劣弱と言われた最強護衛

佐藤 拓磨

第1話 入学式

ー数年前ー


…俺は一人の少女すら、守ることのできない人間だ。


あいつのおかれている環境に比べれば、俺の現状なんて些細な事。


あいつを守るために必要なことは全部やる。


そのために俺がするべきことは…












ー現在ー


俺の名前は黒崎 迅。これといった特色もない威勢が強いだけの一般人だ。


公家院という由緒ある家系の護衛の仕事をしている。


この由緒ある公家院家の次女、「公家院 華」という少女の護衛の仕事をするために生きているといってもいいくらいだ。




「どうしたの?そんな顔して?」




長い黒髪を揺らして俺の顔を覗き込むように声をかけてきたのは、公家院 華。




「べつになにもありませんよ。お嬢」




「そんな警戒しなくてもここは安全な学院の中だから大丈夫だよ」




そう、ここは魔法を学ぶ学院。名称はイリーナル学院。学長のジェフ・イリーナル学院長のもと開校された場所である。


お嬢と俺はこの学院で魔法を学び、将来有望な魔法師になるために入学した。


いや、正確にはお嬢だけが有望な魔法師になるため、が正しい。


俺は落第ギリギリ、温情みたいなもので受かった凡才なのだから。




「ここが学院だろうと警戒するのは護衛として当然。常に身を守るのは当たり前のことですからね」




「まぁ、言い分はわかるけどさ。それよりなんでずーっと敬語なの?昔みたいに華でいいじゃん。よそよそしいよ」




「改めて主人と護衛って形なったんですから。昔みたいにはいかないでしょう。この形でないとそばにいることさえできなかったんですから」




「…父様は頭がかたいのよ。迅が強いのは周知の事実なのに。制約だのなんだのって。迅は操り人形じゃないのよ」




いらだちを隠せず、自分の親に対し明確な敵意を見せる華。


そんな物騒な話をしているにもつゆ知らず、あたらな人物が話を遮る。




「これはこれは。公家院家の華様じゃないですか。これは申し遅れました。私はアレクシス家の長、アレクシス・サンドロスです。以後お見知りおきを」




アレクシス家…。子爵程度の分際で声をかけるなんて。身の程を教える必要があるか。




「こんにちわ、アレクシスさん。あなたもこの学院に入学したんですか?これからよろしくおねがいしますね」




「こちらこそあの数少ない公爵の家系と同じクラスで勉学を学べるのはうれしい限りです。


…ところで、その隣にいる男は?まさか、護衛などということはないですよね?」




「そのまさかですよ。紹介が遅れました。私の護衛をしてくださる黒崎です。見かけによらずお強いですよ。」




「またまた御冗談がお得意で。そんなどこの者かも分からないようなやつを側近に置いているとあなたの評判に関わりますよ」






「…ご忠告痛み入ります。それではまた」




しずかにその場から離れようとする華。言葉の節々には怒りがこもっているように見える。


歩き出す後ろ姿を追いながら、ふと振り返るとサンドロスが鋭い目でこっちをみている。


お嬢…ではなく、俺を見ているのか。家柄のいいお偉いさんは階級だなんだって気にしがちだからか、俺みたいな平民は敵意むき出しってことか。




「腐っても子爵。話の途中で離れてもよかったんですかお嬢」




「あなたのことがわからないような人に何も話すことはありませんよ。それ子爵だ公爵だってそんなのにはもううんざりしていることも知っているでしょうに」




そりゃそうだ。次期後継者としての地位にいるばかりにいろんな重圧がかかっている現状でこれ以上下手なことに首突っ込みたくない気持ちもわかる。


そんな話をしていると入学式会場に着く。




「それじゃあ私はあいさつ回りに行くから、迅はいろいろ見て回ってきなさい」




そういって、その場から離れる。これからお嬢はお上の方々との話だ。護衛としてそばにいたいが難しい時だってある。




「お気をつけて」




一時のお暇を経た俺は周りの探索を始める。


おそらく同級生、または上級生の生徒が行き来している姿を眺めながらつぶやく。




「…今から3年間か。無事に過ごせるといいけど」




そんな独り言がこぼれる。


今後のことを考えるとこんなことをしていていいのかと考える時もあるが、この学院内なら一番安全に目的に近づけるのも事実。あの日の決意を現実にするために前に進むしかない。




「お前も1年生か?今から3年間を気にするなんてとんだビビりだな」




元気な声がそう問いかける。


振りかえると2人の男女がこちらに話しかけてきていた。




「ちょっと。デリカシーなさすぎ。このゴリラがごめんなさいね。悪気があるわけではじゃないの。バカなだけなの。許してちょーだい」




「おい。お前にバカ呼ばわりされる筋合いはないぞ。ウサギ女」




「はぁ!?いい度胸してんじゃない!そのケンカ買うわよ」




最初に話しかけてきた体格のいい男と口の悪いツインテールの女が勝手に話が進めていき、ケンカが始まる。




「痴話げんかか?冷やかしなら帰ってくれ」




「「そんなんじゃねーよ」ないわよ」




「…それはすまない」




おまりにも奇麗にハモるものだったから思わずおされてしまった。




「自己紹介がまだだったな。俺の名前は黒崎 迅。今年から入学する1年生だ」




「おう、迅か。よろしくな。俺の名前は東郷 大樹。1年生だ」




「私もこいつと同じ1年生の宇佐 美鈴よ。ウサミってよんで」




「よろしく。大樹。うさみ」




「ところで迅はなにしてるんだ?もうすぐ入学式があるから会場に向かわないといけないだろ?」




不思議そうに聞いてくる。




「周りの探索ってとこかな。そうゆうお前たちも同じ質問を返すが?」




「私たちはこのバカが道に迷ってね」




「ここは広いから道に迷っても不思議ではないだろ」




「…比較的1本道な気がするが。まあ人それぞれ得意不得意はあるからな」




「おう。迅は話が早くて助かるぜ」




「こんなやつほっといて早くいきましょ。話するだけ時間の無駄よ」




2人してまた口喧嘩をしながら歩きだす。2人の関係性は見たまんまの関係なのだろう。


有名な魔法学校なのだからある程度爵位のある人物が多いと思っていたが、そんなわけでもないようだ。俺も変に浮くこともないだろう。少し安心だ。


そんなことを考えながら、俺も会場に向かって歩き出す。


















会場に着き、次々と生徒が入ってくる。




「そういえば今年の代表は腕っぷしがいいらしいぜ」




「そうやってすぐ腕が立つかどうかで判断するのやめなさいよ」




「男なら強さだよなあ迅」




肩に手をまわしながら楽しそうに語る。


俺はため息をつきながら答える。




「強さってのは魔術の強さか?それとも魔力の総量の話か?どちらにせよ少なくても使い方次第だと思うがな」




「そんなのはここに決まってるぞ!」




腕をまくり、上腕二頭筋を見せつける。


こいつの言う強さって筋力を指しているのか…?この魔法学校で?ある意味すごいやつが入学できたもんだな。…まあ俺も人のことは言えないが。




「体術が悪いとは言わないが、魔術の話になると埋めることのできない差は存在するぞ」




「迅の言う通りよ。脳筋だけがすべてじゃないのよ」




「うるせー。似たようなやつが文句言ってんじゃねーよ」




「はあ!?私はあんたみたいな筋肉だるまじゃないわよ!迅が信じたらどうすんのよ。バカ言わないで


!」




「べつに俺はなにも気にしないが。まあ、大樹が脳筋なのは話の節々から感じ取れるな」




そういって騒いでいる様子が目立ったのか、俺たちが座っている場所を挟んで向かい側から目線を感じる。同じ1年生だと思う。気に障ったことはしてないつもりだが。




「あまり騒いでいるとあっちの視線が一層厳しくなるぞ」




「ああ。秀才様や爵位持ち様たちは俺らのような凡才がいるだけで不快なんだろうよ。でかい顔して見下すことしかできないかわいそうな奴らだよ」




「この学院のわるいところよね。優劣つけて取捨選択しているんでしょ」




「しゅしゃ・・・?嚙んだのか?」




「はぁ…。ほんっっとにあんたはバカね」




「うさみが言いたいのは成績の良い連中だけ表に出せればいいって話だろ。まあおれは他の考えもあると思うがな」




「ほかに何があるっていうのよ」




「そもそも学院長は爵位持ちを持ち上げるような政策はしてない。ここの学生たちが勝手に優劣つけてるだけだ。おれらのように魔術に長けていない奴らが入学できるのも理由があるってこと」




「その理由を聞いているんだけど」




「そんなのはいいじゃねえか。周りが何と言おうが気にしなければ大丈夫ってことよ」




目線の先ではお嬢の姿が見える。多くの生徒に囲まれて困っている様子だ。


うまく馴染めているか心配だったが、杞憂だったか。




「公家院家の次女は引っ張りだこだな。てっきり代表かと思ったが、あそこにいるってことは違うみてーだな。当日に腹でもくだしたか」




「そんなわけないでしょ。今回の代表は他校のトップ張ってる人の弟だっていうじゃない。そこそこ名のある人物ってことはそれなりに実力があるってことよ。誰しもが最強じゃないのよ」




そう。お嬢は公爵位の家系だが最強と言えるほどの実力はない。うさみの言う通り家系=強さに匹敵する世の中甘くない。嫌というほど見せつけられてきた。




「新入生挨拶。代表、レオナルド・テリオス」




金髪のさわやかイケメンが挨拶を行う。


テンプレートなお決まり文章を読んでいるのを聞き流す。


これからいろんな困難があるだろうが、お嬢の護衛として邪魔になるものは排除していく必要がある。それがたとえ公家院当家であろうがこの学院であったとしても。今の俺の力じゃ守ることは難しい。もっと強大な敵に対しても戦えるようにしておかないと。










これから長い長い物語の序章がいま語られた。


これから幾多の障壁を乗り越え、名実ともに最強の名を手に入れるのは、果たして誰になるのか。


彼か、または彼女か。この続いてく話をお見逃しなく。

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