第10話

普通に懺悔したい


一人っ子の私は中学2年の秋に父親を失った。

急病だったから、避けようがなかった。


勤め先で倒れたらしくて、

会社の人に連れられて救急病院に行った。


病院に着いたら母親が深刻な顔で待合室に座ってた。


よく分からないまま母親の隣に座って、少し経った時に、


これから大変になる。


小さな声で母親がそう言った。

だんだん実感が湧いてきて、

ああ、本当に大変なんだって思った。


何となく、覚悟はしていた。


治療室からお医者さんが出てきて、

なにか言ってくれた後に、

死んだ父親と対面した。


覚悟していたはずなのに、急速に悲しみが襲ってきて、泣きそうになった時に、

隣にいた母親が泣き始めた。


母親は今まで見た事がないくらい泣いていて、

それを見たら、自分は泣いちゃいけないと思った。


これから大変になる。


それなのに、私も母親も大泣きしてしまってはいけないと、そう思った。


私は結局、父親が死んだ事で1度も泣けなかった。


私は父親が大好きだった。

父親の仕事はかっこよかったし。

私も誇りに思っていた。

たくさん一緒に遊んだし、

色々な所に行った。


でも、私は泣かなかったのだ。


それが、父親への想いを否定しているようで、辛かった。


今では、泣かなかった事をとてつもなく後悔している。

ごめんなさいお父さん。

あまり直接は言えなかったけど、

私はあなたが大好きだったんだ。

泣くことが出来なくてごめんなさい。

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