第18話 普通とは思えない頼み

停電から数分後、やってきた研究員たちによって多くの一般客は外へと避難し、もちろん俺もその人の波に乗って外へと避難した。だが、休日のショッピングモールというだけあってかなりの人数が避難したため、カゲリとラルラと合流するのは無理そうだ


しかし、別の人物とは合流することができた。薄桃色に染められている髪で、いかにも緩そうな顔をしていながら賢き者の証である白衣を着こなしている女性。『国立研究開発大学 歴史遺物研究室』に所属する大学生、我が姉リソウだ


「やっぱ普通に避難してきたね。待ち構えといてよかったよ」


ショッピングモールの外では白衣を着た研究者と、スーツを着ているどこかの法的機関の役員がやってきていた。状況的に警察などの武力行使が許されている組織だろう


で、休日に友達と遊んでいただけの、しがない学生である俺はなぜ姉に手を引かれてショッピングモールの中に入れられそうにしているのだろう?


「早く行くよー。お姉ちゃん、お腹空いてるから、さっさと終わらせようね」


「おい待て姉よ。なんで俺が手伝わなきゃならないんだ」


「カキネって目と耳がいいでしょ? だから実験体の捜索に役立つと思って。今のうちに武勲を上げて周りからの評価を上げておきたいのよ」


「私欲だな」


「私欲で何が悪い。今を生きる人間は、みんな私欲が原動力だからね♪」


俺はため息を吐き、観念して姉についていくことにした。まあ、姉のわがままを聞くのは弟として普通のことだろう。にしても、よく一般人の俺が実験体の居るショッピングモールに入るのが許可されたな。身内とはいえ普通ダメだろ


ラルラに「姉に捕まった。合流送れる」とメッセを送り、スマホをポケットに戻す。そして、姉の後を追いショッピングモールの中へと入る


ショッピングモール内はいまだ停電が続いており、暗闇に包まれていた。しかし、店内が荒らされている様子もなく、ちらほらと他の研究員やスタッフもいるため不気味には感じない


大所帯というほどの人数ではないが、北入り口付近だけで三人組の捜索隊が二組。奥の方にも「光系統魔術」による光がいくつも浮かんでいる。これだけの人数で捜索をすれば、実験体とやらもすぐに見つかるだろう


いや、逆か。これだけの人数で捜索しているのにも関わらず、その実験体は尻尾すらつかませていないのか


とにもかくにも、情報がなければ俺は役に立てない。まあ、実験体というぐらいののだから、人じゃない怪物を探せばいいのだろうけど


「手伝うんだから、その逃げた実験体の情報ぐらいは教えてくれ」


「んー? えっとね...水銀の水性生物みたいな? 水銀スライム?」


「なら、下水から逃げられて終わりじゃないか?」


「それは無理っぽいよ。完全な水性生物ってわけじゃないみたいで、六割だけらしいよ。捕まえるときは氷系統使ってね。」


「ああ、そうする」


「あと、逃げ遅れた客がいたら注意してね」


「おいこら、ここにいるぞ」


「都合の悪いことは聞かない主義でーす」


「まったく...」


この姉は昔からこういう人物だ。自分中心でことを動かし、自分が活躍するためならどんな手段もいとわない。能天気な顔をして、中身は腹黒な功績を残すことが大好きな努力家。それが、俺の尊敬するリソウという姉だ


「捜索が済んでいる場所は『南入り口付近』と『東入り口付近』と『』の3地点。私たちは『北入り口付近』から『施設中央』にかけてを捜索するよー」


「あいあい」


「それじゃ...793!」


姉の放った魔術によって、北入り口から施設中央にかけてを、光の球体が風によって駆け巡り、周辺を照らし続ける


周辺を捜索していた捜索隊が目を丸くして驚き、こちらに目を向けているのが良く見える。自身気に手を組み、ドヤ顔の姉の横顔もよく見える


これなら、実験体を見逃すことは無いだろうが、これでも姉は優秀な人間だ。わざわざ俺の力を借りなくても大丈夫だろう。本当に、役に立つという理由で連れてこられたのか疑わしい


「それじゃ、行こっか!」


「はいよ」


「手でも繋ぐ?」


「お姉ちゃんが繋ぎたいなら」


「じゃっ、いただき~」


そう言って、姉は俺の手を掴むと同時に引き寄せて、まるで恋人かのように俺の腕をギュッと抱き締めてきた。そのまま、悪戯な笑みを見せて、前へとズカズカ引っ張っていった


流石に慣れたから動揺はしないが、もし家族じゃなければ普通の思春期の男子である俺はドキドキしていただろう。本人曰くDはあるらしい


にしても、本当にただ出掛けていただけなのに、面倒なことに巻き込まれたものだ。普通の休日を、過ごす予定だったんだがな

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