異世界転生したのにまだ料理人やってる。
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第1話 転生先も料理人
親ガチャって言葉がある。
簡単に言うと子供は親を選ぶことができないということをガチャに例えた物だ。
そんなことを言うとせっかく産んでもらったのに失礼だとか、親に敬いがないとか言う奴が出てくると思う。
あらかじめ言っておくが俺も親には少しくらい感謝してるし、親の方が俺より苦労した時間が多いのもわかっている。
でも...
「こんな仕打ちあんまりだ!!」
閉店後の厨房に俺の声が響く。
この怒りの矛先は俺の親父である長原 誠志郎(ながはら せいしろう)。
「なんで俺の将来は店の後継ぎだって産まれた時から決まってるみたいなことになってんだよ!俺はあんたの所有物でも都合のいい駒でもない!」
俺の家系はずっと「長原食堂」という飯屋をやっている。まぁなんだかんだ80年以上の割と歴史ある老舗だ。
もちろん、この家に産まれたからにはここを継ぐのは自動的に俺になる。でも、それは...それだけは...
「親父!頼むからもう勝手にさせてくれよ!もう俺高校生なんだからな!いつまでもあんたらの願いにそって生きてらんねぇ!!」
こういう時は沢山あった。そしていつも引っ叩かれて終了するのがお決まりだったが、今日こそは諦めてくれる気がした。
「頼むから!!」
俺は今出せる全力で頭を下げる。
それまで一言も発さず俺の話を聞いていた親父がいよいよ俺の頼みに答えを出した。
「駄目だ!!お前はこの家に産まれたからには必ずここを継いでもらう!将来安泰なだけありがたいと思え!」
...今回も失敗した。
説得に失敗した俺はこのあと親父のフルボッコの刑に会うことになる。
「そ、そりゃないぜ親父!あんた悪魔か!」
「うるさい!...全く、高校生にもなってまだそんなことを言うのか...。料理の腕じゃなくて根性から叩き直した方が良いかもしれんな!?」
...親父はこうなると長い。
「恭平!!お前のその腐った根性締め直してやる!そこに座れ!!」
これが俺の定め。どんなに抵抗しても結局はここを継ぐ以外ないんだ。
俺は大して親父ほど料理はうまくならなかったし、親父の熱血指導で熱くなれるタイプでもなかった。
料理が悪いんじゃないが、俺は料理がいまいち好きになれなかった。
親父のあの性格のせいで何をしようにも親父が立ちはだかってくる。
親ガチャと言うものがもし、本当にあったとしたなら俺はかなり運が悪い、悪すぎる。
家を出ることも出来ずここで一生を終える..
こんな人生あんまりだ!
「恭平ー!?ちょっと!」
厨房から母親の声がする。
長原食堂は飯時になると大体忙しくなる。
こういう時呼ばれるのは買い出しとか手伝いとか頼んでくる時だ。
「はーい!今行く!」
無視してもロクなことがない。とりあえず用件だけでも聞きに行かなければ。
やはり厨房から見える客席は満員。
みんな厨房の奴らの様子を気にせず次々と注文してくる。
母親は長年磨いてきた包丁捌きで野菜を切っていた。
「あ、恭平!ちょっと頼みたいことが、」
「何?」
「ちょっと買い出ししてきて貰ってもいい?私もお父さんも今手が離せなくて。」
「...分かったよ。何買ってこれば良いの?」
「魚屋でね、今日珍しい魚を仕入れるらしくって。新しい料理開発とかに使えないか試してみたいのよ。」
「は、はぁ?」
「だから、それ!よろしくね。」
なんだその雑な頼み方!珍しい魚って、それって!しかも料理開発!?今使うんじゃなくて!
「はぁ...わかったよ。」
母親の勢いが強くて断る理由が思いつかなかった。
「じゃ、行ってくる。」
「ありがとう!いってらっしゃい。気をつけてね。」
引き受けてしまったのは仕方がない。さっさと終わらせてしまおう。
でも、今時お使いとか頼んでくる親。いるのか?ネットショッピングとか知らないのか?
周りの奴らは令和を楽しんでるのに、俺のとこだけ時代が昭和で止まってるみたいだ。
俺も高校にはもちろん行ってるが、流行りとかそういう話にはついていけない。だから、ちょっと困るし、俺だけちょっと常識のない猿みたいなイメージになるのも嫌だった。
一番嫌なのは何度も言うけど俺の将来が店の後継ぎだと決められていること。
このままだと俺は親のコピー品にしかならない。
そろそろ本気でどうしようか決めないと。
グズグズしてると親も本気で殺しにかかってくる。
...?周りが騒がしい。この辺は人通りの多い横断歩道なのは分かるがこんなざわめき初めてだ。
なんかあるのか?
俺は周りを見渡す。
そして最初の最後に見えた物は...
トラックだった。
あの時騒がしかったのは俺を引き留めようとしていた声なのかもしれない。今となってはもう確認することもできないが。
俺はそのまま撥ねられてしまった。
...?
死んだはずの意識がある。
手も動く。足も大丈夫そうだ。
「俺...撥ねられてなかったっけ、」
とりあえず大丈夫そうでよかった。
しかし...
「...!?ここ何処だよ!!!」
買い出しに魚屋まで行こうとして横断歩道でトラックに撥ねられたのは覚えてる。
でも、こんな森来たことも見た覚えもない!
走馬灯でももっとマシなのがある。
それに服も違う。こんな白っぽい高そうな服じゃない。着にくいしなんかゴワゴワする。
「マジで何が起こったんだ...」
「おーい!ノアさーん!」
誰かが全然知らない人の名前を呼びながら俺に近づいてくる。
「ノアさん!ハーブ見つけましたか?」
俺と同い年かそれに近いくらいの女だ。
顔が整ってる。もし高校にいたら間違いなく引っ張りだこなタイプだ。
こんな美人が知人にいたらきっと自慢できるだろう。
でも、俺はこんな奴に出会ったことない!!
そもそもノアって誰だよ!いくら死んでいても俺が長原 恭平だってことくらいは言える!
「...えーっと、誰?」
疑問が飛び交う中唯一今そいつに言えた言葉だった。
女はポカンとしている。しかし、数秒後には笑い出していた。
「誰だって?あはは!冗談キツいですよ〜!あ!記憶草でも間違えて食べちゃったんですかね!まぁすぐ思い出しますよ!」
「いや、俺ノアじゃな
「でも記憶草効果が切れるまで時間があるの面倒だから、自己紹介しときますね!」
前言撤回!コイツ頭がイカれてる!
話を全く聞かずに記憶草とかなんとか意味のわからないこと言って自己紹介はじめやがった!確かに美人だが、それを踏まえてもだ!
「私はクロエ・ヴァン・セリーヌっていいます!王宮グランドリアの宮廷料理人やってます!」
「あ、ちなみに貴方はノア・ジョエル・リリーファって言って私と同期なんです!...どうですか、なんか思い出しました?」
「ちょっと待て!!あんたさっき宮廷料理人って言ったか?」
「?あ、はい。まさに私がそうですからね。」
「それに俺が同期って」
「そうですよ!貴方は私と同じ宮廷料理人です!」
「は...はあぁあああ!?」
今だに情報量が多く理解が追いつかない。
俺はこれが悪い夢だったという僅かな可能性に今を賭けるしかなかった。
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