32話
「おいしかった~」
俺は一緒に並んでいた白米のおかわりまでいただいてしまい立派にお腹を膨らませてしまう。やはり米が違う気がする。なんてことを力説してしまうのでいすみには、はいはいとあしらわれてしまった。そんな俺といすみは夕食を取り終えたので、食器を洗うことにした。さすがにサービスで食事を頂いたのでそれくらいしないとと思いいすみに聞いてみると「じゃあ、一緒にやろうか」
提案され、こうしてシンクに2人で並んでいるわけだ。なかなか異様な光景で少し気まずさを感じるがいすみはどうだろうかと思い横を見ると
「何?」
いすみもこちらを見ていたようで目が瞬時に合い俺は慌てて視線をお皿に向ける。
「ねえ?どうしたの?」
彼女はどこか楽しそうだ。そんな彼女を俺は無視して皿を洗う。そして洗った皿をふきんを持ったいすみに手渡す。
「冷た!もしかしてかけるん水で洗ってる?」
「そうだけど。どうかしたか」
「遠慮しないでお湯使っていいから」
正直お湯を使っていいのか迷っていたのだが、さすがに宿泊させてもらう立場の人間が光熱費を使うのはどうかと思って遠慮していたのだが、どうやら使用して問題ないようだ。手が冷えてきていたので俺は言葉に甘えてお湯で皿を洗うことにした。
「改めてだけど、いすみのお母さんて料理うまいよな。初めて食べた時はシンプルな和食だった気がするけどそれもおいしかったし、今日みたいな洋風もすごくおいしいしなんでもできるんだな」
皿を洗っていて俺は改めて感じたことを口にした。
「後で良かったらままに直接言ってあげて。そういうの喜ぶから」
「分かった」
横目に見えるいすみの表情はどこか嬉しそうで親と完全に仲が悪いというわけではないようで俺は安心した。
「何?なんか変なこと言った?」
「いや。何でもない」
まるでなんだか日常に溶け込んでいるような感覚を次第に覚える。そうして俺といすみは食器洗いを終える。そんな俺といすみしかいないはずの空間に誰かの気配を感じた。すると誰か知らない人が立っていた。
「長浜さんじゃん。おつ~雪すごかったよ」
どうやらいすみと仲が良さそうなのできっとここの関係者なのだろう。
「無事でよかったよ」
「長浜さんのおかげでまま迎えに来てくれし本当にありがとう」
俺の推測は正しかったようで長浜さんと呼ばれているこの女性はこの宿の従業員のようだ。
「そちらの男性が伺っていた今日泊まるお客さんですか?」
長浜さんは俺に軽く視線を向ける。その様子を察知したいすみは俺が反応する前より早くに
「そうだよ~部屋準備できてる?」
と答えてしまう。俺は介入する余地がなくなり頭だけ下げる。俺の思いは伝わったようで長浜さんも小さくコクリと頭を下げいすみに視線を戻す。
「ええ。できてますよ。2階の突き当りの部屋で」
「おっけー。あとで私が案内するよ」
「じゃあ、お願いします」
とこのままでは2人の間で会話が完結してしまいそうだったので
「あ、あの…」
何とか俺は会話に割って入ろうと試みる。するといすみと長浜さんは会話をぴたりと止めてこちらに目を向ける。
「その、突然なことにも関わらず色々してくださったみたいでありがとうございます」
俺は長浜さんに頭を下げる。
「気にしないで大丈夫ですよ。こちらこそいすみちゃんをいつも気にかけてくださってありがとうございます」
「は、はあ…」
気に掛けるようなことは無いのだがそう見えているようだ。特に否定することでもないかと思いその場をやり過ごす。
「違うって。私がかけるんを気にかけてあげてるの」
また長浜さんといすみのやり取りが始った。相当相性がいいように見える。しかし長浜さんにも時間があるようで腕時計に目を向ける。
「じゃあ、そろそろ帰るわね」
「もうそんな時間か」
ここに泊まり込みというわけではない様で、長浜さんはこれから帰宅するようだ。長浜さんはいすみに手を振って俺の横を通り過ぎる。そして耳元で
「末永くいすみをよろしくお願いします」
と囁く。
「いや、それってどういう…?」
「うふふ。それでは」
俺に取り付く島を与えず長浜さんは廊下を歩いて行った。俺は少し体温が上がったのを感じる。
「長浜さん何か言ったん?」
「いや、ちょっとうまく聞き取れなくて…」
「そっか」
いすみはもう興味は無くなったようで長浜さんを見送りに玄関の方まで向かっていった。さすがにからかっただけだよな。俺は、一瞬ありもしないもしもの話のことかと想像した自分を恥じたのだった。
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