第8話 鋭いご指摘……らしい。

 エドワード殿下と手を組む──私はその場で思わずそう答えてしまった。破滅を目指していたはずの私が、国の未来を導く存在にまでなってしまうなんて、そんな皮肉があるだろうか。


「これでいいの?」


 心の中で何度も問いかけたが、答えは出ない。自分の望んでいた破滅とは、まるでかけ離れた未来が広がっていく。それでも、何か抗えない流れの中に引きずり込まれているような気がして、私はどうしようもなかった。

 でもその中で破滅のためのさらなる舞台を私は頼りにしていまはその流れに乗っかることにした。


 エドワード殿下が私の手を握り、優しく微笑む。その表情は完璧で、すべてを見通しているようだ。

 まるで、私がこの決断をすることを最初から知っていたかのように。


「これからは、あなたと私が共にこの国を導いていきます。あなたの知恵と力が必要です、セシリア様。」


 殿下の言葉はまるで、私に逃げ道を与えないように聞こえる。


 いや、もしかしたらこれは彼な策略なのかもしれない。まぁなんの策略かは分からないけど。


「……わかりました。殿下、私にできることがあれば、全力でお力添えいたします。」


 再びそう答えると、彼は満足げに微笑んだ。


「よろしい。これから、あなたと私は強力なパートナーです。まずは、いくつかの会議に出席してもらいましょう。あなたの視点が必要ですから。」


 ──会議? 視点が必要?


 まさかこんなに具体的な話が出てくるとは思ってもみなかった。


 私がどんな役割を果たすことになるのか、ますますわからなくなってきた。けれど、ここで「やっぱりやめます」とは言えない雰囲気が漂っている。




 ******




 数日後、私は王宮で開催される初めての会議に出席することになった。

 何を話すのかも分からないし、どんな人たちがいるのかも知らない。

 ただ、エドワード殿下が私を連れて行くと言ったからには、私が何か重要な役割を果たす必要があるのだろう。


「こんなはずじゃなかったのに……」


 私は心の中でため息をついた。破滅を求めていたはずが、今や王国の未来に関わる存在として、まったく予想外の立場に立たされている。


 会議室に入ると、そこには王国の重鎮たちがずらりと並んでいた。


 老若男女問わず、どれもこの国を支える要職についている人々だ。その中に、私が加わるのかと思うと、急に息苦しくなってきた。


「セシリア・アウグスト侯爵令嬢です。」


 エドワード殿下の紹介により、私は皆の前に立たされ、挨拶をしなければならなくなった。私は深く頭を下げ、言葉を絞り出す。


「皆様、はじめまして。セシリア・アウグストと申します。本日はどうぞよろしくお願いいたします。」


 簡単な挨拶だったが、その瞬間、重鎮たちの視線が私に集まる。彼らの目には、私に対する興味と期待が混ざっているように感じられた。


「侯爵令嬢が会議に参加するのは初めてですね。王太子殿下のお考えですか?」


 ある一人の重鎮が殿下にそう尋ねると、殿下は静かにうなずいた。


「そうです。彼女には独自の視点と洞察力があります。私たちの議論に新たな視点をもたらすことでしょう。」


 ──洞察力? 独自の視点?


 私は自分が何を期待されているのか、ますます分からなくなってきた。ただ破滅を求めて悪事を働いていただけなのに、いつの間にか「賢い存在」として扱われている。

 この状況がますます混乱を深めるばかりだ。



 会議が始まると、国の政策や今後の方針についての議論が展開された。私にはほとんど理解できない内容が続く。

 けれど、エドワード殿下が時折こちらを見て、意見を求めるような仕草を見せるたびに、私は冷や汗をかいていた。


 ──どうしよう……。何もわからない……!


 しかし、ここで黙っているわけにもいかず、私は何とか自分の意見をひねり出した。


「え、ええと……もし、もっと庶民に近い視点で物事を考えることができれば、王国全体の安定につながるのではないでしょうか……」


 自分でも何を言っているのかよくわからなかったが、エドワード殿下は満足そうにうなずき、周囲も同調してくる。


「侯爵令嬢のおっしゃる通りだ。我々は貴族の視点に偏りがちだったが、庶民の生活をもっと理解することが必要だろう。」


「さすがだ、若いのに鋭い指摘をされる。」


 周囲の重鎮たちも私の発言に賛同し、議論が進んでいった。

 ──どうして? ただ適当に言っただけなのに、なぜこんなに評価されてしまうの?


 会議が終わる頃、私は疲れ果てていた。何も分からないまま話を続け、気づけば私の意見が重要視されていた。

 そして、エドワード殿下はその結果に満足しているようだ。




 ******




 会議が終わり、私は王宮を後にした。今夜の晩餐会が行われるまで、少しだけ時間があったが、私は自室で頭を抱えていた。


「これじゃ、ますます破滅なんて無理じゃない……!」


 私は自分の現状がどんどん悪化しているように感じていた。


 破滅どころか、国の未来に関わる存在として、ますます高く評価されてしまっている。このままでは、私は「善良な賢者」として王国に君臨することになりかねない。


「そんな未来、私が望んでいたものじゃない!」


 私は悪役令嬢として、破滅を迎えるためにここまでやってきたのに、すべてが裏目に出ている。このままエドワード殿下の提案に従えば、私は国を導く存在になり、破滅とはかけ離れた未来に進んでしまうだろう。


 ──でも、どうすればいいの? どうすれば、私は本当の意味で破滅できるの?


 自分の進むべき道がますます分からなくなり、私はただ途方に暮れていた。

 が、しかし王太子に近づいたことによって必然的により多くの人と関わる機会が増える。

 そこで破滅するのも悪くない。


 そんなことを一人考えて私は様々な妄想を巡らせニヤニヤしていた。

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