第32話

「変わってないね」



校舎も、廊下も、教室も、なに1つ変わっていなかった。



あの頃のまま、懐かしくて愛おしい空気のままそこにある。



ここで颯斗に出会い……恋をした。



今、心が成長した今なら、はっきりと分かる。



なりたかったのは、颯斗の『親友』にじゃなくて『彼女』だった。



言い訳を並べて、嘘をついて、自分の気持ちから逃げて……。



そんなことばかりして、颯斗の特別になんてなれるわけがなかった。



そんな嘘ばかりの自分は、自分だって好きになれないし、颯斗にも、他の誰の特別にもなれるわけない。



今ならあの頃どうすればよかったか分かるのに……。



でも、もう遅い。



颯斗には特別なコがいる。



「あ、ここだ。俺らの教室」



颯斗が1年の時の教室へと入っていって、教室の電気を点けた。



真っ暗だった教室がパアッと明るくなる。



そして彼が腰掛けたのは、私達が初めて隣同士になった場所だった。



「ホラ、百合はここ」



自分の隣を指差しながら手招きする。



促されて昔自分が座っていた椅子に腰掛けた。



「……こんなに近かったんだね」



お互いに向き合って座って気付いた。あの頃もこうして同じように向かい合って喋った。



隣り合う席はこんなにも近くで相手を感じてドキドキしてた。



楽しくて、嬉しくて、幸せだった。

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