第3話

日向 和(ひゅうが やまと)。



二度と聞くことはないと思ったその名前を、どうして私が働く職場の朝礼で聞かされなきゃならないんだ。



しかも、今日から一緒に働く同僚として紹介されるなんて……悪夢としか言いようがない。



いっそ本当に夢ならいいのに。



頬を思い切り捻ってみて、自分の指の力に涙が滲んだ。



夢、じゃないよね。



現実なんだ。



これから毎日あの人と顔を合わせなきゃならないんだ。



……最悪。



「砂(すな)、終わったよ」



「は、?」



肩を揺すられて我に返った。



周囲を見ればガタガタと音を立てて椅子から立ち上がり、一つしかない扉から出て行く職員の姿。



朝礼終わったんだ。



砂、と私を呼んだ、同僚で看護師の真柴 彩月(ましば さつき)が怪訝な目で私を見下ろしている。



「あ、ごめん」



慌てて立ち上がり、出入り口に向かう波に混ざって歩く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る