第80話

「……いろは?」



呼ばれた瞬間、息をのんだ。


だって、そんな……嘘でしょう?


弾けるように顔を上げて、私を見下ろす彼と目が合った。



「う、宇野く……ん」



何故だろう、うまく喋ることができない。


喉の奥がカラカラに乾いていて、舌がうまく回らなかった。


今しがた泣いていて、顔だってみっともないくらいにボロボロなのに。


そんな顔、久しぶりに会う宇野くんに見られたくなかったのに。



「久しぶり」



あの頃と同じ、優しい笑顔があった。



「ひ、久し……ぶり」


「司達と一緒に来てたの?」


「う、うん……」


「道の駅で、いろはを見かけた気がして……」


「……」



スッと伸びてきた手が頬に触れた。指先で目元を撫でられて、ピクッと体が震えた。



「相変わらず、泣き虫なの?」



宇野くんの言葉に自分が泣き顔を晒していた事を思い出した。


慌てて彼から離れてタオルで顔を擦るように拭いた。



「う、宇野くんどうしてここに?」


「久しぶりに会う友達に挨拶くらいしようと思って」



久しぶりに会う、友達?


友達だと言われてなんだか胸の端っこが、ヒリヒリする。



「いろはも道の駅に来てたなら、高田達と一緒に声をかけてくれたら良かったのに」


「だって……っ、」



声なんてかけられるわけない。


宇野くんに会いたくて、想いをちゃんと伝えたくて、ここまで来た。


でも、あんな風に綺麗な女の子と一緒に現れたら、声なんてかけられるわけがない。

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