第5話 代打顔合わせ
「雨宮君、午後からはトーワ商事さんだったね。急な事で悪いけど頼むよ。あと、先方の課長さんに会ったら今度のゴルフ、楽しみにしてたって伝えておいて」
来月のイベントの最終打ち合わせに出る前、課長の三ノ宮から声を掛けられる。
「ハイ。行って参ります」
外回りは基本少ないが、来月行われる出店イベントの担当者が、昨日骨折入院したために、急遽代打で打ち合わせる事になった。優秀なその同僚がほぼ準備は終えていたのと、元々当日は応援の予定だった上、最終確認と顔繋ぎが目的だから、気は楽だ。
秋晴れのカラッとした日差しが瞳に痛いくらいだが、暑くも寒くもなく快適だ。こんな良い天気に久しぶりの外勤なんてついている。
祐希の気分は上々だ。
知らず笑顔を浮かべ歩くサラリーマンに、性別を問わずに振り向く通りすがりがいることにも気づかず、祐希は目的の会社に向かっていた。
受付を通り面談スペースに通して貰う。
ネクタイが曲がっていないか気にしながらPCを準備して待っていると程なく担当が来た。
「遅くなりました。担当の南條と申します。
ノックとドアを開ける音、快活な良く通る声が頭上から重なるようなスピード感で聞こえてくる。
慌てて立ち上がり、ファイルや筒状にした模造紙を片手に持った、担当者と挨拶を交わそうとした。
が、一瞬固まる。
何故、あの人かここに?
「どうされました?雨宮さんですよね?」
ハッとして名刺入れを取り出し、型通りの名刺交換する。祐希は上の空のまま席に着いた。
ドキドキドキ。自分の心臓の音が聞こえるようだ。だが、仕事をせねば。昨夜の罪悪感があり顔を直視できないまま、仕事は意地でこなした。
何とか代打に相応しい仕事を終えられ、ホッとした祐希に南條が満面の笑みを向けた。眩しい。
「では、今回で最終確認できましたので、当日の進行含めて今後何かあれば、ご連絡させて頂きます」
「はい。骨折された担当の方には気の毒ですが、私は雨宮さんとご一緒できて役得だと思っています。当日までお会いする機会が無いのが残念ですね」
真面目な顔を取り繕う祐希に、ウインクでもしそうな魅力的な顔で、帰り際に冗談を言われ、逃げるように取り引き先を飛び出した。
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