第12話

「あたしはトランプに行く。葵と螢は、どうする?」

「俺、今から井沼さんに会うから。聞いとくわ」


井沼さん……井沼秋星いぬましゅうせいは、かつてこの業界を束ねていた情報屋。


この人が知らない情報はないってくらい。もう、レジェンド。


喧嘩も強いから、吹っかけようものなら返り討ちにあう。


祐樹とあたしと香音の師匠でもある人。


「蝶、あのね……」

「やめて。言わないで」


香音が考えている事なんてお見通し。もう4年の付き合いなんだ。


「トランプは危険だって言いたいんでしょう?でもね、あたしがした事だから、死ぬ気でやるんだよ。葵と螢は、関わらなくていいんだよ」


これ以上苦しくなりたくない。苦しませたくない。


辛いのは、あたしだけで十分なんだ。


あたしが、みんなを傷付けた。


「葵は、ここにいて。何かあったら連絡するから。いつも通り仕事してて?」


「……どうせ止めても行くんでしょ。ここで待ってる。ただし、あくまでも自分優先だから。蝶までいなくなったら、ダメだよ」


「うん」


今は、大丈夫だよ。


そのうち、捨てるつもりだけど。


「行ってきます」


夜の空気は何だか、華やかで冷ややかだ。

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