あの三人の先輩達はよく分からない

 太陽が私たちを見下す時間がやってきた。ジリリリリ、ジリリリリ……目覚まし時計が鳴っている。目覚まし時計が……あ、朝だ、私は夢を見ていたのだろうか。朝5時の起床。顔を洗って体を洗って、朝風呂だ。ゆっくりと浸かり終わったら朝ご飯を作って食べる。しばらくソファーの上で少し長めの二度寝をして、着替えてから学校に向かう。




 何事もなかったかのように。



 自転車の上で私は呟いた。我ながら、本当に神妙な顔をしながら。「にしても、夢オチって本当にあるんだな……あはは」、とか馬鹿みたいに、その呟きは向かい風に吹かれて消えていく。


 本当に静かな街。道路を通る人はビル街くらいにしかいない。みんな自宅から学校や職場までの自動運転車を使って空路を進む。お陰で私はいつも、静かな登下校とサイクリングを楽しむことが出来るのだけれど。


 もうしばらく漕ぐと校門の前に到着する。一応、というか申し訳程度に作られている駐輪場に私たちは自転車を止める。自転車登校の生徒は数少ないため、少し目をやるだけで誰が休みだかすぐに分かる。



 門の方へと向かうと自動空車カエルムに運ばれた生徒達が降りてくるのが見える。その後方を私は歩く。すると、いつも通りに同級生の朝の噂話が聞こえてくるのだ。楽しそうな声を弾ませて。(そう、噂話、信用ならない話だ。特に、魔法だとか魔法だとか、でも聞いているだけなら面白い)



「ねね、あの話聞いた?」

 短い髪の子が早速話題を切り出す。


「あの話って?あ、あれか!街の防犯システム全部掻い潜ったっていう切り裂き魔と戦った男の人!」

 それに何故か情報の早い友達は笑顔で応答する。何だその奇譚小説みたいな話。街の防犯設備なんかここ最近急に強化されたのにもうそんな人が出てきたの?

 そんな疑問を浮かべてるうちに話題を持ちかけてきた少女は、まあ、どうせと切り出し、

「嘘っぽいけどねー」

 とか言って毎度毎度、話は終わる。そう、所詮は噂話である。の、だが……今回に限りいつも通りとはいかないようである。


「もしかして、あの人だったりして……」

 校門の前を歩き回る灰色の髪の男を指さして、例の短髪の子の友人と思しきクラスメイトは声をひそめて言う。


 その男は背後を向いていて背中しか見えない。何処かで見たことがあるような、


「いやまさか、ね……」

 そう言ったのは、私であった。教室に入った途端に日常の感覚を思い出しつつも、何処か頭に引っかかったまま座席に着く。


 ある授業後の休み時間。


 私は、それまでぼうっと、ずーっと1日を過ごしていた。クラスメイトが目の前に手を振りながら声を掛けてきた。

「どうしちゃったの?今日まったく動かないじゃん」


「え?」


「あ……たしかに」


 同じ部活の短い髪の少女。霧華きりはな詩姫しきは自信満々に指を立ててこちらを向く。

「わかった!それは恋というものじゃあないかな?」


 キミは私の知る限り恋愛経験ゼロだろう。というか受けた告白を全て振っているだろう。自分から告白をすることなんてなさそうだし、


「だったら面白いんだけどね、」

 私はまた窓の方を向いてため息をつく。別に気分が悪いわけでも特に悪いことがあったわけでもないのに、ため息をついて外を見る。また気があさっての方へと向くところに、しきがおばちゃんみたいな声を出してこんな事を言った。


「やれやれ、つまらなさそうな顔をしてそんな事を言うもんじゃないよ」


「まあ、ね……」

 私は夢の断片を思い返し、何故か自然と笑顔になる。


「何次は急に笑顔になっちゃってんの!?別にいいんだけどさ!」


「いやあ///」

 そして自分でも分かるくらいに顔が緩み始める。そこまでかな、というか徐々に顔が赤くなっているのを感じる。何でだろ、


「こわっ!アンタの照れ顔マジで怖いんだけどぉ!?しかも初めて見たし……」

 そして、ひかれた。途轍もなくひかれた。が、鏡に映るようにしきの顔を赤くなっていく。なに、そっちこそどしたのよ、


「んー、なんで次はそっちが顔赤くなってるわけ〜?」

 私は覗き込んで来た顔を覗き返す。


「いっ!いじゃない、そんなことくらい……」

 まあ、いっか、


「ほらー、授業始まるぞー席戻れー」

 あ、せんせがやって来た。学校のおおまかなシステムは急激な科学技術の発展の後も変わることなく続いている。たまに旧体制の愚痴を言って授業を潰す碌でもない教師がいるのも変わらない……


「は〜い、」

 そして、授業が始まり──終わる。


「起立、例、さようなら〜」



 放課後──部活の時間がやって来る。


 五階の渡り廊下を渡って階段を下り、隣の棟へと向かう。五階からじゃないとアクセス出来ない変な位置にある教室。呪報学部じゅほうがくぶの部室。

「あ、どうも」

 ガラガラと、音を立てて私は静かな教室のドアを開ける。


「やあやあっ!どうだい?今日も慈愛に満ちて生きてるかい?」

 教室入り口の真横にある鏡に向かって(多分、私に)挨拶をするのは2年の永月ながつき司賢つかまさ先輩。いわゆる運動の爽やかイケメン……


『やあ……明日も勤勉に生きてるね……』

 パソコンから挨拶の音声を流してくるのは同学年の叢鮫むらさめ奏弖かなて。癖っ毛の間から、パソコンと連動するコンタクトがキラキラと光っている。


「ふふ、昨日も寛容に生きてたわね」

 開け放った窓の近くに座る。3年、なぎ霧恵きりえ先輩。整った顔立ち、艶のある長い髪を揺らして上品に手を振る。


 いつ見てもタイプの違う3人組。どうして、こんな部活が成り立っているのか、名前からして怪しいというのに。入学式の日、迷子ついでと連れて来られたこの教室のドアを開くと、私はいつも思い返す。


「せんぱいー、ほんとに何なんですか、この部活は……」

 伏し目がちにほぼと言っていいほどに何もない教室。あるのは鏡と黒板と少しの座席だけ。


「まあまあ、そんな事は気にしないでどう?入ってみる気はない?」と、凪先輩に入り口付近で話しかけられ当時の私はどうしたのだか、少し迷ったのか、それとも何か重要なことがあったのだかで入学初日、部活動説明会も参加する前に入部した。入部をしてのだ。特に他に入りたい部活も無かったもので、 


 私は、その時に見つけた小さな箱の布団の中で活動時間を過ごす。物騒な部活名に反して本当に

 何事もない暇人達の溜まり場である。一応顧問も居るし表向きはボランティア活動をしているらしい。


 ドアを開く度、頭に流れる回想が終わり、私は我に帰る。すると後ろから、ガラガラ、と音が鳴るのが聞こえる……教室のドアの音だ。


 そこに、ドアに、立っていたのは……

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