第8話

ドアを押して、夜顔に入る。


さあここから、あたしは蝶を名乗る。


「やっほ、螢」

「おう」

「葵は……いないね」


もうすでに祐樹は来ていて、香音だけがまだいない。


10分前には必ずいる香音が、来ていない。


時計の針は8時ちょうどを指している。


あたしと祐樹は顔を見合わせた。緊張感が走って、心臓はバクバクしている。


「かのっ、葵が龍みたいになっちゃったら?」

「香音……な。大丈夫だよ」


そのとき、ドアに付いてる鈴が音を立て、香音が入って来た。


ほっとして、全身の力が抜けた。


「ごめんっ、何もないから!」


そう言った香音に抱きしめられて、安心する。


龍と同じ目には、誰にもあって欲しくない。


約束した時間に人がいないと、あたしは怖くなるんだよ。


あ……涙は堪えなきゃ。笑顔なのがあたしでしょ。


「へへっ、もう大丈夫」


へらり、笑って香音から離れる。


いつまでもネガティブモードじゃいられない。


「仕事しよ!」


明るい声を上げた。

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