第20話 あんたとは、もう友達じゃないから!

 中原梨花なかはら/りかは一人だった。

 月曜日の学校では、休日の出来事が学校側に伝わっていたらしく、梨花はその事について担任教師および教頭からもお叱りを受けていたのだ。


 この頃、何をしても空回りしてばかり。

 嫌なことばかりが脳内を駆け巡り、心がどうにかなってしまいそうだった。


 なんで、私ばかりと思ってしまう。


 和樹とは、友達との罰ゲームの一環で付き合っていた。

 その二週間が今となっては輝いていたように思えるのだ。


「なんで、あの時にちゃんと伝えられなかったんだろ……」


 いまさら後悔しても、和樹と昔のような関係になれるかと言ったら、多分無理だと思う。


「そうだよね……もう無理だよね……でも、私には友達がいるし……和樹と付き合えなかったとしても」


 放課後。

 皆が帰宅の準備を整えている最中、梨花も帰宅する準備を始めた。


 梨花は友達と一緒に帰宅しようと思い、通学用のリュックを背負うと、同じ教室内にいるクラスメイトである千沙の元へと向かう。


「千沙。一緒に帰ろ」

「……まあ、いいけど。じゃ、帰ろっか」


 千沙ちさは金髪のセミロングヘアが特徴的で、少し荒っぽい性格に見えたりもするが、意外と優しかったりするのだ。


「ていうか、この前の件だけど、マジで大変だったんだけど」

「ごめんね、私のせいで出禁になってしまって」

「まぁ、いいんだけどさ……」


 千沙は少し納得していないような顔を見せている。

 千沙は殆ど悪くないのだ。


 梨花が変な言動をしてしまったことが原因で、あのカフェから出禁を食らってしまった。いわば、被害者みたいな感じなのだ。


「そういや、梨花って。これから用事ある?」

「ないよ」

「じゃ、決まりね」

「どこかに行くの?」

「そうそう、他のクラスの亜優と三葉からファミレスに行かないかって誘われてたんだよ。梨花も今日暇なら丁度いいわ。一緒に来なよ」

「わかった。じゃ、行くよ」


 友達から誘って貰えただけでも心が救われるようだった。


 今、梨花の心は冷え切っていたのだ。


 出禁の件で他のクラスメイトからは敬遠され、クラスに千沙がいなかったら確実に孤立していただろう。


 完璧な被害者である千沙が、友達として裏切る事無く慈悲深く接してくれているのだ。

 感謝しても、感謝しきれなかった。


 でも、それは一瞬で闇へと変貌を遂げたのである――




「あんたさ、どうしてくれるのよ!」

「バカじゃない。あのお店を出禁とかさ。あーあ、私、後で行きたかったのに」


 いつもの友達三人と共に学校を出る予定だったのだが、梨花は今、校舎の空き教室にいた。


 梨花の前には三人の友達がいる。

 亜優あゆと、三葉みつば。それと、クラスメイトの千沙だ。


「ど、どうしたの? 皆」


 梨花は緊迫した現状に戸惑い、後ずさりながらも、おののいていたのだ。


「皆? はあぁ? 今でも私たちと友達と思ってるわけ? そんなわけないでしょ。あんたの身勝手な言動で私らは心底困ってのよ。だから、あんたはおいて、亜優と千沙と私の三人でファミレスに行こうとしてたんですけど」


 普段は温厚そうな三葉が鬼のような形相で、梨花の事を軽蔑した顔つきで脅していたのだ。


「な、なんで?」

「なんでって、そんなこともわからないほど、バカとかじゃないわよね。前々から思ってたんだけどさ、あんたのこと嫌いなの。去年のミスコンで優勝したから調子乗っててさ。はあぁ……本当は友達とかじゃなくてさ、皆からの評価が高かったから一緒にいただけ。今となってはただの迷惑なの」


 三葉は梨花の事を心底敵視している。


 三葉は梨花の肩のところを右手で強く押していたのだ。


「い、いた……で、でも」

「でもって、何? というか、なんで休日に和樹って奴と縁を戻そうとしていたのよ。そもそも、罰ゲームで嫌いな奴に告白するってルールだったわよね。何なの、もしかして、好きだったの?」

「それは……」

「……その表情って、もういいわ。あんたは裏切ったんだし最低な奴ね」


 三葉は、精神的に追い詰められている梨花に追い打ちをかけるようにまくし立てていたのだ。


「梨花は裏切ったんだね」


 亜優も心底呆れていた。


「……そう言う事だから。ごめんね、梨花」


 しまいには千沙からも見捨てられてしまっていたのだ。


 梨花は、その空き教室に一人で取り残される事となった。




 え?

 梨花って、そんなことが……。

 というか、あの三人が出てくるじゃんか。

 は、早くどこかに移動しないと!


 岸本和樹きしもと/かずきは誰もいない廊下を左右に見渡し、その廊下をやみくもに走り出した。

 あの三人が出てくる前に、階段がある方へと移動した事で彼女らと接触する事はなかったのである。


 和樹は階段近くの壁に背をつけ、一度呼吸を整えるために深呼吸をする。


 梨花って大変なことになってるな。

 でも……お、俺にはもう関係なんだ。

 あんな奴とはもう関わる気なんてないし。

 むしろ、友達からも非難されてもしょうがないよな。


 和樹はそう思い、階段を下って校舎の昇降口まで向かう。

 和樹は玲奈と一緒に帰宅する予定だったのだが、忘れ物をした事で教室に戻っていたのだ。

 どこ教室にも殆ど人が残っていなかった。

 そんな時、近くの空き教室から声が聞こえてきたのだ。


 女の子の怒鳴り声である。

 何かと思い、和樹が声する空き教室へと向かうと、その正体は普段は温厚な三葉だった事を知り、心底驚いていたのであった。


 三葉って、あんな暴言をはくんだな。




「遅いよ、待ったんだからね」


 昇降口で待っていた稲葉玲奈いなば/れな

 予定よりも戻ってくるのが遅かった事も相まって、彼女は少々ムッとしているが、可愛らしい顔を見せていたのだ。


「ごめん、ちょっとなかなか見つからなくて」

「それで見つかったのかな?」

「一応はね」


 和樹はさっき耳にした出来事は何も言わず、ぎこちない笑顔を見せて、その場を乗り越えるのだった。


「それより、早く行こ」

「どうしたの、急に?」

「いや、何となくさ」


 学校の昇降口付近で玲奈と会話していると、亜優らの声が聞こえてきたからだ。


 和樹はすぐに外履きに履き替え、玲奈と共に学校を後にする。


 これから玲奈と一緒に自宅で遊ぶことになっているのだ。


 梨花の事は忘れて、今日は目一杯楽しもうと思うのだった。

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