第4話 シェルスのスパルタ指導にゃ

 シェルスは、ナッツに魔法の使い方、町の住人たちとの共生、この世界の通貨、法律と基本的なことを教える。


 元猫だったからか気まぐれで飽き性だからすぐ寝ちゃうのが玉に瑕だ。


「みゃほうはイメージにゃ」

 お庭での魔法の訓練はまず発動させること。

 水は手のひらに、火は指先に、風は干した洗濯物にちょっぴり当てる。土はボコっと拳ひとつ分浮かせる。

 

 ナッツはほとんどの属性使えるようで、得意なのは水魔法と風魔法だった。


 お庭には畑用のスペースがあるのでアキとシェルスはウキウキと畑を耕し種を植えた。


「神の用意した土地だから豊穣が約束されて神気の満ちた美味な野菜が育つに違いないです」

「そうかにゃ?」

 そうしてシェルスはナッツに畑に霧状に水をかけるように言う。


「むずかしいにゃよ」

「コントロールをしなくてはなりません。無意識でも一定に出せるくらいに。ですよ」

 畑一面に均等にと言い、ちょっと乱れると、

「そこ、水溜まりになってます」

などと目敏く注意されてナッツはヘトヘトになった。


「にぁーーーおぅ!!ミャーはお野菜食べにゃいにゃー」

 上手くいかなくてイライラしたナッツは地団駄を踏む。


「そんな怒っても可愛いだけですよ」

「ぅなー!!」

 シェルスはニコニコと毎日特訓だとナッツを庭に連れ出す。


 洗濯物を風で軽く揺らしたり、的を作り、風を当てる訓練。

 指先から火を出して、焚き火に火を着けたり、火の玉を飛ばす訓練。

 土魔法で大地を盛り上げたり、深い穴を開けたりと、最終的に新たに畑を作れたり。


 細かい指示が飛んできて、加減が難しいのでヘトヘトなナッツは毎晩アキに慰めてもらい、美味しいニャールを貰ってお部屋に戻る。


「ママは優しかったにゃ」

 ナッツはお部屋の毛布に包まって、ママの温もりを思い浮かべて寝る。


 

「さて、そろそろ町に行って冒険者登録しましょうか?」

「良いにゃか!!」

 三ヶ月ほど、スパルタな教育を受けたナッツは人間の暮らしやこの世界の常識を少しだけ理解した。


 旅をするにはお金を稼ぐこと、自分の身を守ることが大事だと知った。


 まずは町で簡単なお仕事をしてその後少しずつやれる仕事を増やすのだとシェルスに言われてナッツは楽しく思う。


「アキも一緒に行くにゃ」

「私はお家の妖精ですのでお外には行かないですよ」

 ナッツは一緒に行けるものだと思っていたのでびっくりした。

「一人はさみしいにゃよ・・・」

 ママがお買い物やお仕事で出かけた日を思い出して、アキが寂しくなっちゃうと尻尾がへんにょりしてしまう。


「私はお家にいるのが大好きなので、ナッツさまが楽しく快適に過ごせるようにお家をお手入れするのが好きですよ」

 しょんぼりなナッツを慰めてニコニコと笑うアキに「にゃみゃみゃげ」(お土産)買ってくると約束して、後ろ髪をひかれつつ、近くの町に向かった。


「にゃんにゃ♬」

 初めて二本足で遠くまでのお出かけに気分が良くなり鼻唄が出た。

「ふふ」

 シェルスとテクテク進むとナッツが最初に立った場所を通り越した。


「お家はミャーの家だけにゃね」

「この丘は元は森でしたからねぇ」

 神が森の木々を伐採して、お手入れされた状態になった丘に家を置いて、住み良い場所にしたのがナッツの家&庭だと説明された。


「神さまはすごいにゃねぇ」

 ママも一緒の来れたら最高だったのにとナッツは少し恨めしく思う。


「あの柵が結界の代わりになっていますから悪いモノは入ってきませんよ」

 広い範囲を囲った柵にシェルスは神はたいそうこの猫さまがお気に入りのようだと思った。そこに住める自分の幸運にも感謝している。


 三十分ほど歩くと平地になりポツポツ家屋が見えてくる。


「ミャーはこれ知ってるにゃ!にょどか(長閑)と言うにゃ!」

 ママがよくテレビで「良いねー」って言っていたと思い出したナッツは初めてみる景色に興奮気味だ。


「そうですね。この辺りは住みやすいと思いますよ」

 町の名はホープ。この国アルガントの中では小さい方の町だと説明される。


「ちょうにゃか?ミャーには全部おっきいにゃ!」

 町中はそれなりに雑多になっていき、生活感が溢れている。


「にゃ!下みゃち(町)ってやつにゃ」

「変な知識を持ってますねぇ」

「ご飯の準備中の匂いにゃよ」

 ナッツはママの調理中やご近所さんから匂う魚を焼く匂い、煮物の匂いを思い出して懐かしく思った。


 町に真ん中まで行くと商店や屋台が確認できる。ナッツはテレビでしか見たことのない人の営みに興味を惹かれた。

 完全な家猫だったので窓から見えた景色とテレビ画面の中がナッツの知る世界だったので、目に映るモノ、匂い、ヒゲを揺らす風すら全てが新鮮で楽しいのだ。


「ケット・シー?」

「え、エルフ!?」

「すごい組み合わせねぇ」

「ケット・シー初めて見たわ」

「・・・エルフも珍しいよ」


 道行く人がギョッとして立ち止まって小声で連れ合いに話す内容をナッツは耳で拾う。


 (またケットシーにゃ?ところでえりゅふってなんにゃかね?)と不思議に思ってシェルスを見ると普通の顔だったのでナッツもスルーした。









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