第20話

ずひっ、と鼻をすする音がして、さすがに視線を上げて宇野くんの顔を見た。



「ヤバイ、これすっげ泣ける」



泣ける、と言いながら涙を袖口で拭う宇野くんは、私が見ていることを気に止める様子もなく、こちらばかりが気にしている。



「宇野くんって……」



言いかけてやめた。


やっぱり変な人だと思うけど、宇野くんが読んでいる本の著者は私が好きな作家さんで、まだあらすじしか知らないけど、読めば私もきっと泣くかもしれないと思ったから。



「御門さん、まだ読んでないんだろ?これな、めっさおススメ」


「うん。次、それ読んでみる」


「俺、あと少しで読み終わるから渡すな」


「あ、ゆっくりでいい」



本は何かを気にして読むものじゃないと思うから。


自分の世界に入って、自分のペースで読みたいものだと思うし。



「分かった」



それだけ言うと再び視線を本へと落とした宇野くんは、すぐに本の続きに読み入っている。


その集中力には感心した。


1年間同じ教室で一緒に過ごしたクラスメイトなのに、今初めて宇野くんの事をきちんと見た気がした。


今クラスメイトの誰かを思い出そうとしても、とっさに浮かぶ人間なんていない。


それが今無性に寂しいことのような気がした。

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