第34話
私は子供達を安心させるために、急いで部屋へ戻った。
私の姿を見て飛びついてくる、小さな体を受け止める。
ただでさえ、非情な環境に育っている。
あんな怯えたような顔や、不安に胸を締め付けられるような顔を見ていたくはない。
きっと、お二人共に、戻ってくるだろう。
そう信じて、私自身の不安を消す。
子供達に見破られないように。
◇
所詮は、違う世界の人々の話。
そう考えていたはずだった。
それがまさか、彼ら家族が、これ程心を占めることになろうとは。
ほんの少し手を貸すことになっただけのはずが、よもや救われるのが私の方だったなどとは、思いもよらないことだった。
いつの間に、こんなに深く、大切にしたいといった想いが、芽生えていたのだろうか。
この館を、家族を、愛するようになったのだろうか。
保護官となったのは、生まれ育った環境で出来ることが、これしかなかったからだ。
そのせいか、面倒を見られる側から見る立場へ変われど、孤児院で子供達を見ることは、過去の自分を見ているような、あしらっているような――どこか閉じた感覚でいた。
素直な喜びや、胸を掻き毟りたくなるような苦しさといった、様々な強い感情。
それらに触れたことで、自分と外の世界を隔てるように覆っていたものが、いつの間にか剥がれていたのだと知った。
この世に対して、ただ傍観者だったはずが、この世界の登場人物であるのだと、否が応でも生々しい感覚が示していた。
遠くない未来に、私は元居た世界へと戻る。
子供達が自分で身支度を出来るほどになるまで成長を見届けたら、契約は終わりなのだから。
そしてまた、同じ職場に、予想できる未来が待っている。
だけど、以前のまま続けていたのとは、全く違う自分を想像できた。
もう、面倒を見るのは、無数の自分自身ではない。
一人一人に生があり、その先にそれぞれの道がある人間なのだ。
このお屋敷で、ご家族と、真っ向から向き合い過ごせたこと。
それは、この先、生きていく上で力を与えてくれるだろう。
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