10.やみのなか。

そして時が経ち、僕は6歳になった。


あれから僕は3日に1度の頻度で王城に通っていた。王子は本当にどれだけ忙しかったとしても僕に会いに来ているようで、度々侍従が慌てて迎えに来るという事があった。


「ゼイン!ぼくが来ても執務が一区切りつくまで来ちゃだめ!仕事を放ってぼくに会いに来るなら、もうぼくはここに来ないんだから!」


「そっ、それだけはやめて…?ね…?お願い…!」


涙目で懇願する姿にぐらっときてしまうが、ここは我慢…


「だめ!ぼく仕事をしないゼインのこと………きっ…き、嫌いになっちゃうよ!」


シン…と静まり返る部屋。


途端に青褪めるを通り越して真っ白になった王子がフラフラと揺れながら


「し、仕事してくるから…嫌わないで…ま、待っててね……帰っちゃ駄目だからっ!!」


やりすぎた…と思い王子が出ていった扉を見つめていると、ゼインの侍従がとても嬉しそうな顔で僕を見つめていた。


「ルカ様…!ありがとうございます!私がどれだけ言っても聞かなかったのに…!!感激ですっ…!!ぐすっ…!」


瞳をキラキラ輝かせながら感謝を述べる侍従。もっと早く言えば良かったかな、ごめんなさい。


「では、私も失礼させていただきます。ルカ様、本当にありがとうございました!」


パタン、と扉が閉じると、目の前にある紅茶をくぴくぴと飲み始め、ほぅ…と息をついた。


「ルイス…やっぱり僕言い過ぎた気がする…でもゼインの侍従さんをみてたらやっぱり言ってよかったのかな…?いや…でも…」


後ろに控えていたルイスはくすくすと笑って


「いいえ、殿下には良い薬になったと思いますよ。」


ほんとかなぁ…


「ルカ様、少し中庭に出て気分転換をしませんか?今日は新しい薔薇を植えられたそうですよ?」


「じゃあ行く!」


「はい。では使用人に行き先を伝えてから行きましょうか。」
















「今日もきれいだね~!あ、庭師のおじいちゃん!こんにちは!新しい薔薇が植えられたって聞いたんだけど、それってどこにあるの?」


白い髭を蓄えた好々爺がこちらを振り向く。


「おや、ルカ様!今日もいらしてくださったんですねぇ!その薔薇は奥のスペースに植えましたよ!中々綺麗な花なのでじっくり見てやってください!」


「ありがとう~!ルイス、行こ!」


本当はゼインと来たかったけど、仕事で大変みたいだし、ルイスとは家族みたいな関係だから、ちょっとお花見みたい!


そういえば、前の家族でお花見なんて、したことなかったなぁ…久しぶりに思い出しちゃったや…


「ルカ様?どうかなさいましたか?」


「う、ううん!大丈夫!あ、あれかなぁ、ルイス、きれいだよ!」


深い海のような青色の、周辺にあるどの色よりも美しい薔薇がそこにはあった。引き込まれるような深い青。


「すごいねぇ、これ、一緒にゼインとも見たかったなぁ、また後でゼインも誘って一緒に行こうね、ルイス!

………………………ルイス?」


返事がない。気づけばあんなに風や鳥の鳴き声が聞こえていたというのに、今は何も聞こえず、不気味なほどに静かだった。


「ルイス?」


振り返ると、そこにはいつもの侍従の姿は無く。ちらほらといた護衛の姿も消えていた。


「え、ど…こ…?ルイス?ルイス!!どこにいるの!!

ルイッ…!!!」


後ろから手が口元に被さり、何かを嗅がされたと思えば意識は暗転していた。


















「おい、魔道具を無効化にするやつをくれ、厄介なものがついてる。……………さあ主の元へ帰るぞ。」
















✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿















『このっ、人殺し!!こっちに来るな!』


バシッ、ガンッ


「いたいっ…!!ごめんなさい…!ごめんなさい…!許してください…もうやめてください…お父さん…兄さん…」


『父と呼ぶな!!お前なんぞ俺の息子ではない!!』


『気持ち悪い。俺に弟はいないんだよ。さっさとどっかに行け』


『こらこら、そんな汚いものに触ったら汚れるじゃないの。瑠夏、来なさい。』


「はい、お祖母さん。」


ガチャッ…ドンッ


『お前の顔を見ると吐き気がするわ。暫くそこで反省してなさい。』


僕が入れられたところは蔵だった。外の明かりも届かないような闇。恐ろしかった、まるで怪物が口を開けて僕を丸呑みするかのようだった。


「や、やめてください、お願いします…!何でもしますからぁっ!やめて…!やだあああぁっ!!」


閉じられた扉は3日経ってから開けられた。その間水と少しのご飯は与えられたが、いくら泣き叫んでも誰も助けてはくれなかった。
















「おかあさん…」



















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