時間物語のサブテキスト 『時神と暦人』を楽しむために

南瀬匡躬

はじめに

第1話

はじめに


 自己課題として長く書き続けている作品、『時神と暦人』を書き始めた頃は、紙の原稿で、地方文学賞などに送っていた。いま公開してある『エピソードゼロ/一九七〇年代に timeslip』と『此花と二番館興業セカンドラン』にその頃の原型が見られる。この『エピソードゼロ』、現在は番外編扱いにしている。

 その後練り直して、当初は本作シリーズでメインの登場人物としていた高校生の夏夫や、大学生のあさひから、「事実上」の主人公をアラサーのお姉さん、美瑠にバトンタッチさせる。

 当初は高校生の男の子の主人公を想定していた。その当時の書き仲間だった友人に言われたこともあるが、書いてみると、自分でもなんかそちらのほうがしっくりきた。以後それが前例となって、女性のメインキャラが多いシリーズとなった。そして続くセカンドやサードシーズンでも同様にヒロインである栄華や富久の誕生となる。


 ファーストシーズンだけは少し構成の上では毛色が異なる。前半部はヒロインオンリーの話でなく、葉織や夏夫、晴海の活躍も大きい。世界観と舞台、コンセプトは一緒で変わらないのだが、それぞれの登場人物にスポットを当てて、単独作品としても読めそうなテイストに練られた物語になっている。いわば各章、それぞれが『エピソードゼロ』の続編のような感じであり、それの集合体が第一シーズンとも言える。なので完全な美瑠ひとり主役の物語では無い。文頭で「主人公」という言葉は使っているが、順番にメインのキャラクターが交代しながら物語を紡いでいるという感じの作りである。



 プロットとテイストは未熟ではあるが今に続く持ち味とも言える。これがどう読者の目や心に映っているのかは自分には分からない。どのみち実力や才能よりも「好き」と「根気」で続いている作品だ。作者である僕は実力と才能は残念ながら持ち合わせていない。自分が描ける創作上の世界はそう大きくもない、そして多くない。ごくごく小さなものだ。前述の通り、たいそうな才能があるわけでもなければ、これまた博識なわけでも無いので、自ずと物語のテイストも限られてくる。その範囲でのがんばりだ。

 好きなもの、好きな場所、少しだけ知識があるものをつなぎ合わせた僕なりの拙い世界観をもとに自分の物語世界を構築したものだ。

 その舞台となる好きな場所が、湘南と多摩、浜松町と横浜、足利、伊勢志摩、名古屋である。僅かな知識というのが美術館好き、写真好き、楽器好き、オーディオ好きな素人知識である。写真は花の撮影と夜景撮影、伝統芸能や文化だったので、作品に味をそえる知識とも繋がった。出来はともかくとしても、キャパシティーの小さな僕の頭の中で作ることの出来た世界観がこれらを使って構築できたというわけである。



 そんな僕の作ってきた小さないくつかの物語と世界観を、少しだけわかりやすくまとめられたら、伝えられたら、という思いでこれを起草した。もしこのシリーズ、物語が皆さんの興味を惹く作品の一つになっているのであれば、読書のサブテキストとしてお役立て頂きたい。

 この拙い案内書きが読者の物語探究の道標となれば、なおのこと喜ばしいことだ。その弾みになることを願ってやまない。

 今後ともこのシリーズをお引き立て、ご愛好いただければ有り難いと、ここで感謝のことばをはじめにお伝えしておきたい。

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