洗脳スキルで異世界無双!?いやこれ持ってるのバレたら処刑されるので健全誠実に生きようと思います

KT

プロローグ

第1話:スキル〈洗脳〉

 社畜としての生涯を終えた俺は、前世の記憶を持ったまま異世界転生した。


 アルミラ大陸東の大国、リース王国。


 その北東部にある辺境の小さな男爵家が俺の第二の人生の生家だ。周囲を山々と豊かな緑に囲まれた田舎で、俺は両親の愛を受けてすくすく育った。


 野山を駆け回って遊んだ幼少期。次期領主として必要な知識を学び、剣の修行にも励んだ少年期を経て迎えた十五歳の誕生日。


 この世界において、十五歳とは特別な意味を持つ。


 まず成人年齢が十五歳だ。この世界では十五歳を迎えると一人前の大人として扱われ、お酒も飲めるし結婚もできる。


 そして、神から〈スキル〉を授かるのも十五歳だ。


 この世界に生まれた人種族(エルフ、ドワーフなども含む)は、十五歳の誕生日を迎えると神様から〈スキル〉を一つだけ授かる。


 このスキルは様々で、例えば俺の父上ならば〈狩人〉。動物の足跡が光って見えるようになり、あと弓の腕前も動物を標的にした時に限り達人の域に達するのだとか。


 母上は〈料理人〉。これは読んで字のごとく、料理が美味しくなるスキルだ。母上の料理は絶品で、元々は王都で定食屋を営んでいたらしい。そこの料理を父上が気に入って猛アタックの末に結ばれたのだそうだ。


 貴族になった今でも母上は調理場に立ち続けていて、父上の仕留めた獲物で作る母上の料理は筆舌しがたい美味しさだったりする。


「いよいよだな、ヒュー」


「はい、父上」


 その日、俺は父上と共に領内で一番栄えている集落にある教会へ足を運んでいた。教会で神に祈りを捧げ、スキルを授かるためだ。


 道中の馬車で緊張していた俺を、父上は安心させるように笑って背中を叩く。


「なあに、そう緊張するな。このプノシス領は見ての通りド田舎だ。そして我がプノシス家は辺境も辺境のド田舎貧乏貴族。たとえどんなに使えないスキルを授かっても問題にならん!」


「……父上、自分で言ってて悲しくなりませんか?」


「悲しくても事実なんだから仕方がないだろう。むしろ、変に優秀なスキルを授かってしまった方が面倒だ。ほどほどでいいぞ、ほどほどで」


「そう言われましても……」


 気になって調べてみたのだが、神から授かるスキルは完全にランダムだ。一度も海を見たことがない内陸育ちの者が海で呼吸ができるスキルを授かったり、病弱でろくに動けない者が〈槍術〉のスキルを授かったりだとか。


 父上も〈狩人〉のスキルを授かるまで狩りの経験は無く、弓すら触ったことが無かったらしい。


 だからほどほどと言われても俺には「無難なスキルが来てくれ」と祈る事しかできない。


「……ちなみに、授かると都合が悪いスキルってありますか?」


「む? そうだな……。あまりに強力すぎるスキルは悪目立ちする。王家や大貴族に目をつけられれば最悪だ。最悪、処刑や暗殺もあり得るな」


「しょ、処刑……!?」


 俺が生唾を飲むと父上は再び笑ってばしばしと背中を叩いてくる。


「よほどのスキルでなければ大丈夫だ。それこそ王族に危機感を抱かせるようなスキルでもなければな。まあ、そんなスキルを俺の息子が授かるとは思えんが!」


「そ、そうですね……」


 がっはっはと笑う父上に愛想笑いで答える。確かにこの父上の息子がそんなたいそうなスキルを授かるはずがないか……。


 前世の記憶があるから、どうにも俺は自分を特別視してしまうきらいがある。


 前世の異世界転生小説のように強力なスキルで無双したり成り上がったり出来てしまうんじゃないかと、考えずには居られないのだ。


 ……とんでもない。チートスキルなんて俺には不要だ。俺はもう十分に恵まれている。


 王都の政争から離れた辺境の弱小貴族家に一人息子として生まれ、両親にはたくさんの愛を注がれて育った。大自然に囲まれたこの土地はノンビリ過ごすには最適で、俺はここで悠々自適なスローライフを過ごすと決めたのだ。


 だから頼む神様、どうか無難なスキルを授けてください!


 教会に到着するまでの間、ひたすら馬車の中で祈り続けた。「そこまで祈らんでも……」と父上には呆れられたが、俺にとっては今後の人生に関わる重大な問題だ。授かるスキルがランダムだとわかっていても祈らずには居られない。


 やがて俺と父上が乗った馬車が教会前で停車する。父上は馬車の中で待ち、俺だけが出迎えてくれた老神父に促され礼拝堂の中へと足を踏み入れた。老神父はさらに進んだ先、神授の間というスキルを授かるためだけの小さな小部屋に俺を招き入れる。


「それでは、私はここで」


 老神父は神授の間から立ち去り、残されたのは俺一人。トイレの個室のような狭さの小部屋で、俺は事前にレクチャーを受けた通り跪いて両手を組んで額に当てる。


 祝詞のようなものは必要ないらしい。


 ただ神に祈ればいい。


 どうか私に〈スキル〉を授けてください、と。




『汝に〈スキル〉を授けよう』




 神の声はどこからともなく響いた。きっと頭の中に直接語り掛けられているのだろう。


 どうか無難なスキルでありますように!


『汝に授けるスキルの名は、――〈洗脳〉』


 …………んっ?


 神様いまなんて言った? せんのう?


『このスキルは汝と目があった者を意のままに操る力なり』


 意のままに操る力?


 せんのう…………洗脳!?


 それってあれか。同人誌でよく見る女の子の常識を改変してエロい事したりハーレム作ったりするやつ!


 マジか! そんな力…………持ってるってバレたらヤバくない?


 だって王族とか貴族とか操り放題って事だよね? そんなスキル持ってるってバレたら処刑されちゃうやつだよね!?


 ちょっ、タンマ! 要らない! そんなチートスキル要りません! 俺には〈指先がほんのり暖かくなるスキル〉とか〈脇汗が出なくなるスキル〉で十分です!


『汝は今〈洗脳〉のスキルに目覚めた』


 ねえ神様話を聞いて!?


『汝の人生に幸あれ』


 たった今不幸が確定したんだが!? ……っておーい! 神様ーっ!? 


 ……神様の声は聞こえなくなった。


 嘘だろ……?


「す、ステータス……」


 俺は恐る恐る自身のスキルを確認する。授かったスキルはステータスと言葉にする事で確認できるのだが……。


 視界に浮かんだ半透明のパネル。


 そこには、こう書かれていた。





ヒュー・プノシス

スキル:洗脳Lv.1 ……目があった対象を意のままに操る(最大対象数1)






〈作者コメント〉

第一話お読みいただきありがとうございます('ω')ノ

本作を少しでも面白いと思っていただけましたら幸いですm(__)m

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