深夜街の蝶【完】 【再掲】
猫山鈴助
第1話 逃げ出した羊
僕を取り巻く呪いはずっと消えないみたいだ。
暗い部屋の中で、凍るような冷たい吐息を吐く。
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じょろろろろ…
僕の頭にドロドロの液体がかけられる。
どうやら洗剤のようだ。洗面所に置いてあるためか、外に置かれていたかのように冷たい。
「汚い、片付けろ。」
僕より身長が高く、僕よりずっと汚く、顔だけがよく似た女が言う。
「はい。」
僕は女への殺意をいつも通りに抑え、床にこぼれた洗剤を自分の服で拭き取る。
女は僕を気持ち悪そうに睨むと、ここよりずっと暖かそうなリビングへ入っていった。
悔しいが、僕はこの女に勝てない。何より、この寒空の下一人で外に出たらきっと死んでしまう。
濃い洗剤の匂いがする服を脱ぎ、洗剤が床に垂れないように自分の部屋へ運ぶ。フローリングの床の寒さに体が震え、気が触れそうになるが、あの女からそんなことは許されてない。憎しみを噛み潰すように笑顔を作る、奥歯がギリギリと鳴っている。
普段ならこれで怒りは収まるが、今日は違った。何か特別嫌なことがあったわけではないはずだ、偶然今日耐えきれなくなったのだろう。
噛み潰しきれなかった憎悪が体から雷のようにほとばしる、ーーー鉄砲の弾が飛ぶように瞬発的にリビングへ入り、目前のクソ女を勢いのまま殴り飛ばし、女の服と上着を奪って外に駆け出した。
階段を滑り降り、道に出た頃に女が叫ぶ。
「おい。誰のおかげで生きてこれたと思ってるんだよ!」
「死ね!!!!このクソ女が!死ね!」
僕は初めてあの女に歯向かった。あぁ、殺される。そう思い、駆ける勢いが少しずつ弱まっていく。しかし、このまま足を止めたらまたあの女の言いなりになると僕は知っていた。弱まる心を奮い立たせるように、呪われているみたいに最低な暮らしへの憎悪をエネルギーにして無我夢中に走った。
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