第51話 最高の朝
朝の陽ざしを浴びて、一華はまどろみから目覚める。
ああ……あのまま私、寝てしまったんだわ。
甘美な時間は、身も心もとろとろに溶かしてくれた。蜂蜜のように肌に纏いつく糖分を、今も感じる。
全てのエネルギーを使い果たした後の疲労感は心地よくて、すべすべのシーツに、もう一度肌を滑らせた。
目の前の龍輝の顔を、何にも邪魔されず眺められる喜びに、一華は静かに微笑んだ。
満ち足りたように、無防備に、無邪気な寝顔を晒している龍輝。
少年のような表情を、一華はずっと眺めていたくなる。
でも昨夜は……
最高に、傲慢で繊細な男だった―――
まだ残る体の疼きを反芻する。
二人で最高の初めてを経験した後、続けて何度も最高を味わった。
思っていた以上に、龍輝は貪欲だった。
一華にとっては嬉しい誤算だったが。
二人で貪るように互いを与え合った後は、泥のように眠り込んでしまったのだった。
でも、私の方が早く目覚めることができたわ。
ラッキー!
龍輝の寝顔、見放題!
ニマニマと眺めていたら、急にぱちりと龍輝が目を開けた。
「おはよう」
「お、おはよう」
慌てて掛布団を目元まで引き上げた一華。
「ん? どうしたの?」
「ううん。何でもない」
悪戯っぽい瞳で笑った龍輝が、優しく一華を抱き寄せた。
「体、痛くない?」
「うん、大丈夫」
「最高だった」
「私も、最高だった」
二人で顔を見合わせて、フワリとキスを交わし合う。
だが次の瞬間、龍輝にまたスイッチが入ってしまった。
「朝の光の中って言うのも、いいね」
「え、龍輝? ん、んあっ」
優しい舌と指先に、一華の体はアッと言う間に熱を持ち始める。
「もう、しょうがないなぁ」
「しょうがないの? そんなはずないよね。君の体は正直だよ」
「意地悪」
笑いながら一華に襲い掛かる龍輝。口とは裏腹に龍輝に肌を寄せる一華。
最高の夜は、最高の朝に―――龍輝が想像していた最高の朝が明けきるのは、もうしばらく後のようだ。
明るい中、汗だくで抱き合った二人。
快感に痺れた体には、流石にもう力が入らなくてぐったりと横になった。
「今日はのんびりしよう」
しばらくして、龍輝が言う。
「うん」
そのまま二人で語り合う。
ぽつりぽつりと思いつくままに。
呟くような語り。
龍輝の落ち着いた低音と、一華のよく通るソプラノ。
互いの声が心地良くて、耳を傾けながらまたまどろむ。
そんなダラダラとしたひと時が、たまらなく愛おしかった。
ブランチと言うよりは、既にランチの時間。シャワーを浴びてから、ルームサービスでお腹を満たす。
昨日の雨が嘘のように、今日も青空が広がっていた。
海からの風が涼しくて、窓辺のソファで寄り添いながら、一昨日のマンタと亀の映像を見る。
「龍輝ったら、いつの間に」
自分が撮影されていることに全然気づいていなかった一華が驚く。
「そりゃ、プロですから」
「ビデオ撮影のプロ。確かに綺麗に撮れてる」
海での撮影は波の影響もあり、なかなかにコツがいる。それにも拘らず、マンタの姿や亀の顔がクリアに撮影できていた。
「この映像があれば、いつでもあの日を味わえるわね」
「そうだね」
でも、またマンタに会いに来よう!
龍輝と一緒に。
そう誓う一華だった。
「ホテルのプール行ってみる?」
龍輝の提案で水着に着替えたのに、一華のパレオ風の水着姿を見た途端、渋い顔になった龍輝。
「やっぱり、止めようかな」
「え! どうして?」
「綺麗な一華を誰にも見せたくなくなった」
「もう、龍輝ったら」
「本気でそう思っているけれど、それじゃホテルのプールに入れないから我慢しよう」
今度は笑いながら手を差し出した。
すると、今度は一華が渋い顔になる。
「やっぱり止める」
「え、いいの?」
「私も龍輝のセクシーな身体、誰にも見せたくない」
二人で笑いだした。
結局、夕暮れ時になったらプールサイドバーに行く事で決着。
空きっ腹にお酒は危険なので、レストランで軽く食べてから向かう。熱の残るプールサイド。デッキチェアに座って水面を眺める。
やがて太陽は西に傾き、周りを赤く染めていく。
どちらからともなく手を伸ばし、繋ぎ合って最後の光を見送った。
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