第2話 異世界ライフは閉店終了

 夜の華やかな街並みが目の前に広がっていた。


「ここは異世界なのか? 歌舞伎町かぶきちょうにそっくりな雰囲気だが……」


 というのも色とりどりのネオン看板が至る所にある。

 エルフやオーク、とにかくいろんな種族が歩いてる。笑い声や話し声が聞こえ、なにより歓楽街は賑やかで。

 まさにネオン街と呼ぶにふさわしい場所だ。たしか、歓楽街マリリアって言ったか。


「本当にここで、またホストになるのか……?」


 不安混じりに呟いてみると、周りから異様に視線を感じた。特に女性の。


「見て、あの人、超かっこよくない?」

「え、やだ、ほんとじゃん! イッケメン〜!」


 ざわめきが聞こえ、視線が一斉に俺に。

 そうか、俺はイケメンだった。

 ふと、ある店の薄暗い窓ガラスに映る自分を確認してみた。

 肩幅が広くて、引き締まった体。貫禄のある美形。前世と変わりないオシャンな俺だ。


 そんな俺の周りに女の子たちが集まってきていたそんな彼女たちにふざけてウィンクを飛ばしてみると、


「キャーッ! 私、いまウィンクされた!」

「違うわよ! 私にウィンクしたの!!」

「やだ〜!! 心臓が止まるかと思った……!」


 彼女たちは手で顔を隠しながら、隠し切れない笑顔を浮かべている。少し争ってる子たちもいるようだが。

 でも、なるほど。異世界でも俺のイケメンは十分に通用するらしい。


 ……だがっ!

 今はこんなことで浮かれてる場合じゃない。


「俺のホストクラブはどこだ?」


 盛り上がる女性陣を背に、周囲を見渡す。

 その動作だけでも、「キャー!!」という歓声が湧く。

 これは、もはや前世の時を超えるモテ具合かもしれない。

 

 ズラーっと並ぶ、豪華な店の数々が見える。看板で伝わる夜のお店感。一見だが、ホストクラブのような店もあれば、キャバクラもあるらしい。

 この中から、我がホストクラブを探すだけでも骨が折れる作業かもしれん。


「ってなんだ、この店……」

 

 その中でも一軒だけ、やけに目立つ店があった。いや、目立ってしまってる、が正しいか。

 

 ボロボロな木造の建物。壁がひび割れ、木が腐ってる。屋根が欠け、看板は斜めに傾げてる。周りの派手な店と比べても、その店は、暗くて、汚くて、そして古臭い。だが、別に小さいわけではない。

 まったく汚らしい店だ……なっ!

 

 だが……なんだか嫌な予感がする。

 異世界転生の序盤には主に二種類の展開があることを俺は知ってる。


『無双か、無双以外か』

 

 某ホスト、○ーランドの名言風になってしまったが。

 そう、ここ異世界では『無双ルート』か、『無双できずに苦労をして這い上がるルート』の二種類がある。

 そして、俺は「街で一番豪華なホストクラブ」を女神フリルに頼んだ。無双ルートのファストパスチケットを得るために。

 だから、俺の店はここじゃないはずだ。


 と自分を安心させたが、やはり気になったので、そのオンボロの建物を横目で見ながら通り過ぎてみた。

 すると、店入口ドアに小さな張り紙が貼り付けてあった。

 目を凝らして、遠目から読んでみる。


『一条司さま、こちら異世界転生特典のホストクラブでございます。残業で疲れてて、こんなオンボロホストクラブを作る魔力しか残ってなかったです。でも、私のせいにしても無駄ですよ。貴方が労働時間外に死んだんですから。責任は取りません。じゃあ、せいぜい頑張れ〜。 女神フリルより』


 はいー、終わりましたッ! 俺の異世界ライフは閉店終了ですよッ!

 ……ったく、まじで無いわ、あのクソ女神。手、抜きすぎだろ。


 

 ってなわけで、俺の『苦労して這い上がるルート』に乗った異世界生活はこうして始まった。

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