第5曲目 「昔の夢」①

日曜日の夜。

家にある七星と使っている部屋の布団の上で、オレは目を閉じていた。

いつもとは違う、夢見心地の世界が広がっていた。

ふと、隣のベッドから七星の声が聞こえた。

「まな、今さっき昔の夢を見た」

その言葉が、うっすらと違和感をもたらす。


心のなかで、オレは無意識に思い出していた。小3のころの、あの日のことだ。冷たい風が頬を撫でていたのを覚えている。思い詰めていた心の奥底から、さらなる苦しみがしゅるしゅると湧き上がってくるのだった。


4、5年前。両親が殺害された後、哀晴の家に居候したときの話。

その日の夜、オレはベランダの手すり壁に立っていた。何もかもがどうでもよくなって、自分を解放しようとした。母の再婚のおかげで当時嫌いだった人と兄弟になったのが、まるで自分を縛りつける鎖のように感じていた。あの日、真夜中に目を覚ました七星はどれほどの恐怖を抱えていたのか、今更ながらその表情を思い出す。


悪夢を見て目を覚まし、カーテンを開けた瞬間に彼が目にしたのは、まさにオレの危うい姿。両親が消えた世界の中で、一緒にいる彼に伝えられない深い痛み。それが、あの瞬間に全てを覆い尽くしていた。


「まな!」と叫ぶ七星の声が耳に残る。驚きと恐怖に満ちた彼の目。そんな目に見られたって、もう引き返せないと思っていた。でも、七星が訪ねて来たその一瞬、オレは壁から降りることを決めた。他に道はなかったのだ。彼の一言、「僕にはお前が必要」それは、オレのすべてを揺さぶる言葉だった。


その後、結果的に全てをさらけ出し、涙ながらにオレは彼に怒った。自分がいかに卑怯なことを考えていたか、いつのまにか忘れてしまっていた。七星は、まるで大の大人のように理解してくれた。彼は「自分のことはどうでもよかったの?」と問いかけていた。もしかしたら、あの日のオレの気持ちを誰よりもわかってくれるのかもしれない。


まるで映画のワンシーンのように、オレたちは数年後の今も、いつもこの思い出を抱えながら生きている。正直に言うとオレは、無理にしてでも七星のために生きる必要があった。彼こそが生きる証だから。


〈②に続く〉

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