第2章 第8話 鳥とトカゲが戦利品
≪
「くっ?!」
悠里は状態を反らして啄み攻撃を躱すが、右手に握った長剣は≪
悠里は剣に纏わせる
「クァアア?!」
悠里が振り抜いた長剣は≪
「グワァァァッ!」
≪
「【穴掘り】!!」
エンリフェの【穴掘り】の魔法が≪
「クァッ?!」
混乱して慌てた≪
悠里、湊、祥悟が3方向から囲んで≪
正面から向かっていた悠里の剣は≪
首を刎ねられて動かなくなった≪
「まずは1匹目……っと」
祥悟が額の汗を拭いつつ、【洗浄】で“現場の掃除”を行う。
「嘴と鉤爪の攻撃は鋭かったけど、手応え的に防御能力は大したことはなかったわね」
湊が【清浄】した長剣を鞘へと戻しつつそう評した。
「いや~、その攻撃力が馬鹿にならないというか。嘴くっそ硬かったし、多分鉤爪だって硬いんでしょ?機動力もなかなかだったし。久しぶりに後手に回った感じがしたよ。エンリフェのフォローがなかったらあんなにあっさり片付けられなかったんじゃないか?」
悠里も長剣を【清浄】して鞘に戻しつつ、エンリフェを見ながらそう言った。
「確かに。あの両足ともすぽーんときれいに穴に落ちたやつ。あれが決め手だったのは間違いないわね」
湊もエンリフェをみて微笑んだ。
「え、あ、ありがとうございます?役に立てているなら嬉しいです」
突然褒められたエンリフェが目を白黒させながらも口元を綻ばせた。
「むぅ……。エンリは出番が多くて褒められてズルい」
ネロがエンリフェにジト目を向ける。
「【気配察知】して警戒している分、ネロの方が私より役に立ってますよ?私なんか誰も怪我していないから仕事しない日すらあるのに」
シエラもどんよりと曇った空気感を出していた。
「ん?シエラが後ろに控えてくれてるお陰で思い切って無茶が出来るし、そのシエラをネロが護衛してくれてるから3人で前に出られるんだ。気にすることないぞ?」
祥悟が後衛組の引け目を感じているのが丸わかりな会話に割り込んだ。
「うぅ……ショーゴさんありがとうございます。
ネロが尻尾をしなしなと垂らしながら祥悟に礼を述べた。
◆◆◆◆
初日は
【認識阻害空間】で野営地で囲って天幕を張り、食事を取って不寝番を回す。不寝番は祥悟、悠里、湊、ネロの4人が交代で行うのがこのメンバーでの定番である。エンリフェとシエラの2人は【気配察知】などの索敵能力を持っていないため、不寝番から外れている。そのうち【気配察知】を教えてくれとか言い出しそうだと思うが、感覚的なもの過ぎて伝えるのが難しい。というjか、ネロが出来るのだから直接ネロに教えてもらうように言い含めようと思った。
夜間の不寝番はしてみたものの、特に近付いてくる気配などはなかった。ひょっとしたら
北の森滞在2日目。
何時もの早朝稽古にネロ達3人が混ざり、6人で
「
シエラが不満げに言い、それにエンリフェとネロも追従する。
「もう1回、外部からの介入してもらえませんか?」
エンリフェが両掌を合わせて悠里を拝み倒す。
「そうそう、また
ネロが上着をぺろっとめくり、薄っすらと割れた腹筋と綺麗な
「言い方!ルビが怪しい!またセクハラする気だろ!!」
そう何度も揶揄われて堪るかと悠里は拒否するのだが、真面目に
その成果か、悠里が外部から
「私たちは何日も馬車で移動するだけの、暇しかない時間で練習してた訳だし。朝練とか隙間時間で練習するだけなら、なかなか掴めないのは仕方ないよ」
と、湊からもフォローが入った。
早朝稽古を終わらせて【清浄】で身嗜みを整えると、改めて朝食の時間である。
【異空間収納】で持ってきた温かい屋台飯(串焼きと蒸かし芋的な物)で朝食を済ませる。≪迷い人≫組には質素な食事なのだが、この世界で探索者が利用する携帯食料と比較すれば雲泥の差である。嬉しそうに尻尾を揺らしながら食事をするネロをみると頬が緩む。食後に周囲一帯に【消臭】を掛けて痕跡を消すと、本日の探索開始である。
一通り片付けも終わったところで【認識阻害空間】を解除して森の奥へと向かう。
昨日は
≪
「さて。今日は昨日に続いて≪
祥悟が斥候として先に進み、本隊は悠里とネロ、湊の3人掛かりで警戒しながら祥悟の後を追う。森の起伏で野営地が見えなくなった頃、祥悟が≪止まれ≫≪来い≫のハンドサインとジェスチャーで合図を出した。
「例の大きなトカゲ、ってやつだと思う」
祥悟のもとに集まった皆が、祥悟が指差す木陰の向こう側をチラ見する。悠里達の視界に4足歩行する目測全長4メートルを越えるコモドオオトカゲのようなトカゲがいた。大トカゲの背中側は褐色の厚そうな鱗や角ばった甲殻を纏っており、装甲ごと斬り下ろすような攻撃は非常に非効率に見える。逆に、地面側に接するような部位は鼻先から尻尾の中ごろまでにかけて薄汚れた白い皮で、背中側とは質感の異なる姿をしている。
「……思ったよりでかいな。さしずめ≪鎧大トカゲ≫ってとこか?」
悠里の感想に祥悟も頷き返した。
「ああいう装甲持ちは、狩りゲー的に腹側が弱点だよな」
祥悟の言葉に悠里も同意するが、攻め手に思案する。
「とはいえ、ほとんど腹這いだ。腹側への方なんてそうそう攻撃できないな」
「噛みつきを誘って、頭が上がったところで顎下や喉元を狙う感じかな?」
湊が討伐方法をシミュレートして剣を手にする。前衛3人が立ち回りを検討しているところに、エンリフェが控え目な素振りで手を挙げて意見を口にした。
「胴体の下、魔法で突き上げましょうか?【氷槍】か【岩槍】とか」
「良いね。トカゲなら【氷槍】が良いかも。エンリフェの魔法攻撃を合図に突撃しよう」
悠里がエンリフェの案に乗り、戦端を開き方に組み込んだ。
「では魔法いきますよ~。【氷槍】!」
エンリフェの【氷槍】の魔法が地面から生えて≪鎧大トカゲ≫の腹部に突き刺さり、そのまま掬い上げるようにその上体を持ち上げた。
「ギュァア゛?!」
≪鎧大トカゲ≫は突然のダメージに驚き四肢をバタつかせるが、前脚は宙を掻き空振りする。
「今ッ!!」
悠里の合図に湊と祥悟と3人で一斉に行動を起こす。
駆け出した前衛3人はそれぞれが両手持ちにした剣を刺突の構えで
「ギィ……カッ……」
刺し穿たれた傷と口から血を吐いて大きく痙攣し、≪鎧大トカゲ≫は動かなくなった。
3人が剣を引き抜くと、≪鎧大トカゲ≫の上体を持ち上げていた【氷槍】が中程で割れて折れ、≪鎧大トカゲ≫の死体は腹を見せるように地面に転がった。
「ふぅ……。エンリフェの【氷槍】のおかげであっさり斃せたけど、あれなしだったら結構時間がかかる敵かも」
顎下から剣先を突き込んだものの、表層部の甲殻を貫けなかった湊がそう評した。
「だな。柔らかい側は何とでもなりそうだけど、硬い方の甲殻からは難しそうだ」
祥悟と悠里もその感想に同意して頷いた。
◆◆◆◆
前日の≪
そろそろ
午後の早い内に王都に帰着すると、一行は
「アーシャさん、こんにちは。
「あら、ユーリさん。お帰りなさい。
「明日の早朝ですか?分かりました。参加でお願いします」
「承知いたしました。それでは参加予定のグループとして記帳しておきますね」
「お願いします」
「こんにちは。今回も引き取りお願いしますね」
悠里が声を掛けたのは、解体場を仕切っている坊主頭の厳つい中年男性である。皆が「親方」と呼ぶため、本名は知らないが釣られて“親方”と呼んでいる。
「んぁ?あー、【異空間収納】組か。お前らまとめて持ってきすぎなんだよ。いくら王都ギルドが【異空間倉庫】を設置しているからといっても、ものには限度があるからな?」
「ハハハ……。すみません、親方。今日も森に連泊した分を持ってきたので、結構量があります。対応お願いします」
「やっぱりか?【異空間収納】持ちがこんなにいるなら、もっと解体場の職員増やさないとだな」
「なんか色々すみません。今日もよろしくお願いします……」
狩りのメインターゲットにしていた≪
「多すぎるわボケェ。買取明細は明日の昼頃までには出しとく。格上をこれだけ狩って来れるならついでにランクアップも申請しろ」
「明日は早朝から
「あぁ、
坊主頭の厳つい親方が討伐隊に参加すると聞いて悠里達の身を心配してくれていた。悠里はその気遣いに頬を緩め、頷いて応えた。
「はい、無理はせず、生きて帰ります」
戦利品の提出も終わって一旦宿に戻る。宿泊日数の延長手続きを済ませると、次は食料品や消耗品の買い増しである。
「即金にならなかったのは地味に痛いな……」
悠里はパーティ運用資金用の財布の残金を確認しながら溜め息を吐いた。
「討伐隊から帰った後、収入のアテがあるだけマシと考えましょう?」
湊が肩を竦め、悠里を宥めた。
「そうそう。俺達は【異空間収納】で獲物を丸ごと持って帰れるんだし、換金率の高い部位だけ持って帰る一般の
祥悟も【異空間収納】なしの場合を考えてフォローを入れる。
「そうですね。素材を持って王都との往復が多い一般の
「それもそうだね。鳥とトカゲで大分稼げた筈だし、討伐隊終わったら装備整えたいね」
悠里達は気を取り直して宿へと帰って行った。
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