第73話:神のみぞ知るセイカイ

 ドリルのようなツインテールを揺らして自慢げに腕を組んだ彼女は、お嬢様口調で解説を続ける。


「スキルを授かりし御子たるわたくしたちを、神はいつどこでも見守ってくださっているのですわ。それは子を慈しむ父や母のように、孫の成長を喜ぶ祖父や祖母のように。そして時には、共に学び遊ぶ友人のように。貴方の地元の教会では男神として崇められているようですけれど、地方によって神の姿が変わるのは当然とも言えますわね!」


「な、なるほど……。ところで、君は……?」


 俺が尋ねると、少女はハッと目を見開いて「失礼しましたわ!」と頭を下げた。


「わたくし、ロザリィ・セイントと申します。ですわ」


「しがない修道女……」


 にしては頭髪の主張が激しすぎるような気がするんだが……。っと、俺たちも自己紹介をしておこう。


「ヒュー・プノシスだ。こっちはルーグ・ベクト」


「よろしくね、ロザリィさん」


「宜しくお願いいたしますわ。見たところ、お二人は王立学園の生徒様ですわよね? わたくし、実はずっと王立学園に憧れておりましたの! のですが、ぜひお話を伺いたいですわ! もしよければ、わたくしにこの大聖堂を案内させて頂けませんかしら?」


「えーっと、そうだな……」


 どうする? とルーグに視線で問いかける。


「修道女さんに大聖堂を案内して貰えるなんて滅多にないことだと思うよ。ヒューの勉強にもなるかもだし、良いんじゃないかな?」


「そ、そうか。じゃあ、ロザリィ。宜しく頼むよ」


「かしこまりですわ!」


 せっかくのデートだから二人きりが良いって言うんじゃないかと、ほんのちょっぴり期待していたのは秘密にしておこう。


「それじゃあ、まずはこの大聖堂が建設された理由から説明していきますわね」


 時は神授歴610年、当時のリース国王と神授教教皇との間で協定が結ばれ……と、ロザリィはまるで教科書に書いてあるような内容を、俺たちを案内して歩きながら何も見ずに解説し始める。


 さすが修道女、どうやらロザリィはこの大聖堂に関する情報を全て頭に叩き込んでいるらしい。


 少し前までの俺なら何を説明されているのかちんぷんかんぷんだっただろう。だけど、ここ最近はルーグに教えて貰いながら特に歴史の勉強に力を入れていた。そのおかげもあって、ロザリィの説明の4割くらいは理解できている。


「なるほどなぁ」


「ヒュー、ロザリィさんの説明ちゃんと理解できてる?」


「おう、もちろん。できてるできてる」


「ホントかなぁ?」


 疑いの目を向けてくるルーグから視線をスッと逸らす。その先にあったのは壁に刻まれた装飾のレリーフだ。一枚一枚が、どうやら何かの場面を模しているように見える。なんとなく見覚えというか、知っている気がするんだが……。


「それは聖典に記された、神が人々にスキルを授けている場面を集めたレリーフですわ」


 気になって立ち止まった俺に、ロザリィがすかさず解説を入れてくれた。


「ああ、そっか。道理で見覚えがあったわけだな」


「まあ、ヒュー様は聖典をお読みになったことがあるのですわね! 素晴らしいお心がけですわ!」


「いや、暇つぶしにちょっとだけ読んだだけなんだが」


「それでもですわよ。最近は聖典も読まずに観光に来るだけの方も多いですし。まあダメということはないのですけれど……」


 と、色々と思うところがありそうにロザリィは呟く。これはたぶん、宗教が日常生活に根付きすぎて、逆に熱心な教徒が減ってしまったパターンだ。


「それにしても、やっぱりどれを見ても神様って同じ姿じゃないんだね。当たり前に思ってたけど、実際に並べて見ると不思議かも」


 レリーフを見比べながら、顎に手を当てたルーグが言う。


 確かに、どれも神からスキルを授かっているシーンだから神と跪いた人が出てくるのだが、跪いていない人……つまり神の姿がレリーフによってまったく異なっていた。


 さっきロザリィが言っていたように、男の姿をしているレリーフもあれば、老婆の姿をしたレリーフもある。これはなかなか興味深い。


「そう言えば、俺がスキルを授かった時に聞いた神の声は男の声だったんだ。二人の時もそうだったのか?」


「ううん、ボクの時は小さな女の子の声だったかなぁ」


「わたくしの場合はダンディなオジサマの声でしたわね」


「やっぱり人によって聞こえた声がまったく違うんだな。なんかそれって…………」


「それって? どうしたの、ヒュー?」


「ああ、いや……。何でもない。気にしないでくれ」


「?」


 言い淀んで誤魔化した俺にルーグとロザリィは首を傾げる。あぶないあぶない。あと少しで、「?」なんて言ってしまいそうになった。昨日今日のあれこれで、失言に気を付けていて本当に良かった。


 こんな発想が浮かんでしまうのは、俺の前世が日本人だからだろうか……。


 神授教は一神教の宗教だ。その大聖堂なんかで多神疑惑なんて口にしたら宗教裁判で火あぶりにされかねない。……いやまあ、さすがに言いすぎかもしれないが、少なくとも白い目では見られてしまっただろう。


 そんなことになったら、せっかく案内を買って出てくれたロザリィにも申し訳ないからな……。この発想は封印しておこう。










〈作者コメント〉

今の予定では、メインヒロインは3人固定で最後まで行くつもりをしてます。

ロザリィはアリッサやメリィと同じ準ヒロイン枠です……!

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