38話

 黒い竜が降り立った場所は、戦場のほぼ中央。


 儂ら冒険者混成軍は、タリムが召喚したゴーレムの影に隠れたり、魔法師たちによる防御壁の展開が間に合い、なんとか踏みとどまることができた。


「なんてブレスだ…。クレモスの左翼に直撃したみたいだが…」


 ヴァリがゴーレムの隙間から竜の様子を伺っている。


 クレモス軍は左翼側がブレスの直撃を受けていて、大きな損害を受けている。


 突然の出来事には対応できていなかったようだ。ただ、そんな状況でも、クレモスの兵士たちは全く微動だにしておらず、混乱している状況も見えない。


「あの竜…ひょっとして…」


「あぁ…。あれはゼルガンドだ…。世界で7体いると言われる…知能を持つ竜の内の1体だ…。」


 アゼルとエリオスが黒龍を見てその正体について話している。


「知能を持つ竜が人を襲うなんて今までなかったよな?何が起こっているんだ?」


 突如戦場に現れたゼルガンドと呼ばれる竜の様子を皆で伺っていると、竜の背中から誰かが飛び降りた。


「あー、こっちはクレモスだったのか。これは失敗したな。まぁ、旗見たって分からないんだから仕方ないよな」


 竜から飛び降りたのは、若い黒髪の美丈夫だった。竜のブレスで発生したクレモスの惨状を見渡しながら、右手を後ろに回して頭を掻いている。


 場にいるとは思えない軽やかな服装で、肩に羽織ったケープがふわりとたなびいている。


 立ち姿は、その若さに似つかわしくない、言い知れぬ威厳を纏っていた


 その美しい装いとは対照的に、彼の顔に浮かぶ微笑みはどこか狂気を孕んでいるようにも見えた。


「おい!エリオス!それと他の冒険者達!ああいうのはお前達の専門だろ!?あんな化け物竜と戦えるやつはあっちに行け!無理なやつはこっちだ!」


 傭兵団をまとめている男が儂ら冒険者に向かって指示を出す。


 エリオスは二つ返事で了承し、『焔獅子』えんじしのメンバーを伴って駆けだす。そのあとを、『疾風と大地』かぜとだいちが続く。


「俺らもいくよな?」


「想定外の展開っぽいけど、おもしろそうさ~」


「…竜ってすごくおっきいんですね…」


「あぁ。急ごう」


 竜が登場し、状況が変わった事で儂の影の中からルーヴァルとウルも出てきた。


「そろそろわたしの出番もあるのだわ?」


「ヴァウ!」


「そうだな。頼りにしているよ」


 ウルとルーヴァルはひゅっと風を斬り、素早く竜の元へ向かった。


(竜はもちろんだが、何か不思議な気配を感じる)


 妙な胸騒ぎを覚えつつ、儂も駆けだした。




◇◇◇




「お前!何者だ!!何故俺がいる軍を攻撃する!!俺を王子と知ってのやっているのか!?その悍ましい生物はなんだ!!」


 竜から飛び降りた男に声をかけたのは、従者の魔法で、爆風になんとか飛ばされずにその場に残っていたカイル王子だ。この戦いの邪魔をするのであれば斬ると剣を男に突き出している。


「あ~、お前がオーラリオンの王子なのか?なんか小者だな」


 眉を顰めながら、面倒臭そうな表情で男がカイルを見やる。


「無礼な!!その偉そうな態度はなんだ!!」


 カイル王子は激高して剣を手に襲い掛かる。


「ま…五月蠅いから死ね」


 男は煩わしそうに腕を振ると、カイル王子と、従者を含めた、後ろにいた兵士や、馬の肉体が次々に吹き飛び、音を立てて崩れ落ちた。


 特に何か魔法を発したわけではない。ただ、男が腕を振っただけで、肉体が吹き飛んだのだ。


「な!?突然カイル殿下の体が…爆発した!?」


「こいつ…何をした!!!!」


 その状況に驚きの声を上げたのはギレー騎士団の面々だった。


「お前達の構えはいいな。身体強化も淀みない。結構やりそうだ。ってことはギレーだな?このトカゲのブレスにも冷静に対処するとはなかなかやるじゃないか。さすがオーラリオン最強の騎士団と言われるだけはある」


「…貴殿は何者だ。その佇まいはただ者ではない…」


 ギレー騎士団副団長のダリオンは男に誰何すいかすし、盾と剣を持って警戒する。


「その質問に答える必要はないだろ?」


 男は問いには答えず、ゆっくりとダリオンの前に進むと、おもむろに拳を前に突き出した。


「ぐっ、がぁ…!!!」


 盾と拳が激しくぶつかり、ダリオンは大きく後方へ飛ばされた。その盾には大きな穴が開いており、ダリオンの鎧の腹部は大きくひしゃげ、口から血を流している。


「ダリオン副団長!!」


「大丈夫ですか!?」


「おのれ!!!皆、取り囲め!!」


 ギレー騎士団が包囲するが、男の顔には何の焦りもない。それどころか、包囲網の中を散歩しているかのような足取りだ。


「ま…待て…お前達…。その男はお前達の手に負えない…。俺が…やる」


 壊れた盾を捨て、剣を支えにダリオンは立ち上がった。目に力はあるが、攻撃のダメージはかなり大きかったことを感じさせる状態だ。


「いいぞ、ちゃんと俺の拳を受け止めたお前は、さっきの小者より断然いい。力の差もきちんと認識できている」


 拳を鳴らしながら、一歩一歩ダリオンに近づく。


「俺の拳に耐えるという事は、それだけの強化をできているということだ。きちんと鍛えているやつはやはり違うな。まぁ、その様子じゃぁ剣を握るのもやっとみたいだが」


 ダリオンは男に向かってぐっと力を込めて剣を構えるが、先ほどと違い弱弱しい。


 その姿を見た男はチッと舌打ちし、つまらなそうな表情をした。


「手加減してやるから、できる限り耐えろよ?」


 男が拳を振り上げ、ダリオンに向かって飛び出したその時―


「どりゃぁぁぁぁぁ!!!!」


 大剣を振り上げたエリオスが上空から現れ、男に向けて大剣を振り下ろす。


 瞬間、男は急停止すると、手前にエリオスの大剣が突き刺さり、大地に穴を穿つ。


「ちぃ!惜しい!!」


「ほぉ…。これは面白そうなやつが出てきたな。冒険者か?」


 エリオスは剣を地面から引き抜き、ダリオンを庇うように男に向かって構える。


「ここに来るまでに一部始終見てたが…ダリオン副団長の盾を素手でぶち抜くなんて普通できないぜ。…お前…何者だよ」


 ダリオンと同じように、男に対して素性を問いかけるエリオス。男はその言葉に反応することもなく、右手は腰に左を顎に当ててエリオスを見定めるような視線を向けている。


 彼の顔に浮かぶ微笑みはどこか狂気を孕んでいた。


 黒い髪は乱れることなく額に沿って流れ、その下にある瞳は異常なまでに鋭い光を宿している。


 退治しているダリオンは体中から冷や汗が噴きだしているのを感じていた。


(なんだ…こいつは。今まであったやつとは段違いの存在感だ。それにこの気配…。こいつから魔力を感じない。なんていうか…シノに空気が少し似ているような)


 エリオスが目の前にいる得体の知れない美丈夫について観察していると、やがて他の冒険者達が追いついてきた。


「エリオス!無茶する!」


「やるじゃねぇか。間に合ったみたいでよかったぜ。んで、こいつは誰だ?」


 『疾風と大地』かぜとだいちのアゼルと、焔獅子えんじしのガルラがエリオスの後ろに控える。


 追いついてきた『疾風と大地』かぜとだいちのリヴァナ、グリナス、リィナが隊形を組んで男を警戒し、その後ろからシノ達がこちらに向かってきていた。


 ダリオン団長の様子を見るため、後方に一旦引いていたヴィクター、ジョシュア、ナディアも援護の為に合流する。


 クレモス軍も全体的に動きが止まり、竜は引き続き動く様子を見せないため、警戒をしつつ、この男の行動を皆が注視している。そんな時であった。


「う…うそ…い…いやぁぁぁあぁあっぁぁあ!!!」


 ギレー合流した冒険者の中から突然焔獅子えんじしの一員、神官のセリナが男を凝視したかと思えば、突然の錯乱し始め、叫び声をあげてその場にうずくまる。


「セリナ!セリナ!!大丈夫!大丈夫だから…!!」


「いや…いや…なんで…あいつが…いや…殺さないで…」


 セリナとずっと一緒に行動していたカリナがうずくまって怯えている彼女を必死で宥めている。


 その状況に気が付いた男が口を開く。


「なんだ。そこにいるのはタリシア公国の聖女じゃないか?こんなところにいたのか。…探したんだぞ?」


 男はセリナを見つめるとニコリと笑い、セリナに向けて指をはじくようなポーズをとる。


「ガルラ!!盾を持って間に立て!!!」


「!?」


 危険を察知したエリオスの言葉に瞬間的に反応したガルラは、手に持っていた盾を前にして即座にセリナと男の間に割り込む。


 次の瞬間にはガルラの盾に凄まじい衝撃が走る。


「ぐ、ぐぅぅぅぅ!!なんて力だい…!!!盾が悲鳴を上げてるよ!!!」


 大柄で筋肉質な彼女が全力で踏ん張っているにもかかわらず、セリナの前まで押し込まれた。盾戦士の装備だけあって、盾が壊れることはなかったが、ガルラは肩で大きな息をしていた。


 セリナに対して、男が何らかの攻撃したが、間一髪間に合ったようだ。


「…ここに集まってきているのはクレモスのような雑魚じゃないみたいだな…。ん?」


 男が、何かに気づいた。その視線は、セリナの元に到着したシノと、ウルに向けられていた。


「…あれが報告にあったピクシーと…。バロクトスを屠った少年か」


 計り知れない冷徹さを含んだ笑みを男は浮かべた。その時、男の後ろからクレモス領主、グラニスが現れた。


「我が主」


 隣に並び、男を『主』と呼んだ。その様子を見ていたナディアは、目を見開いて驚いている。


「おう。準備はできてるのか?」


「この戦闘前に完了しています。いつでも対応可能です」


「ははっ。そりゃぁいい。じゃぁとりあえず、傀儡は外しとけ。そっちのほうが面白いだろ?」


「仰せのままに」


 グラニスは腰のホルダーからベルのようなものを取り出すと、チリンと鳴らす。


 澄んでいるが、どことなく不安感を感じさせるベルの音が戦場に鳴り響く。


「グラニス!!何をした!」


 エリオスはベルの音は何を意味するのか聞くと、グラニスは邪悪な笑みを浮かべ、あたりを見渡す。


「見てみるがよい」


 エリオスを始め、ギレーの騎士団、ヴィクター達、冒険者達が周りを見ると、戦いの最中、一切表情が変わらなかったクレモスの兵が突然騒ぎ出している。


「な…なんだこれ…。俺、どうしてこんなところにいるんだ?」


「これなに?なんで私…槍を握ってるの?この傷と血はなんなの!?」


「いてぇ!!手が…手がねぇ…!!!」


「おかしいの…私の…体がないの…ねぇ…どこ…?教えて…」


 戦いで無事だったクレモス兵、貴族は突然、戦場に放りだされたかのように戸惑い混乱し、傷を負っていたものは大小にかかわらず叫び、苦しみ、阿鼻叫喚の様相を呈していた。


「はははは!!!いい!!いいぞ!!!これだ!この声が聞きたかった!!!」


 名前も知らぬ美丈夫の男は歓喜の声を上げる。


「突然の理不尽に混乱し、畏れ、恨め!!!その声こそが俺の望みだ!!はははは!!!」


 目の前に広がった惨状に、ギレー軍、冒険者、傭兵含め、声一つ出ない。


「ここからが本番だ。グラニス。いや、それはもう必要ない名前だな。やれ、


「お任せあれ。この場所をさらに恐怖と混沌に陥れましょう。―――魔影顕現デモニックサモン


 "メルフィアズ"と呼ばれたグラニスが詠唱をすると、クレモスの兵が次々に異形の姿に変わっていく。


「クレモスの兵達が…!」


「なんだあの姿は…信じられない」


「…これが…悪魔…」


 それは学園の闘技場で現れた悪魔と類似したものだ。初めての現象にギレーの騎士団、そして冒険者、傭兵たちは愕然としている。


「あの時と同じですわ…」


 姿形が変わっていくグラニスを、唇をかみしめながらナディアが見つめていた。その瞳には涙が溜まっているようだ。


「…あぁ。やはり現れたか」


「ここからが本番だな。竜がどう動くのかも注意しなければ」


 ヴィクターとジョシュアも悪魔の登場を冷静に受け止め、これからどうすべきかを話している。


 異形の存在が突然現れ、混乱していたクレモスの兵は恐怖にかられ、我先にと逃げていく…が。悪魔に変貌したもの達に襲い掛かられ、次々と喰われていく。


 グラニスもその体が一気に変貌していく。そして、メルフィアズと言う名の異形の者に変化を遂げた。


 メルフィアズは、異様に細長い体をしていて、学園に現れたバロクトスとは異なる。ガルラと同じほどの背丈だが、その体は骨と皮だけでできたように痩せている。


 全身は暗灰色の甲殻のような硬質な皮膚に覆われており、ところどころが亀裂のように割れて、中から赤黒い光が漏れていた。四肢は以上に細く長い。


 顔は人間に似ているが、3つの目があり、縦に割れた瞳孔が闇の中で光を反射している。


「…我が名はメルフィアズ。『災禍の十使徒』の一柱なり」


 大きい体格というほどではないが、その威圧感は人のそれではない。


「…これが悪魔かよ…。やべぇ気配がビンビンじゃねぇか…」


 間近で相対しているエリオスは、全身でその危険を感じ取っていた。




 ◇◇◇




 グラニスがメルフィアズに変貌する少し前。


「やだ…やだ…殺さないで…助けて…」


 儂たち学園組は、竜から降りてきた正体不明の男を警戒しつつ、ウルにサリナの様子を見てもらっていた。


 魔法で少しサリナの気持ちを落ち着かせた後、カリナに一旦、後方に下がるように伝える。


「…すまない。こんな大事な時に…」


 普段口数が少ない有隣族の彼女がこんなに言葉を発することはない。それほどの出来事が発生したという事だ。


「大丈夫です。この戦いが終わったら話を聞かせてください」


 カリナはこくりと頷くと、アイゼラの北門へ向かう。


「シノ、あの男、ちょっとシノに似ているのだわ…」


「…変な気配だとは思うが、儂に似ている?どういう事だ?」


 ウルが非常に難しい顔をして続ける。


「あいつ、シノと同じで加護を持ってないのだわ…。そして。魔力も感じないのだわ」


 …なるほど、それはある意味儂に似ていると言える。ただ、あの男が行使している異様な力は一体なんなのだろうか。


「シノ!なんか動きがあるのさ!!」


「グラニスがあの変な奴と合流した!」


 儂も男たちの様子を伺うと、グラニスの手にあるベルの音が鳴ったかと思うと、それまで一切の感情の変化がなかった周辺のクレモス兵が大混乱に陥った。


 その様子を見ていた男が大きな笑い声を響かせながら。グラニスから、学園の時に感じた邪悪な力が溢れているのを感じる。これは…悪魔召喚…?


「ヴァリ!レオ!学園闘技場の時の気配がする!警戒するんだ!」


「あいあいさ~!あの時のやつらが出てくるのさ~?あいつら面倒だったのだよね…」


「おう、やるしかないな」


「タリムはゴーレムを今のうちに。特に、悪魔と戦ったことがない冒険者隊の後衛の前に配置を!」


「は、はい!!皆さん!!今からゴーレムを呼びます!!」


 ヴァリ、レオ、タリムにそれぞれ指示を出す。


「…あの時のわたしとは違うのだわ!!絶対にぎゃふんと言わせてやるのだわ…!!」


「ガウ!!!」


 ウルは今度は痛い目に合わせてやると意気込んでいて、ルーヴァルもやる気満々だ。


 ルーヴァルは、学園の時に悪魔相手に全力で戦うことができたのがとても楽しかったようだ。


(ウルとルーヴァルは悪魔が気になっているが…儂は…あの黒竜が危ういように見える…)


 竜はブレスを吐いてあの場所に降りて以降、まったく動きを見せない…。


 空を飛べるので、もし…アイゼラの街に向かった場合が少々厄介になるのではないか…と思う。


 次の瞬間、グラニスから邪悪な瘴気の気配が戦場中に広がり、クレモス兵が次々と悪魔に変貌していく。


 ギレーにも数少ないとはいえ、数人が悪魔に変貌したことであちこちで混乱が起きている。


「…!!グラニスが悪魔になったさ…!!!あのメルフィアズってやつ…多分学園のより強いさ」


 メルフィアズをじっと見るレオの髪の毛がツンと逆立っているが、彼女は勇気がある。怖いから逃げたいとは絶対に言わない。


 その時、強烈な閃光が走ったかと思うと、突然の轟音がアイゼラの方向から聞こえた。


 儂らの注意が変貌した悪魔に向いていたためか気づかなかった。黒竜からブレスが放たれ、アイゼラの城壁を直撃し、大きく崩れ落ちていたからだ。


 ギレーの騎士団や、傭兵、冒険者達が悪魔に対応しているが、隙間を縫って抜けた個体がそちらに向かっていくのが見えた。


 そして、黒竜がゆっくりと上空に上がると、アイゼラに向かって飛んで行った。


「まずいぞ、シノ。アイゼラに竜が…!あっちもやばいぞ!!」


「…くっ」


「どうするのだわ!?」


「ヴァウ!?」


 悪魔と竜、天秤にかけることもなく、どちらも脅威は同じだ。現在のギレーの主戦力はほぼこのオーパス平原に出陣しているし、悪魔を想定してはいても、竜は想定していない。


 この戦いの傷病兵なども城門の中にいるし、多くの避難民もいる。城内にはレグレイドやシェリダンがいるが、戦力は足りるか?どうするのが最善だ?


 儂は、前世界で魔獣との戦いに明け暮れていた事を悔やむ。戦場の臨機応変な判断は、経験に裏打ちされたものがとても大切だからだ。


「シノ!!お前とウルは竜に行け!!!」


 エリオスから指示が飛んでくる。


 焔獅子えんじし『疾風と大地』かぜとだいち、ヴィクター王子、ジョシュア、ナディアは強力しながらメルフィアズと戦っている。


「こっちは俺達がやる!ヴァリ、レオ、タリムを貸せ!学園での話は聞いてる!今この場で流れを変えれるのはお前達だけだ!」


 エリオスの言葉を聞いてすぐに儂の意志は固まる。


「ヴァリ、レオ、タリムはエリオスと合流!ウル!ルーヴァル!行くぞ!!!」


「任せとけ!」


「頑張るのさ!」


「アイゼラのみなさんをお願いします…!」


 儂らは即座に竜の後を追う。


 ウルの収納魔法から、宵月を取り出してもらい、腰に佩きながらアイゼラに向かう。迅速功は最速だ。


「あのクソ悪魔にやり返せないのは残念だけど、こっちも大事なのだわ!!」


「ガウ!!!」


 悪魔に対しては事前に準備しているため、ある程度の対抗手段はあるかもしれない。しかし竜については全く備えが無いはずだ。


(あの竜が城壁に着く前に戦いに入るのが最善…。間に合え!)


 戦場に発生した大きなうねりは、アイゼラの街まで飲み込もうとしていた。



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