かま☭つち

直江よつは

第一インターナショナル 入学式

(どうしてこんな時にっ……!)


 少女は自転車のチェーンが外れたらしくそれを直すのに苦労していた。

 綺麗な制服と裏腹に少女の手は汚れている、周りの人々にその様子は見えていたが通勤時間帯だからか誰一人手伝おうとはしない。


 ヤバい、遅刻する、もう近くのショッピングモールに自転車を置いて走っていくか……? そう考えていると少女の横に自転車が泊まり


「あのー」


 少女は話しかけられた。


 声のあった方を見てみると自転車にまたがっている同じ制服を着た女子生徒が居た。


「もしかしなくても困ってます?」


 その女子生徒は自転車から降りることなくまたがったまま更に話しかけてきた。

 チェーンが外れて困ってるという事実を伝えようと口を開こうとした時


「ああ、チェーンが外れてますね」


 女子生徒が先に口を開いた。

 そして女子生徒は自転車から降りると少女の自転車のチェーンをいじりだす、そしてしばらくするとペダルを4、5回回し


「直りましたよ」


 あっという間に直してしまった。

 少女は感謝の言葉を述べる、すると女子生徒はその言葉を受け取り


「戦車兵として整備はなれてますから」


 戦車兵? ジョークだろうか? 少女がよく分からないボケに返す言葉を考えこんでると女子生徒は自転車にまたがりはじめる、とっさに


「本当にありがとうございました!」


 少女の二度目の感謝の言葉に会釈すると女子生徒は走り去って行った。少女は走り去って行く自転車のフレームが目に入った、そこにはT34と手書きで書いてあった。


(T34? まさかな……)


 考え込みたかったが少女は自分が遅刻寸前なのを思い出して考え込むのをやめた。少女は汚れた手でハンドルを握り学校に向け自転車を走らせた。



 学校には間に合った。自転車を停め、急いで張り出されているクラス表に目を通す。


「えーと、東住とうずみ、東住……あった! 一年六組か」


 少女、東住はそこからは急がず下駄箱に靴をいれ、教室に向かった。息を乱して教室に入るのも目立って仕方ない、息を整ながら教室に向かう、ご丁寧に一年生の教室は三階だと張り紙が貼ってある。

 

(よりによって三階かよ!? 一番疲れるじゃないか!)


 東住はしぶしぶと階段を登り始めた。

 

 階段を登り終え、一年六組の教室に行くまでに先ほどの事を考えていた。


(Т34ってまさかあのТ34か? いやもしや[※1]アメリカのか?)


 しかし、同じ学校とはいえ会うことはないだろう、考えても仕方ないとの思考に陥り自転車を直してくれた恩人について考えるのはやめた。


 一年六組のドアは片方だけ空いていた、こういう時は教壇側だけ空いてるものだ、そして初日という事もあり入室すると教室にいる生徒みんなに見られるのだ。少し嫌だなと思いながら教室に入る。


 案の定色々な人に見られる。席が一つポツンと空いている恐らく自分の席だろうが一応黒板に貼ってある座席表を見て席を確認し、教室を見渡す、すると教壇を上にした時に一番右上の席、すなわち出席番号一番の席に、そこには恩人がいた。目が合う、アニメや漫画のようにあんたは今朝の人! とでも言うべきだろうかと迷ったが東住は軽い会釈をして自分の席に座った。


 座ると恩人の後ろ姿を席から見た。まさか同じクラスになるとは……と思っていると教師が入ってき、入学式を体育館で行うので体育館に案内するから教師に付いてくるように言った。


 ゾロゾロと生徒が集まり教師に付いて行き、一年生全員が体育館に集まった。


 しばらくすると入学式が始まった。

 最初のプログラム、初めの言葉が終わり国歌斉唱が始まる、これ微妙な空気の中、教師だけが小声で歌って終わるんだよなと東住は思ってると、どう考えても国歌斉唱とは違う歌声、それも日本語ではない歌声が聞こえてきた。周りは驚いているが東住含む3人だけが歌の正体に気づいた


(こ、これ…………ソ連国歌だ!)


 東住は皆の注目を集めながらソ連国歌を歌っている人物をかすがながらに見る事が出来た。それは教室で見ていた後ろ姿だった。つまり朝、自転車を直してくれた女子生徒だった。


(ちょっ! 国歌斉唱だぞ!? なぜソ連国歌なのよ! いや国歌は国歌だから良いのか?)


 東住は心の中でツッコミをした。


 その後ザワザワとしたまま国歌斉唱は終わりその後のプログラムはなんのこともなく過ぎ去っていき、入学式は終わり、教室に戻った。


 教室に戻った後は教科書が配られたり今日からいく日かの予定が説明された。

 そして最後に自己紹介を行う事になった。一番最初に自己紹介する事になるのは出席番号一番の人、つまり恩人である女子生徒であった。


Здравствуйте ズドラーストヴイチェ товарищиタヴァーリシ(こんにちは、同志諸君)安心院美香あじみみかです。好きなものは……というか国なりますがソビエト連邦が好きです。一年間よろしくお願いします」


 簡素だがインパクト大な自己紹介に周りは唖然としてたが先程のソ連国歌に気付いていた三人が拍手し始めるとそれに続いて拍手が起きた。


 安心院が一番最初のあいさつをし、数人やった後、例の三人のうちの一人である少女の出番になる。


渋谷紀公子しぶやきくこです。わたくしはベルリンの壁などで有名なドイツ民主共和国、いわゆる東ドイツの物を集めるのが趣味です。今後一年間よろしくお願いします」


 そう言い、深々と例をする渋谷に安心院はまるで欲しいおもちゃを見つけた子供のような眼差しで渋谷を見つめ拍手をした。


 そして東住の番がくる


東住優とうずみゆうです。先に二人同じような人がいましたが私も東側諸国と言われる国々が好きです。よろしくお願いします」


 平静を装っていた東住だが心の中では


(言っちゃったー!! 東側諸国が好きなことは隠していこうと思ってたけどなんか流れで言っちゃったー!!)


 少々混乱し、自分では分かっていなかったが頬が赤く染まっていた。


 そして安心院のソ連国歌に気付いていた三人、渋谷、東住、そして最後の一人の自己紹介の時がきた。


宮里英莉みやざとえりです。日本の社会主義化を目指して活動していて日本社会主義連盟という団体に属しています。もしご興味があれば話しかけて下さい、よろしくお願いします」


(なぜだ、なぜ4人も東側寄りの人が集まってるのよ、まさか更に出てくるんじゃないだろうな)


 東住が謎の心配をしたがその後、東側諸国が好きだと言う人は出てこなかった。


 自己紹介の後、ホームルームを終え皆が帰るなか安心院は東住のところに寄り話しかける


「今朝のひとー!」


 少々呆れながら「東住よ」と返す、それを聞いて言いなおすように


「東住さん、まさかタヴァーリシだったとは思わなかったよ!」


 そこに宮里も来る、それに気づいた安心院が「おお! もう一人のダヴァーリ…………」と言いかけたとこで口が止まった。宮里をゆっくり見上げながら止まった口から出たのは


「う、おぉ……」という引き気味に驚いた声だった。

 安心院が引き気味に驚くのも無理はない、安心院と宮里の身長はかなりの差があった


「あなた背高いのね」


 驚いて声が出ない安心院に代わり喋りかけたのは東住だった。


「ええ、180近くあります」


 やや照れ臭く言うと「180!?」と安心院と東住から驚きの声が上がる、それもそうだろう、女性で180cmあるのは珍しい


 「まるでロコソフスキーのようだよ」


 東住は安心院のその言葉の意味が分からなかったが聞きはしなかった。もう高校生なのだからいちいちどうして? と聞く園児でもあるまい


「そう言えばもう一人[※2]優等生が好きなタヴァーリシがいたよね」と言い教室を見渡す安心院、すると特徴的なリュックに配られた資料を入れる渋谷の姿を見つけ、声を掛ける。


「東ドイツー!」と呼びながら渋谷の元に駆け寄っていく、安心院に合わせるように残りの二人も渋谷の元に近づいていく、歩きながらあんたは人の名前を覚えるつもりがないのかと内心的ツッコミをいれる東住、声に出してツッコミたかったが初対面プラス今朝の恩恵もあり声には出せなかった。


「あ、はい、渋谷紀公子です」


「渋谷さん、それ東ドイツ軍のバックパックだよね?」


「はい、そうです。このストリヒターンカッコよくて好きなんです、ちなみに実物ですよ」


「ストリヒターン? レインドロップじゃないの?」と安心院


「レインドロップであってますよ」と渋谷、続けて口を開き「レインドロップは英語での言い方でドイツではストリヒターンと言うんですよ」とうんちくを話した。


「へー、知らなかった。ちなみに私はソ連地上軍がアフガニスタン侵攻で使ってたバックパック、いわゆるメショクを使ってるよ、まぁ、ポケットとかは取って[※3]第二次世界大戦使用にしてるけどね」


 お互いの使ってるリュックの話をしていると教師がやってきて、そろそろ帰るようにうながされた。

 

 四人は分かりましたと返事すると各々の机に向かい配られた資料を入れた。


 四人は教室を出るタイミングもなんとなく一緒になり、外に向かい始めた。

 

 外に出るなりいきなり


「ああ! そのバックパックはぁ!」と安心院が声を荒立て東住を指さす。

 いきなりのことに戸惑い、東住、宮里、渋谷の三人は足を止める。


 これがどうかした? と東住が言いかけたところ安心院が遮って


「[※4]RD-54じゃん! R! D! 54!」


「ああ、これね、よく知ってるわね、そうよRD-54よ」


「うおおおお! 初めて見た。見せてそして触らして」


 興奮する安心院に背負っていたRD-54を降ろし渡す東住、安心院はRD-54を受け取ると


「これがRD-54かぁ! 質感はやっぱりソ連特有な感じ、マガジンポーチにグレネードポーチ、ここにAKのマガジンやRGD5が入るのかぁ、シャベルケースは家?」


「ええ、そうよ」


「おお! 買うとなかなか付いてこないシャベルケースも付いてる完品とは!」


 と一旦区切りRD-54を背負ってみる安心院


「なっ! 私のメショクと違ってめちゃくちゃかるいやすい! ふぉぉぉぉぉぉ!」


 興奮冷めやまない安心院を東住は引き気味に見ながら


「あのー、申し訳ないんだけどそろそろいいか?」


「え? ああごめん、つい嬉しくなっちゃって」と言い、安心院は背負っていたRD-54を東住に返した。


RD-54を受け取った東住は「私としても何か嬉しいわよ、RD-54にここまで喜ぶ人が現れて」と返す


 でも何が一番嬉しいっかって言われたらさと言い、少し間を開けた後、安心院は

「高校入学早々東側好きのみんなに出会えた事だよ!」


 それを聞いてみんなから笑みが生まれる。


 そして安心院は四人で一緒に帰ろうと提案する。三人は承諾し、それぞれ自転車を取りに行き一つの場所に集まる。


 集まったところで東住は安心院の自転車のフレームに書かれていたT34を思い出し、質問する。


「ねぇ、そのT34ってソ連の戦車のT34?」


「うん、そだよ、私のT34-85、まぁ中二の時に書いたやつだから文字が汚れてきてるけど」


「一応、[※5]85の方なのね、強くて安心したわ」と冗談まじりに答え、今朝の謎が解決し、納得する東住


 じゃあそんなこんなで行こうかと安心院が言ったかと思うと「Танкタンク вперёд!フピリョート(戦車前進!)と声を上げ


「キュルキュルキュル、ダーン」と履帯りたいで走る音と砲撃音を叫んだ。


それを見た東住は「子供か!」とツッコミを入れざるをえなかった。安心院に対する初の直接的ツッコミであった。






 ヴォートカ君の米印解説!

 

 突然だけどこの小説内にある米印を解説していくゾ!

 米印は分かりづらい表現などがあるところにあるんだゾ! それをかま☭つちのゆるキャラであるヴォートカ君が解説するトカよ!


[※1]アメリカのか?

 第二次世界大戦で活躍したソ連の戦車T34、同名の戦車がアメリカにもあるゾ! 優ちゃんはソ連のT34かアメリカのT34かで迷ってたトカね、でも戦車のT34と言ったら大抵はソ連のT34だゾ!


[※2]優等生が好きな

 東ドイツは社会主義国の優等生と言われてたゾ! 美香ちゃんはこの事を知ってて優等生(東ドイツ)が好きなと言ってたトカね


[※3] 第二次世界大戦使用にしてるけどね

 メショクと言われる第二次世界大戦前から使われているソ連軍のバックパック、第二次世界大戦頃のメショクはポケットも付いてなく麻袋のような見た目だったゾ! しかし70年代くらいからポケットやポンチョを締着ていちゃくさせるストラップが付くようになったトカ! 小話としては結ぶのに一工夫必要トカ、それとロシア語ではメショクではなくМешокミショークと言うゾ! 意味はバックって意味トカ


[※4]RD-54

 ソ連空挺軍くうていぐんが使っているバックパックだゾ! マガジンポーチ、グレネードポーチが一体になっていて、シャベルケースも付属するトカ、作中で安心院さんが言う通りシャベルケースだけ一体になってないせいか購入してもシャベルケースが付いてない事が多いゾ! ソ連時代のはただのカーキ色だったけど迷彩が付くようになって現代ロシア軍(2024年現在)も使用しているゾ! 作者の感覚だとそれなりにレアなミリタリーアイテムトカ!


[※5]85の方なのね

 ソ連の戦車T34には大きく分けて二種類あるトカ! それは76mm砲と85mm砲の二種類、76mm砲をT34-76、85mm砲をT34-85と言うゾ! T34-85のほうが攻撃力が強いから優ちゃんは強くて安心したわと答えたんだね

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