帝都ガパ
第1話 不浄のにおい
セロヒ内先住民族の末裔による自治区と、帝都ガパ、そして、ノベチに転移陣を置いたことは、サイードとナギル、そして四人の巫女たちのみが知っている。
ガパとノベチの寝室に存在する。
力の行使ができない者には見えない。
この日、ノベチにいるはずのサイードに呼ばれるとは、ハムザは予期していなかった。
氷の間に赴くのは久しぶりだ。
ハムザには、サイードに子が産まれたことも知らされていない。
サイードはすでに知っている。
ハムザ・アルマリクはウェセロフ帝国に内通していることを。
ハムザに従う、ディミトリ・レウシンは術士のひとりだと踏んでいる。
スルブに、ムラト・アダバシャンを紹介し、ハムザの眼が見えるようになった。
サイードの戴冠後、スルブはとても喜び、息子を連れて感謝の意を示してきた。
寝物語にムラトがハムザの眼を治した方法を尋ねると、スルブは「ムラトが術を使った」と言った。
悪いところは自然に再生する術なのだという。
「脚も治せるとは聞きましたが……ハムザに制御できるか心配だと言われたので、様子を見ます」
とスルブは言っていた。
そのスルブはハムザに殺された。
ハムザは眼の制御ができなかったらしい。
ハムザには、後宮から離れた後も、複数の眼で母親が兄と寝ている光景が見えていた。
その光景を何度も繰り返し望むときに見ていたらしい。
ハムザはそれと同じ行為をすることをスルブに求めてきたと、サイードは聞いていた。
以降、スルブはサイードを拒むようになった。
「ドォズナ教の修道院に行く」と言い始めたので、サイードは好きにさせるつもりでいたが、その前にハムザが殺した。
ハムザが殺したというのは、ハムザ自身から聞いた。
眼で操ったのだと言う。
スルブは浴室に顔をつけ、裸のまま溺死していた。
「お母さまが僕を拒むので、殺してから犯そうと思っていたのに」
とハムザは泣いていた。
脚が動かずに断念したのだと言う。
ハムザには、性的な奉仕も含めて行う、専属の侍女をつけたが、気に食わなければ、殺していたようだ。
これは当時、サイードも同じようなことをしていたが、立場が異なる。
片や皇帝、片や先代の妾の息子。
侍女長からジニズに話があって、サイードも知った。
ムラトを呼んで、ハムザの生活態度の改善について相談したところ、ディミトリ・レウシンを紹介された。
「術の制御のお手伝いができるでしょう」
とのことだった。
以降、ハムザの臣下に対する悪行は聞かなくなった。
時々スラムから人を拐ってくるという噂はあったが、不問にしていた。
国民でもなく、スラムに住まう者である。
そのぐらいの息抜きはあってもよかろうと、サイードは思ったが、ディミトリには
「外聞が悪くならない程度に
と申し伝えておいた。
ディミトリは「御意にございます」と答えた。
その時に、僅かなにおいを、サイードは感じ取っていた。
――
謁見の間からディミトリが去った後、サイードは「ふ」と嗤った。
サイードには分かる。
闇に蠢く「不浄の者」の臭いだ。
――
不死者であるサイードとは相容れない、死のにおいが残っていた。
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