翡翠の目覚め
酷い倦怠感から目を覚ました翡翠は、あり得ないほどの体のダルさに顔を
頭痛や吐き気はないものの、ほんの少しも動きたくないという倦怠感を伴う二日酔いに、もう一度眠ってやりたいと思うほどだった。
それでも部屋の薄暗さから陽が暮れている事が分かり、今日も仕事に行かなければならない翡翠は渋々起き上がろうとした。
その直後、翡翠はようやくそれに気が付き、起き上がり掛けていた体を横向けにして寝転がった。
翡翠の隣にはスヤスヤと眠る藍子がいる。
翡翠の方に向けている体を少し丸めて眠る藍子は何故か制服姿で、どうしてこんな格好なのかと翡翠は不思議に思った。
しかも翡翠自身はパンツ一枚の格好だから余計に不思議でならない。
格好の温度差に首を傾げた翡翠は、頬を引っ張って藍子を無理矢理起こすという少々乱暴な行為に出た。
右頬を引っ張られ「んー」と唸った藍子は、そのあと「いてて」と言って目を開く。
まだ寝惚けてるという感じが全面に出ているその目を見つめた翡翠は、「何で制服で寝てんだ?」と疑問を投げ掛けた。
「んっ、お兄ちゃん、おはよう」
「おう」
「二日酔いは……?」
「体ダリい」
「んー、そっか」
「心配しろよ」
「してる。してるから、ほっぺた引っ張るのもうやめて」
今度はわざとらしく「いてて」と言った藍子の頬から手を離した翡翠は、「何で制服なんだ?」と繰り返す。
それを聞いた藍子は少しムッとした表情をつくり、「お兄ちゃんの所為だよ」と不貞腐れた。
「俺の所為って何だよ」
「お兄ちゃんが制服掴んだまま手え離してくれなかったんじゃん。あたし補習も行けなかったんだよ?」
「全然記憶にねえ」
「今日行かなかったから、補習が終わる日一日延びちゃった」
「一日くらいいいだろ」
「補習終わった次の日は、友達とプール行く約束してたのに」
「文句ばっか垂れてんじゃねぇよ」
「文句じゃないよ。意見だよ」
「あー、はいはい」
「お詫びにプール代出してね」
「お詫びだあ?」
「うん。お詫びに二千円」
「高えな、おい」
「じゃあ千円でもいいよ? それならいいでしょ?」
「よくねえよ」
「えー」
「まあでも、千円くらいならやってもいい」
「本当?」
「その代わり、舌舐めろ」
言って口から出した翡翠の舌を、藍子は躊躇いもなくペロリと舐めた。
ただ当然それで終わる事はなく、翡翠は藍子の体を抱き竦め、藍子の甘い舌を吸い上げて味わう。
そうやって暫くの間その舌を堪能した翡翠は、唇を離すと藍子の濡れた唇を指先で拭い、「寂しかったか?」と問い掛けた。
「うん。寂しかった」
「本当かよ」
「うん。本当」
「なら、電話くらいして来いよ。完全に無視じゃねえか」
「だってお兄ちゃんはあたしに怒ってると思ったから」
「赤点多かったからか?」
「うん」
「今更そんな事で怒るかよ」
「いよいよ怒ったのかと思った」
「お前の頭が悪いのは分かってんだから、今までもこれからも怒ったりしねえよ」
「そっか」
「そうだよ」
「じゃあ、寂しかったからお詫びに二千円くれる?」
「てめえ、それが目的で寂しかったって言いやがったな?」
「二千円希望!」
「お前、その強引さ誰に教わった?」
「二千円!」
「あー、もう。分かった、分かった」
「本当に!?」
「明後日の俺の休みにヤりまくるってのが条件な」
「え? 今はシないの?」
「シてえか?」
「え? シたいって言ったらいくらくれるの?」
「てめえ、この野郎」
クスクスと笑う藍子を、同じように笑った翡翠は強く抱き締め、その髪に顔を埋める。
藍子の熱を肌で感じる翡翠は、ここ数日の疲れが取れていくような気がした。
藍子の匂いと熱に包まれているような気持ちになる翡翠は、藤堂家のこの穏やかな日々がずっと続けばいいと密かに願う。
不可解な兄 完
藤堂さん家の複雑な家庭の事情 ユウ @wildbeast_yuu
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