第4話[トルトの村]

捨て人とは、望まれない子や跡目争いなどから邪魔になった者、罪人などを魔法で遠くに飛ばし捨てられた人とロイドが補足する。


魔法と言っても遺跡などに残る古代魔法の転移トラップで記憶を失くす者もいると言う。


王族や貴族など家族なので殺したくはないが一緒にいても不幸になると稀に行われる島流しである。


酷い話だが、士郎には都合が良かった。


「そうかも知れません。名前しか覚えてないので……」


「そりゃ難儀じゃなぁ〜 まぁグレタの所でその服売れば、数日は食えるじゃろ」


あぁ服売れるパターンね!


年寄り臭い喋り方だが、見た目は若い門番に肩を借り、村の中へとすんなり入れた士郎。


石垣で囲まれた村の中は、木や土で作られた家が並び、どこもオレンジ色の瓦屋根であった。






「グレタぁ。グレタあ!」


雑貨が所狭しと並ぶ店の奥から、前掛けで濡れた手を拭きながら肉付きの良い女性が現れる。


「なんだい朝からうるさいね!」


4、50代の女性は手を拭き終えると腰に手を置き、大きな胸を張る様に不満そうな顔を門番に投げる。


「グレタ、捨て人らしいんだが、腹を空かしてるみたいだ。服を買い取ってなんか食わせてやってくれねぇか」


「トマリ! 門番がホイホイ身元も分からない奴を村に招き入れてどうするんだい!」


門番の方が背も高いのだが、猫背になっているのか頭が上がらないのか、グレタの前で小さくなっていた。


「いや、ホレ、まだ子供だし一晩中森を彷徨ってたみたいでな、可哀想じゃろ……」


地面にへたり込む士郎を見下ろし、怪訝な顔を寄せるグレタ。


「黒髪…… この辺りじゃ見ない顔付きだね。あんた名前は?」


「士郎…です」


「ふぅ〜ん。まぁ服は上物だね…… いいだろう! こっち来なシロウ。あんたは戻りな!」


差し出されたグレタの手を取り立ち上がる士郎。


トマリは何も言わずに士郎の頭をポンっと優しく叩くと村の入口へと帰っていった。


17歳と書いてあったがここでも、日本人は歳より若く見られるのだろうか?


中身おっさんな士郎は、グレタに力強く店に引き込まれながら思った。





店の奥の部屋に通される士郎。


中庭を囲む様に外との仕切りがない部屋のテーブルにグレタの朝食だったのだろう食べ物が湯気を立てていた。


穀物のお粥らしき物に切られた見覚えのない野菜、白い飲み物。


ひとり分であった。


「いいんですか?」


「ああ、ちゃっちゃと食いな。あたしは代わりの服を探してくるから」


返事を聞くと遠慮なく食べ始める士郎。


酸味のあるお粥にはゴロゴロと角切れの肉が入っていて、空腹からか初めての味が美味く感じた。


ミルクと思っていた物は甘酒の様な物で軽く咽せる。


庭から吹く風が温かい湯気を揺らす。


生き返った気がした。


腹が満たされた士郎はそのまま睡魔に襲われるが、抵抗せずテーブルの皿を避け眠りに落ちる。


「これなら着れる…… ったく。寝ちまったのかい……」







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