をした少年


「ん?十四歳にも境目があったのか。知らなかった。」

「家庭裁判所、ってところで審判?するってことだけど、どういうこと?」

「刑事裁判にならないってこと。つまりは十四歳未満の事件は、犯罪として扱わないってことだねぇ。」

「えっええええええ!!!犯罪にならないの?!ホントに?!」

「デカい声出すなって。でもちょっと驚きだな。じゃあ犯罪は十四歳までやった方がいいってことだな。」

じろり

部長による無言の圧がかかる。

冗談ですってば。そんな。マジにならないでって。

「犯罪にならないって、でも、だってだって、こう…!人をやっちゃったとき、とか?!これは?!」

腕をぶんぶん振る。マイルドな表現助からない。殺人、強盗、強姦、放火とかの重大犯罪な。

「さすがに十四歳未満とはいえ、大きな犯罪になると、刑事裁判に戻されて、大人と同じように判決・罰則を受ける(※)みたいだねぇ。これは十四歳以上も同じだよぉ。」

「ただ、刑事裁判についての罰則上限を下げることも決まってるみたいだな。」


第三章 少年の刑事事件

第三節 処分

(死刑と無期刑の緩和)

第五十一条

罪を犯すとき十八歳に満たない者に対しては、死刑をもつて処断すべきときは、無期刑を科する。

罪を犯すとき十八歳に満たない者に対しては、無期刑をもつて処断すべきときであつても、有期の懲役又は禁錮を科することができる。この場合において、その刑は、十年以上二十年以下において言い渡す。

(不定期刑)

第五十二条

少年に対して有期の懲役又は禁錮をもつて処断すべきときは、処断すべき刑の範囲内において、長期を定めるとともに、長期の二分の一(長期が十年を下回るときは、長期から五年を減じた期間。次項において同じ。)を下回らない範囲内において短期を定めて、これを言い渡す。この場合において、長期は十五年、短期は十年を超えることはできない。


「死刑を無しにして順繰りに刑罰のレベルを下げてる感じがするな。」

「大人だったら複数の罪で三十年までありうるということだよぉ。三十年、長いよねぇ。」

「ホントだよ。裁判所で『三十年!』とか言われると思うと、ゾッとしちゃう。子供にしても大人にしても、こんな刑罰とは無縁の人生を送らなきゃ。」

「それはそう。」

「間違いないねぇ。」


「それで十四歳以上について、重大とされないもの、傷害とか窃盗とかか。これだと犯罪とみなされず、家庭裁判所で更生の可否を判断した上で、少年院なり他の施設なりに送られるみたいだな。そこで将来に期待して数か月から数年間保護観察する、と。大分緩く感じるな。大人だと刑務所に行って、前科もつくのにな。」

「非行少年ってやつだねぇ。家庭裁判だと前科はつかないけど、警察のデータベース上には残るらしいよぉ。『前歴』っていうんだってぇ。前歴がある状態でもう一度少年事件をやっちゃうと、更生不十分と判断されて、少年院に長くいなきゃいけなかったり、するみたいだねぇ。」

「大人に比べて軽い気もするけれど、中学校二年生未満の子ってことでしょ?大人と一緒の牢屋に入れられたら、緊張しちゃって上手く更生できないかもって思っちゃった。」

「少年院の他に少年刑務所もあるそうだから、必ずしも大人と一緒になることはなさそうだよぉ。そこだけは安心だねぇ。」

「それに、配慮してどうすんだよ。小学生だとしても同罪を背負ってるんだ。厳しければ厳しいだけいいだろ。」

「でも…何か…私が小学生とかだったら、何が悪いことかも分からずやっちゃいそうだったし…近所の家の花の蜜勝手に吸ったりしてたし…」

「程度が可愛すぎ。」

「結局犯罪かどうかは、責任能力があるかないかで判断されるというからぁ。中学校二年生より小さかったら、精神も発達途上だろうし、悪いことだという意識が無かった、と総じてみなされる感じなのかねぇ。」

「刑事裁判でも精神的障害で心神喪失を理由に責任能力が無かったとされるケースも聞くよな。『悪いことだと分かっていてやったかどうか』、犯罪かどうかを決めるのはここがポイントみたいだが、あまりにも判断が難しそうだな。とりあえず年齢でそのラインを設定したのか。」

「平成十二年に少年法が改正されて、ラインが十六歳から十四歳まで引き下げられたんだってぇ。以前は中学校三年生までだったら軽犯罪に準ずる非行は犯罪にならなかったんだねぇ。」

「確かに、十六歳だともう大人な感じがするね。十五歳だと…どうかなぁ。大人にしてはちょっと幼い?けど子供にしては大きい気もするし…この辺りが微妙に感じちゃうよ。」

「年々子供たちの精神年齢は早熟しているってニュースでもやってたし、国には中学生、小学生の精神年齢を遍く調査してもらって、ラインの見直しをしてほしいもんだな。」

「確かに、その通りだね。」


「それで、特定少年についてだけどぉ。」

「ああそういえば最初に言ってたな。十八、十九歳以上は最近扱いが変わったんだったけか。どこが変わったんだ?」

「ざっくりだけど、刑事裁判に戻されるケースが増えて、また罰則が二十歳以上と同等まで引き上げられるケースが増えた(※)みたいだよぉ。」

「選挙や民法でも十八歳が成人とみなされるようになってきたから、それに合わせて、なんだね。当然と言えば当然かぁ。」

「それでも少年法の適用内ってことは変わらないけどな。さっさと適用外にすればいいものを。」

「それと、実名報道も解禁なんだってさぁ。十八歳以上だと、顔と名前全国世界各国に悪者として報道されちゃう、恐ろしいねぇ。」


第四章 記事等の掲載の禁止

第六十一条

家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容ぼヽうヽ等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない。


「これの対象外になるのか。ネットで一瞬で広がっておもちゃにされるな。通っていた学校、家族事情、親戚関係とか、全部バラされるだろうな。家に嫌がらせされるとかもありうる。」

「お父さんお母さん、叔父さん叔母さんは全く関係無いかもしれないのに、自分のせいで迷惑をかけちゃうことになるんだ…」

「まぁこれについては嫌がらせする方がおかしいけどな。被害者ならともかく、ネットで知っただけの人間が直接関係者を責めるなんて、考えられん。」

「そんな嫌がらせじゃなくても、自分の顔と名前が世間に広がっちゃうからねぇ。刑務所から出てきても、すれ違う人全員に、『この人も自分を犯罪者だと知っているかもしれない』と感じたりするかもしれないねぇ。しばらくは人の目線を気にして、動けなくなっちゃったりして。」

「それにどこかで働こうとするときも、ニュースで報道されてたなら、ちょっと名前で検索するだけで出てきちゃうよね。自分の罪から逃げられない人生になるんだなぁ。」

「自業自得、全うだろ。自分のやったことが一生ついて回る。それが抑止力になる社会じゃないと、俺たちも安心して暮らせないだろ。」

「その通り、お天道様が明るく照らしてる社会で生きていたいよねぇ。」


「ここまで、少年法をすっごくざっくり見てきたけど、どうだったぁ?」

「なーんだかなぁ。少年の未来に期待してるのは分かるけど、被害者の立場になってみろって思うよなぁ。自分は何もしてないのにただ不幸な目に遭って、それで相手は少年ですから犯罪になりませんじゃあ、被害者のやるせなさはどこにやればいいんだって話だよ。」

「そうだよね。相手が何歳かなんて関係無い。やられた側にとっては、つらいことはつらいんだ…え、だったら、何で少年法なんてあるの?少年法って、無いとダメなの?」


シーン


やっぱりこいつは、単純がゆえに厄介だ。

「…難しいことを言うな。そもそも必要があるのか、か。」

「うぅん、現行の法律に改善すべき点は多いかもしれないけど、完全に失くすとなると、それはそれで、問題がある気がするねぇ。」

「それはどうして?やっぱり、更生の余地が無くなっちゃうから?」

「更生というか、私は責任能力の点だと思うなぁ。例えば、何かおっきな装置があって、その傍で何人も作業しているとしてさぁ。それでその装置の起動スイッチを、十歳くらいの子供が面白半分で何度も押しちゃって、それで作業員たちが全員犠牲になっちゃった、としてさ?これって、過失致死で、大人と同列に裁けるか、っていうと、裁けないんじゃない?だから結局少年法があった方がいいんじゃないかなぁ?」

「いや、だったらそこは大人の心神喪失の判定みたいにすればいいだろ。大人と同じように裁判を開いた上で、『当人は子供だったから責任能力の有無を加味する』って判断をすればいいじゃないか。だから、最初からあえて少年法を作っておくんじゃなくて、大人も子供も同一の刑法ってものでまとめて扱って、その中で子供の場合なりなんなりを派生させていけばいい、って思うけどね。俺が変なのかもしれないけど、どうにも子供を逃がすための法律、って考えが抜けないんだよな。」

「おかしくないと思う。私もちょっとそう思うもん。でも大人と全部一緒にするのも、なかなかできないよ。私が小学生、中学生だったころの友だちが、仮に、かっり~~~~~~~~に、その時に犯罪をしたとして、少年院か少年刑務所に入ったとして、全く更生しない、反省しないとは、思えないんだ。あ、いや?!大人がダメ、更生の余地無し!とは言わない、言ってないよ?!」

「俺たちも言ってないって。」

「続けて、部長ぉ。」

「うん、その友だちがたとえ、悪意をもって犯罪をしたとしても、まだ十代半ば。心が成長する余地は多いと思うんだ。私も小学生のころから今まで、たくさん成長したし。」

本当か?と思うが、ここで突っ込むのは野暮過ぎるので静かにしておく。

「それで自分のやったことを受け止めて、やられた人がどんな思いをしたか、ってところまでしっかり考えて、苦しいと思うけど、それでも考え抜いて、それで罪を償っていきたい、人生をやり直したい、って思うことができたんだったら、社会は、その思いを汲み取ってあげるべきだと、私は思うんだ。」

「償うことすら許されない社会も、何だか息苦しいかもねぇ。」

葦附の言うことは分かる。正しい気もする。

でも、それでも俺は納得できない。

「…俺にはやっぱり無理だ。いくら少年だったからって、未来があるといったって、償いたいと綺麗ごとを言ったって、被害者には何も関係無いんだ。被害者は一番の苦しみを味わった。もう二度と笑えないかもしれない。生きる意味も失ったかもしれない。世界に希望を持てなくなったかもしれないんだ。一番救われるべき人が救われない世界で、一番救われるべきでない人がのびのびと生きる世界なんて、誰が受け入れたいと思う?俺は、ごめんだ。」


シーン


あ、まずかったかも。ちょっと、話をややこしくしてしまった。

「副部長は、被害者を一番に考えてるんだねぇ。私は、そこの視点があまり無かったかもしれない。考え無しだったよ。ごめんね。」

謝るなよ。

「謝ってもらうようなことじゃない。」

「そうか、そうだね。」

「荒屋敷君も正しい。絶対に正しい。」

葦附も古城も固い表情のまま俯いている。参ったな。

「まぁ俺もそうは言ったけど、今すぐに少年法をなくせ、とは思わない。ただその、大人と子供との線引き、ラインを、現状を鑑みつつ、常に更新していく必要があると思うだけだ。」

できれば、厳罰寄りに。

「そう、これも誰もが忘れてはいけない問題だねぇ。ずっと考えて、意見を出し合って修正していけば、自然とより良い方向になっていくはずだよぉ。」

「だな…しっかしまぁ、どれもこれも結論が出ないな。ふわっとした感じで終わってしまう。」

「仕方ないよぉ。私たちは専門家でも何でもない、ただネットの知識を広く浅く探って話してるだけだからねぇ。」

「うんうん!私たちはまだ子供でもあるんだから!ゆっくりだけどしっかり、考えていこうよ!」

「部分的には大人だがな。」

「子供と大人、両方の属性を併せ持つ、なんだか格好いいねぇ。」

「そんな私たちだからこそ、できることもあるよ!これからもガンガン、話し合っていこうねぇ!」

「おぉー。」

「あぁ。」


その日の帰り道。

今日はいつにもまして疲れた。法律で話が難しかったし、それに、自分の意見を最後まで変えなかったからな。何をあんなに意固地になってたんだか。全くもう。

歩いていくと、たまたまパトカーを見かけた。警官二人が自転車に乗っている人を停めて何やら話している。すっと傍を通り過ぎると、

「別にそんなに悪いことしてるわけじゃないんだけど、一応ね?」

「ほらパンフレット。ここに、乗りながらのイヤホンがダメってなってるから、見といてね。」

どうやらイヤホンをつけたまま運転していたらしい。そう言えばダメだったな。あえて罰則を課すわけじゃないけど、ちゃんと見てるんだな、警察って。

何だか、自分は関係無いのに、自然と背筋が伸びる。立ち去る足も勝手に速まる。

「悪いことはできないもんだ、なかなか。」


夕暮れ、白い月がほのかに光る。


今日は、少年法の意義と、警察という抑止力の存在を学んだ。

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