逃げるが勝ちだがやる時はやる~超能力者、魔法少女、サイボーグ、科学兵器、色々溢れる現代社会の闇が怖すぎるので早く逃げ出したい~
杉ノ楓
第1話 冗談みたいな話
冗談みたいな話だが、この世界は何度も滅亡の危機に直面している。
近年で言えば1999年7月、ノストラダムスの大予言なんかがそうだ。
世間的には大外れの予言だと思われているけど、実際には予言は的中していて人類は滅亡の一歩手前まで追い込まれていた。
え?じゃあ何で滅んでいないのかって?
そりゃあ勿論、滅亡を阻止しようと必死に暗躍した人たちがいたからだ。
この事件の詳細は省くが、まあこんな風に人類は今まで何度も滅亡の危機に陥っていて、その度に人知れず世界を救って来た人間もいるという事はわかって欲しい。
彼らは皆、人々に不安を与えない様に闇に隠れて闇と戦う道を選んだ英雄だ。
さて、じゃあなんでこの俺——
加わったんじゃないぞ、加えられたんだ。
あれは20数日前、中学の卒業式を終えた2日後くらいだったと思う。
いきなりスーツ姿の大人が6人、実家に押し寄せて来てこう言った。
「息子さんには特別な才能があります。是非、その力を我々にお貸し下さい。」
怪しさ満点の大人たちに俺は警戒心MAXだったが能天気な両親は特別な才能という言葉+アタッシュケースの中に詰められた札束に釣られて俺を奴らに売りやがった。
「優心、お国の為に頑張るんだぞ!」
「寂しかったらいつでも電話していいからね〜」
どの口が言ってやがると思ったが抵抗しても大人の腕力には敵わず、俺は『異能特区』と呼ばれる場所に連れて行かれた。
そこで社会の闇や異能者の存在など色々な話を聞いたり実際の映像も見たりして今に至る訳だが……はっきり言おう、逃げたい。
だって俺、自分の意思で選んでないしそれになりより俺は普通の人間だ。
一般的な家庭に生まれて勉強もスポーツも特別できる訳じゃない。
「特別な才能がある」なんて言っていたがそんなのが目覚める気配すらないし…
こんな人間が異能なんて力を使う化け物と戦ってみろ。
ただ死体が1個増えるだけだ。
(よし、逃げよう。今日はあいつもいないしいける気がする。)
俺は与えられた部屋の中を見渡し、宿敵の姿が見当たらない事を確認するとダッシュでベランダから外に飛び出した。
この部屋は2階。
その気になれば飛び降りてもまあ大丈夫だというのは前回の脱走で検証済み。
落下による恐怖心が襲いかかるが未来の安全の為にはやむなしと自分を落ち着かせる。
いざ着地の時、衝撃に備えて覚悟を決めた。
“ダァン”という音と同時に俺の両足が地面に着く。
普通に痛い…が、一度経験していたお陰か何とか走れそうだ。
どんな怪我をしようともこの異能特区から脱走できればそれでいい。
「あばよ、誘拐犯ども。」
最後に悪態をつき、走り去ろうとするが自然と足が止まってしまった。
何故なら、いつの間にか目の前には見慣れた宿敵の姿があったから。
この1ヶ月間、幾度となく俺の脱走を拒み続けた女——
「はい、お疲れ様です。貴方も無駄な事がお好きですね。いい加減理解したらどうですか?未来視の魔法を持ってる私から逃げられる訳がないという事を。」
「テメエ…卑怯だぞ。」
「卑怯も何も此処はそういった異能者が集まる街です。ほら、家に帰りますよ。貴方の足、ヒビが入ってるから治療しないと。」
伊勢上蓮華、16歳、未来を司る魔法少女
未来を見通す力を持ったこの女が見張りをしているせいで、俺はこの1ヶ月ずっと脱走に失敗し続けている。
「ちくしょう…いつか絶対逃げ切ってやる。」
「それは残念でしたね。明日から学校始まるので貴方が自由に動ける時間も今日で終わりです。」
「は?そんな話、聞いてないけど。」
「言ったら貴方、より一層力を入れて脱走するじゃないですか。」
それはそうだ。
だが、あまい…実にあまいな伊勢上蓮華。
俺が学校という事は同い年のお前も学校に行く必要がある。
お前が授業を受けている間、俺を監視する者はいない。
仮病でも使えば脱走し放題じゃないか。
思いがけない好機のチャンスを見つけたことで無自覚に笑みが漏れてしまっていた様で、伊勢上に怪訝な顔で見られてしまった。
「どうしたんですか?いきなりニヤけて。気持ち悪いですよ。」
「いや、なに。学校が楽しみだなーって。」
「貴方もそういう学生らしい部分があったんですね。私も楽しみにしているのでもうこれ以上余計なことしないで下さいよ。」
「わかってるよ。今日はもう何もしないって。いやー、明日が楽しみだなー。」
俺たちはお互いに明日を待ち遠しく思いながらマンションに戻って行った。
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〈小ネタ〉
ちなみに優心と蓮華は一緒に住んでいる訳ではありません。
マンションの隣の部屋に住んでいて、監視の為に蓮華は寝る時以外の時間を優心の部屋で過ごしているといった状況です。
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