青葉兄弟の日常

第1話

私は青葉組の1人娘、青葉あおば うみ


幼い頃、両親が事故で亡くなり、私は児童養護施設に入っていた。


5歳の時、おじさん、つまり組長に引き取られ、青葉組の一員となった。


兄弟は3人いる。


長男のそら、次男のはる、三男の宇宙うちゅう


空は高校3年生で、晴と私は高校2年生、宇宙は高校1年生。


組長の奥さんは私が引き取られた1年後に病気で亡くなった。


私が引き取られた時には、もう病気にかかっており、医師に「あと1年」と余命宣告をされていたらしい。


組長の奥さんの記憶は少しある。


彼女は私に「お母さんって呼んでいいからね」と言ってくれた。


だから私は、お母さんと呼んでいた。


お母さんは優しくて、キレイな人だった。


そして、大人になったらこの人みたいになりたいと、5歳ながらに思っていた。


その気持ちは今も変わっていない。


私は毎日、学校へ行く前に仏壇の前に座って、お母さんに話しかけている。




「今日も見守っててね、お母さん」


「おい、海。学校行く時間だぞ」


「晴。すぐ行く」


「お母さん、今でも大好きだよ」


そう言い、立ち上がる。


兄弟揃って玄関に並び「行ってきまーす!」と言って家を出た。


「海。今日提出物とかあったっけ」


「うん。英語のノート提出する日だよ」


「あ!そうだったー⋯。海、あとで見せて!」


「いい⋯…」


「こら、晴。海ばっかに頼ってないで、自分で何とかしなよ」


「別にいいだろ、空」


「海。晴の提出物手伝わなくていいからな」


「え、あ、うん。分かった」


そんな話をしているうちに、学校に到着した。


周りの人たちがザザザッと、私たちの前を空けていく。


だけど遠くで、キャーキャー!という声が聞こえてくる。


空と晴と宇宙は怖がられているけど、女子から人気がある。


私は怖がられていないらしい。


そして人気はない。




靴箱で空と宇宙と別れ、晴と教室に向かった。


その時も周りの人たちがザザザッと、道を空けていく。


そんな中、


「海!おっはよー!」という元気な声が聞こえてきた。


「あ、紅葉もみじ!おはよ!」


「おはよ!晴くんもおはよ!」


「おう」


周りが私たちから遠ざかる中、私に話しかけてきたのは私の友達、森道しんどう 紅葉。


紅葉は同じクラスで、私の唯一の友達。


教室に到着し席に着くと、次は隣の席の男子が話しかけてきた。


「おはよ、青葉」


「おはよ、蓮桜れおくん」


彼の名前は水川みずかわ 蓮桜。


蓮桜くんはただのクラスメイト。


「今日、英語のノート提出だよな」


「うん」


「やってきた?」


「もちろん!蓮桜くんは?」


「俺もやってきたよ」


すると、


「海。ノート見せて」


「晴。空に自分で何とかしなさいって言われたでしょ?」


「そうだけどー⋯。お願い!見せて!」


「⋯次からは、自分でやるんだよ?」


「分かった。ありがと、海!」


そう言って、私のノートを持っていった。


「青葉は優しいな」


「そんなことないよ」


「いや、青葉くんたちと比べたら、優しいほうだろ」


「…そう?ありがと」




授業が始まり、前から順番に当てられている中、晴は完全に寝ている。


毎日のことだけど⋯。


英語のノートはちゃんとやったのかな?


先生は晴をとばして、後ろの席の子を当てた。


起こしても起きないと分かっているからだ。




晴は1時間寝続け、授業が終わった。


「晴。晴!」


「え、あ、海。何?」


「次、英語のノート提出だけど、やり終わったの?」


「あ、まだ終わってない」


「はい?!」


「海、代わりにやって」


「嫌だよ。自分でやって。それと、もうノート返して」


「やだよ。もうちょっと待って」


「⋯はぁ、分かった。早くしてね」


「はーい」




予鈴のチャイムが鳴り、晴の方を見てみると、目が合いビクッとしていた。


私は手を伸ばして、返してと合図をすると渋々といった感じでノートを持ってきた。


最後まで出来なかったんだろうな。


自分のノートを見てみると、


「は?!」


「びっくり、したー⋯。どうしたんだ?」


「あ、いや、名前が⋯」


ノートの端に、晴の名前が書かれている。


「青葉晴?青葉のじゃないじゃん」


「そうなの!あー⋯やられた⋯」


…仕方ない。


代わりにやるかー⋯。


そして、提出に間に合うように、急いでシャーペンを走らせる。


なんとか間に合い、提出することができた。


晴の方を見ると、手を合わせてありがとうとでも言うようにお辞儀をしている。




無事授業が終わり、結局晴は4時間ずっと寝たままだった。


私と紅葉はお弁当を持って、いつものように屋上へ向かう。


屋上は広々としていて、ここで昼食をとっている人も多い。


「今日もいい天気だね」


「空が青いね。でも、もうそろそろ教室で食べない?」


「そうだね。暑くなってきたし」


お弁当の袋を開けると、


「⋯⋯あっ!うそ!」


「どうしたの?」


「このお弁当、宇宙の」


「あ、本当だ。海がいつも使ってるお弁当じゃないね」


「ごめん!今から食堂行ってきてもいい?」


「いいよ!あ、私もついて行っていい?」


「うん!」


宇宙たちは、いつも食堂でお弁当を食べている。


私は、食堂に行けば周りの人たちが落ち着いて食べれないと思い、行かないことにしている。


だけど、宇宙たちが食堂に行くから、この考えは意味ないけれど。




食堂に向かっている途中、後ろから海!と私を呼ぶ声が聞こえ、振り向く。


「あ、空!」


「食堂行くのか?珍しいな」


「このお弁当、宇宙のだったの」


「そうなんだ。それで交換しに来たってことか」


「うん」


雪春ゆきはるが海と宇宙のお弁当間違えちゃったんだな」


「そうみたい」


雪春さんは晴の補佐の人。


今日のお弁当の担当が雪春さんだった。


「あ、紅葉ちゃんじゃん」


「どうも!」


「久しぶりだな。元気にしてたか?」


「はい!」


「そうか。よかった」


食堂に着くと、周りがザワザワし始めた。


私が宇宙を見つける前に、宇宙が先に私たちに気づいた。


「海!」


「あ、宇宙!これ、お弁当!」


「僕もちょうど海の所に行こうとしてたところだったんだ」


「はい、お弁当」


「ありがとう。はい、これ海の」


「ありがと。じゃ、戻るね」


「え、ここで食べてけばいいじゃん」


「いや、でもー⋯」


「いいじゃん、一緒に食べようよ。あ、紅葉先輩も一緒に」


「…んー…、分かった。ここで食べるよ」


「やった。じゃ、ここ座って?」


宇宙たちが使っている席の周りはガランとしていて、空席だらけだ。


怖がられてるなぁー⋯。




昼食をとり終えると、私は空たちよりも先に紅葉と食堂を出た。


「あ、紅葉。私、トイレ行ってくるね」


「じゃあ、海のお弁当持っていっとくよ」


「ありがと」


紅葉にお弁当を渡し、トイレに入っていった。




トイレの個室から出ようとした時、ガタンッという音が聞こえてきた。


その音の正体は、ドアに何かが当たった音だろう。


もしかして…、と思い、ドアを開けようとしたが、予想通り開かなかった。


またか…。


誰かにトイレのドアが開かないようにされてしまった。


こんなことが起こるのは2度目。


初めてトイレに閉じ込められたのは中学2年生の時。


たぶん今回も同じことが原因で閉じ込められたんだと思う。


原因は、晴たち。


晴たちは女子に人気があるから、私はよく嫉妬される。


兄弟なのに。


…そんなことより、ここから出ないと。


私はあの時から、何かあった時のために空たちと一緒に、体を鍛えるトレーニングをした。


そのおかげで難なくトイレから脱出することができる。


「よいしょっと!」


トイレの上からジャンプをして、ドアを飛び越える。


「ふぅー⋯」


私を閉じ込めた女子たちは、私が教室にいるところを見たらきっと驚くんだろうな。




「紅葉。お弁当ありがと」


「うん!」


後ろの方で誰かがザワザワしている。


女子の声。


たぶん、あのことかな。


空たちにあのことは言わないでおこうと思う。


心配するだろうから。




あっという間に放課後となり、私は紅葉に別れの挨拶をして晴と靴箱で宇宙たちを待った。


しばらくして宇宙と空が来ると、学校を出た。


「あ、そういえば、おやじが今日話あるから、学校から帰ってきたらすぐに居間に集合しろって言ってたよ」


「何の話するんだろ。空、何か他に聞いてないのか?」


「何も。これだけだよ」


「そっか」


「それって私も?」


「うん」




家に到着し皆で居間に行くと、すでにおじさんが座布団の上に座っていた。


「ただいま」


「おかえり。4人ともそこに座りなさい」


「は、はい」


何を話されるか分からないため、私たちは緊張と少しの恐怖が襲ってきた。


「今日は4人に話したいことがあってな。まず、空と晴と宇宙」


「はい!」


「お前たちはもう高校生だ。だから、3人の中から若頭かしらを決めたいと思う」


「か、若頭、ですか?」


「そうだ」


「でも、それって空がなるんじゃ⋯」


「晴の言うとおり、通常だったら空がなる。だけど、私は平等に決めたいと思ったんだ」


「若頭はどうやって決めるんですか?」


「それがまだ、どうやって決めるのか考え中なんだよ。決まったら報告するよ」


「分かりました」


「じゃあ、次に海」


「はい!」


「海は、私が花宮組はなみやぐみと仲が良いことを知っているか?」


「はい」


「それで、私と花宮組の組長と話したんだけど、花宮組の御子息ごしそく花宮はなみや 聖雲しょうと結婚してもらおうと思うんだ」


「……は、はい?!」


突然の婚約の話に、私の頭が回らなくなる。


結、婚⋯⋯?

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