第2話

1月になるとユカは僕に日本の玩具を渡した。



「日本に帰ってたの」



そして他にも日本の有名なお寺や初詣の様子の写真を楽しそうに見せてくれた。



そしたら初詣の写真にはユカと並んで面倒くさそうにピースする少年が写っていた。



「カレは誰?」



僕が笑顔で聞くとユカは写真を少し見て、あぁと軽く頷いた。



「ボーイフレンド?」



ユカは面白そうに首を振る。


「もっと、大切な人」


そして大切そうに写真を眺めた。



「イズミってゆうの。イズミアツシ」



それからユカはまた、窓を見た。



そのユカの横顔は僕が今まで見たなかで一番、可愛くて。



「イズミの話をする?」



僕が聞く前に優しい笑顔を向けてくれた。




ユカはいつも僕の気になることを知っている。


日本のお寺も、スーパーの安売りの日も、僕の欲しい本の発売日も。


聞く前に全部、教えてくれる。



ユカはまるで魔女のようだ。



「イズミもseventeen?」


「うん。

同じアパートに住んでて昔から知ってるの」


「ユカはカレが好き?」



そしたらユカは少し黙って呟くように言った。



「好き、か……」



流れる沈黙はまるで風が吹くみたいに僕らの前を通り過ぎた。


それ以来、僕はイズミにとても興味を持った。



「イズミは何が得意なの?」


「ベースボール。8歳の時からやってる」


「じゃあイズミは将来、野球選手?」


「さぁ、無理でしょ。だけど上手だよ」



ユカはイズミのことならどんなことでも知っていた。



「ユカはイズミに詳しいね」


「そうかな。

ってゆうかアラン、そんなにイズミが気になる?」



僕が深く頷くとユカはまた、微笑んで「そう」と短く答えた。



「じゃあ、言っておく」


「またレターですか?」



eメールは届くのにユカはいつも手紙を書く。


切手のこととかを考えると今の時代、絶対にメールの方が安いのに。



「なんでレター?」



僕の前に座り綺麗な日本語で文字を書く。



「だって手紙の方が確実に読んでくれるから」



ユカの書いてることは漢字が多くて読めない。



「アランのことも書いておいたよ」



だけど話を聞いてると大したことは書いてない。


しばらく経つとユカが僕に手紙を渡してきた。



「……なに?」


「Fromイズミ」



僕は手紙をゆっくり開くと薄くて汚い英語で文字が書かれていた。



「……ワォ」



僕が呟くとユカは笑ってイズミの手紙を横から覗いた。



「イズミは字が下手くそなの」



僕は頑張ってその手紙を読んだ。



カレの文法はところどころ間違っていて、スペルもかなり違ったが、それでも一生懸命に書いたことは伝わった。



「イズミはユカの保護者ですか?」



手紙を読み終えた時に聞くとユカは首を傾げる。



「なんで?」


「ユカをくれぐれもよろしくと、すごく丁寧な英語で書いてあります」



「それは多分……、辞書を写したからかな」



だけどユカはとっても嬉しそう。



「そっか、あいつ一応私のこと心配なんだ」



「それからユカは甘いのが好きだから、デブにならないように注意してくれって」



「……カッチーン」


そしてその手紙を読んでもう一つ、分かったこと。



ユカはどうやらイズミにとって本当に大切な人らしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る