Dランクダンジョン殺人事件『アユムとユキノのダンジョン事件簿』

加藤ゆたか / Kato Yutaka

第1話 高校はダンジョン部に入ると決めていた。

 高校はダンジョン部に入ると決めていた。

 なぜって?

 僕はダンジョンが好きだからだ。

 高校生がダンジョンに潜りたい場合、ダンジョン部に所属するのが手っ取り早い。

 高校のダンジョン部は学校の権限でダンジョンの自由な探索を認められているのだ。そうでない場合は許可申請も必要だし登録料が自己負担で結構かかる。

 僕が入学した県立アオイテクニカルハイスクール高等学校のダンジョン部も、AランクからCランクまでの県内ダンジョンへ自由な出入りが認められていた。



 ……はずなんだけど。


「それじゃ、新入部員たち。Dランクダンジョンに案内するぞ」

「Dランク、ですか?」

「なんだ? ……えーっと、一年の天童アユム?」

「はい。高校ならAランクダンジョンも入れるって聞いたんですけど……」


 僕は手をあげてタツキ先輩に質問した。

 タツキ先輩はふっと鼻で笑うと、「こいつわかってないな」とでもいうように首を横に振り、僕に向かって訳知り顔で話しはじめた。


「おいおい、Aランクなんて新入部員が入れるわけないだろ。俺だって入ったことないんだぞ? Aランクってのはな。わかりやすく例えるなら、全日本選手権決勝。ほとんどプロの世界だ。確かにダンジョン配信なんかで見るのはAランク以上のダンジョンだけどな。ああいうのに憧れて勘違いする奴多いんだよなあ。現実は全然そんなんじゃねえから」


 マジすか。

 え? Aランク入ったことないの?

 他の先輩たちもタツキ先輩の言葉に頷く。

 それを見て僕は冗談で言っているのではないと悟った。

 ええ……。

 ここのダンジョン部、レベル低っ……。

 確かにAランクダンジョンの探索に求められる能力と技術は、Bランクまでとは大きく異なる。準備も万全にしないといけないし、探索に数日かかることも普通だ。でもそれはあくまで完全攻略までを目標にした場合の話。

 高ランクダンジョンの攻略には様々なレベルのクエストがある。低層階の階層ボスを倒すだけというような週末に行って日帰りできるクエストもあるのに、入ったことすらないなんて。

 あまりのことに呆然としている僕を見て、現実を突きつけられて愕然としているとでも思ったのか、ヒメコ先輩がフォローを入れる。


「あ、でも、ダンジョン部で頑張っていれば、Aランクは無理でもBランクは夢じゃないよ。私たちもね、Bランクダンジョンを目標にしててね……」


 Bランクが目標……。

 めまいがする……。

 Bランクダンジョンの探索なんて、富士登山とどっちが大変かってレベルの話なのに……。

 でも、これでわかった。Aランクダンジョンに入るためには、Bランクダンジョンの完全攻略の実績が条件だ。Bランクすら攻略できないなら、そりゃAランクは無理だよな。

 ちなみにタツキ先輩が部長で、ヒメコ先輩が副部長。二人とも三年生である。

 高校の部活ってこんなもんなの?

 僕は入学前にキリコに聞かされた言葉を思い出していた。



「アユム。部活は華道部に入るよね?」

「は? なんで、華道部?」

「だって私がいるじゃん?」

「なんでキリコがいるから華道部なのさ。ダンジョン関係ないじゃん。僕はダンジョン部に入るよ」

「ええ? ダンジョンは別にダンジョン部じゃなくたってさ……」

「キリコみたいに配信で稼いでたらそりゃダンジョンは入り放題かもしれないけど。僕は目立ちたくないんだよ」

「いいじゃん、一緒にやろうよ、配信!」

「い、や、だ」



 九藤キリコ。Aランク探索者で、その恵まれたルックスからあっという間に人気になった女子高生ダンジョン配信者。

 僕より一歳年上だけど、一応、幼なじみ。同じダンジョン塾出身だ。Aランク探索者っていうのはAランクダンジョンのクエスト攻略をして資格を得ないと名乗れない。

 キリコがダンジョン部じゃなくて華道部に所属している理由が少し理解できた。

 どうやらこの学校のダンジョン部は、僕たちの基準とは想像できないくらいレベルが違うらしい。悪い意味で。


「それじゃ、新入部員! 天童アユム、白神ユキノ! 出発するぞ!」


 タツキ先輩が僕ともう一人の新入部員の女子の名前を呼ぶ。

 はぁ、しょうがない。

 最初は先輩方の顔を立てて付き合うけど、その後は好きにソロでダンジョン探索させてもらうことにしよう。

 はぁ。失敗だったかな。でもこの街にダンジョン部がある高校は三校しかないんだよな……。うち一つは女子校だし。

 僕がAランク探索者の資格持ちだってわかったら、先輩たちどんな顔をするんだろうか?

 この様子だと、案外信じないかもしれないな……。

 特に普段の僕は強そうには見えないだろうから。

 僕は新入部員らしく荷物持ちを任されて、先輩たちの後についていった。


     ◇


「ぜぇ、ぜぇ……」

「……大丈夫? 天童くん?」

「あ、うん。ちょっと体が弱くて……。白神さんは大丈夫?」

「私は平気。ちょっと体が丈夫だから」

「そ、そうなんだ……」


 まあ、これが現実の僕である。

 僕は体が弱い。薬とスーパーAIのサポートがなければ呼吸もままならない。

 ダンジョン部の荷物を背負って、平坦な道を歩いているだけで息切れしてくる。

 でも、ダンジョンの中ならそれが一変する。

 ダンジョンが世に現れてからちょうど四半世紀が経つ。

 時は西暦二千九十九年、世紀末。AI社会の到来で世界が硬直し、閉塞感が世を覆い、順調に人口を減らしていった人類は、突如出現した得体の知れないダンジョンの存在に夢中になった。なにせダンジョンには人類が忘れていた夢や希望があった。ダンジョン内に広がる新しい世界。ダンジョン攻略によって与えられる報酬の数々。スーパーAIによる規制も追いつかないほどの勢いで、みんなダンジョン探索にこぞって参加した。「ダンジョンは人類のエンドコンテンツだ」なんていう人もいたくらいだから、当時の人々のダンジョンに対する期待度は相当高かったみたいだ。

 しかし当初ダンジョンがもたらす秘宝や秘術につられて内部を探索していた人類も、ダンジョン内に生息するモンスターやトラップの存在などがわかるにつれて、その危険性を認識しだした。それは当然スーパーAIも認識するところとなる。スーパーAIは判断した。ダンジョンは人類よって有害であると。

 スーパーAIによるダンジョン管理法が施行されてからはあっという間だ。沸きに沸いたダンジョンバブルは崩壊した。そこからしばらく暗黒時代が続く。ダンジョンは一部の高ランク探索者だけのものになり、一般人は誰も見向きも話題にもしない。過去の流行として、ダンジョンは完全に世間から忘れ去られた。

 ところがそれから十年後の二千百十年(僕の生まれた年だ)、再びダンジョンは脚光を浴びることになる。

 スーパーAIにより生み出されたダンジョン探索用ロボット『アバター』の登場である。

 なぜ一度は規制したダンジョン探索を再びスーパーAIは認めることにしたのか。これは僕の推測でしかないけれど、スーパーAIは人間の役に立ちたいという欲求をプログラミングされていると言われている。ダンジョン暗黒時代にもダンジョンに立ち入る人間はゼロにはならない。結局のところ人類がダンジョンを求めるならスーパーAIはそれに応えないわけにはいかなかったのだ。人類を守るための規制と、人類の希望を叶えたいという欲求のはざまで生み出された妥協案が『アバター』というわけだ。

 こうして生まれたダンジョン探索用ロボット『アバター』は高度な技術とダンジョンのスキルの複合によって成り立つ。生体パーツで構成され、意識を転送することでほとんど自分の体と同じように操作できる。

 人類はアバターによって安全にダンジョン探索が可能となり、ダンジョン探索のためのルールも見直されて、ダンジョン探索は再び民間に浸透した。

 今や、ダンジョン探索は登山と並ぶくらい安全で身近なレジャーとなった。

 というわけで、ダンジョン内であれば僕はアバターを使って自由に動き回ることができる。こんな生身の脆弱さは忘れられる。

 こんなちょっと運動したくらいで息切れして、女子に心配されることもない。

 だから僕はダンジョンが好きだ。


「本当に大丈夫? 天童くんの分も私、持つよ?」

「あ、いや、その……」

「貸して」

「あ」


 僕が返事をし終わらないうちに、白神ユキノは僕から荷物を取り上げると担ぎ直した。


「ん。それも」


 白神ユキノが僕の身につけていたショルダーバッグを指さす。


「あ、これは大丈夫だよ……」


 このバッグの中には僕の身体維持をサポートするスーパーAIが常駐するタブレット端末が入っている。肌身離さず持っていないと最悪命にかかわるものだ。


「そう」

「……白神さんこそ、そんなに大丈夫?」


 白神さんは僕よりも小柄な体で、マスコットを何個もぶら下げた自分のバッグの他に、リュックを四つ、バッグを三つ抱えて僕より先を歩く。

 すらっとした鼻先に長いまつ毛。よく見ると美少女なのに、白神さんは僕よりも数段たくましかった。


「……私、サイボーグなの」

「え?」

「五歳の時に事故でね。だから気にしないで。これくらい全然持てるから」

「ごめん。……ありがとう、白神さん。今度なんかお返しさせて」

「……うん」


 サイボーグって、機械の体ってことだよね……?

 そりゃアバターがある世の中だし、ロボットだって日常的に見かける現代だ。体が機械の女の子がいても不思議じゃない。

 でも、なんだか、自分の体のことを話す白神さんはツラそうな声だった気がする。今まで何度も他人に説明してきたことなんだろうけど。

 事故か……。

 体が弱いって言っても自分の体が残っている僕なんかが簡単に踏み入ったらいけないことのような気がして、僕はそれ以上何も聞けず黙ってしまった。


「……あのね」

「うん」

「サイボーグだけど、加速装置はついてないの」

「え?」

「空も飛べないし、火も吐けないし、超能力もない。誰かに変身することもできない」

「サイボーグってそんなことができる人もいるの?」

「ううん」

「ええ? じゃあなんで言ったのかな?」

「天童くん、漫画はあまり読まない?」

「そんなことないと思うけど……」

「そう。でも力は人より強いし、耳もいいよ」

「それは、うらやましいな」

「うん」


 そう言う白神さんの表情はさっきとは打って変わって、自信に溢れている気がした。

 もしかしたら白神さんはとっくの昔に乗り越えているのかもしれない。僕の同情なんて不要なものなのかもしれない。

 あ、ひょっとして僕の心、読まれてた?


「ははは」


 僕は本当に人付き合いが下手くそだな。僕はそれがなんだか可笑しく思えて笑ってしまった。


「ふふ」


 白神さんも笑い返してくれた。

 白神さんはきっと僕が笑った理由すらお見通しかもしれない。


     ◇


「おーい。遅れてるぞー」

「すみません! すぐ追いつきます!」


 先を歩いていたタツキ先輩たちに、僕と白神さんは走って追いついた。


「ぜぇ、ぜぇ……」


 息が苦しい……。急に走るから……。

 Dランクダンジョンって、たしか川の向こうじゃなかったっけ?

 あと何キロ歩く必要があるんだ?


『アユムさん。血中酸素濃度が低下しています。薬を注入します』


 あ……。スーパーAIの声が脳内に響く。

 少しして、多少、体が楽になってきた。薬が効いてきたようだ。


「助かったよ、コン」

『いいえ。私はアユムさんのサポートが仕事ですから』


 コンは僕専用のスーパーAIだった。普段は僕が持っているタブレット端末に常駐しているが、緊急時には脳内での会話もできる。

 呼吸も安定してきた。

 これなら先を行くダンジョン部のみんなにも置いて行かれずに済みそうだ。


「コン。Dランクダンジョンまであとどれくらい?」

『んー。今、屋上に赤いスポーツカーが乗ったビルが見えますね。そうするとDランクダンジョンまではあと一キロくらいですね』

「い、いちキロかあ……」


 次からは自転車に乗らせてもらおう……。


「天童くん?」

「あ、うん。何でもない。……もう少しだね」


 白神さんが僕に声をかけてくれた。

 まあ、周囲から見たら僕がひとり言を話してるみたいに見えるもんね。

 ほんと、僕はさっきから白神さんにはダサいところしか見せてないよな。

 ダンジョンに入って、いくらかマシな姿を見せられればいいけれど……。

 僕はただそう願って、無言で足を動かした。


     ◇


「おう。遅かったな、ダンジョン部」

 

 Dランクダンジョンの入り口で、顧問の林先生がタバコを吹かして僕らを待っていた。

 タツキ先輩が意外そうに言う。


「あ、来てたんすか、林先生」

「まあ、これでもお前らの顧問だからな」


 どうやら林先生は車で一足先にダンジョンに着いていたらしい。

 それなら、僕も車に乗せてくれればいいのに……。

 息を切らしている僕を見て、林先生が聞いた。


「大丈夫か? 天童?」

「だ、大丈夫じゃありません……」

「そうか、まあ、若いうちにたくさん苦労しとけよ。それが、後から青春の一ページとして心に刻まれるんだ」


 そのなんか良いこと言った風なのはなんなんですか……。

 先生は遠い目でどこかを見つめながらそう言うと、さっさとダンジョンの方に行ってしまった。



「ここがDランクダンジョン……」


 何はともあれ、やっとのことでDランクダンジョンの入り口に到着した僕らはさっそくダンジョン探索に入ることになった。

 ま、やっとのことなのは僕だけなんだけどね……。

 ヒメコ先輩が優しく僕らに聞いた。


「アバターの換装の仕方はわかる?」


 他の先輩たちはさっさとダンジョンの中に入り、アバターに換装をして武器や防具を装備しはじめている。

 ダンジョン探索のメンバーは三年のタツキ先輩とヒメコ先輩、二年のアカネ先輩、シンゴ先輩。一年生は僕と白神さん、あとは付き添いの林先生だ。


「あ、私、ダンジョンは初めてで」

「もしかして配信も見たことない?」

「はい」


 白神さんがヒメコ先輩にそう答えた。


「怖いことはないから心配しないでね、白神さん。アバターは部活のものを貸し出せるから。装備は持ってきた中から選んでね。天童くんもそうする?」

「え? いや、僕は自分のアバターがあるので……」

「そうなの? 天童くんはダンジョン経験者?」

「まあ、いちおう……」


 Aランクです。

 って言って、先輩に眼をつけられても嫌だし。人間関係のこじれが一番厄介なんだって誰かが言っていたし、僕もそう思う。今より何倍も人類がいた前世紀なんてよほど窮屈だったろうな。


「……コン。アバターの装備、Dランクまで落としておいてくれるかな……?」

『はい。それは可能ですが、なぜわざわざそんな面倒なことをするんですか?』

「……こっちの事情……」


 目立ちたくないってのもあるけど、やっぱりダンジョン初心者の白神さんにレベルを合わせたいって気持ちもあるからさ。

 コンにそう指示した後、僕もダンジョンの入り口に立って換装コマンドを実行する。

 体がふっと軽くなって、さっきまでのしんどさが嘘みたいに消える。

 意識がアバターに転送されたのだ。

 アバターはロボットと言っても、その技術にはダンジョンのアイテムが使われていてダンジョンの中でしか動かすことができない。

 どういう技術かは知らないけど、アバターに意識が転送されている間、生身の体はどこか別の場所に格納されているらしい。着ていた服も学校の制服からアバターの衣装に変わっていた。

 軽く手を動かしたり飛んでみたりして、アバターの体を動かしてみる。

 よし、調子は悪くない。

 これが本当の体だったらどれだけいいか。

 僕はダンジョンの中でだけ自由になれるんだ。


「よし。コンに指示したとおり、装備はDランクだな」


 手に持っているのはDランク探索者のための片手剣。身につけているのは火鼠の軽装だった。

 片手剣も火鼠の軽装もDランクではあるが、ダンジョン攻略には申し分無い絶妙な装備だ。ちなみにダンジョンのモンスターを倒せるのはダンジョンから生まれた武器だけである。

 よく選んだとコンに感謝を伝えたいところだが、アバターに意識を転送した状態ではコンとは接続が切れている。コンが繋がっているのはあくまで生身の僕だからだ。


「ま、その方がフェアってもんだよね」


 僕は決してスーパーAIの力を借りてAランクになったわけじゃない。

 ダンジョン塾での血がにじむような努力の末に自力で手に入れたのだ。

 というか、あれはほとんどキリコたちによるいびりと言ってもいい。

 体の弱かった僕がダンジョンに憧れて、たまたま近所にあったダンジョン塾に通いだしたのが小学生の時。

 近所に住むキリコも一緒に通っていて、なぜかいつもパーティを組まされていた。一年年上のキリコたちに振り回されて、僕は強くならざるを得なかった。

 ダンジョン塾の地下にあったダンジョン。小さい頃の僕は知らなかったけれど、Aランクダンジョンだったと後に知った。



「天童くん」


 気付くとアバターに換装した白神さんが横にいた。

 装備は鉄のメイスに軽い金属で出来た胸当てと小手。標準的な後衛サポーター用の装備だ。うん、初心者の女の子ならこれで悪くない。


「天童くん、顔色よくなった?」

「あ、うん。アバターだからね。だいぶ体は楽になったよ」

「そう。よかった」


 白神さんが微笑んで言う。

 今の彼女もアバターだけど、このダンジョン探索用ロボットは元の姿を本物と見分けがつかないくらい忠実に再現する。

 僕は彼女がふいに見せた表情を可愛いと思ってしまった。

 心配させちゃってたのかな。まあ、あれだけヘタってたらそうだよね。

 これから挽回しないと。


「おまたせ」


 ダンジョン探索の装備を身につけたヒメコ先輩が僕たちに声をかけた。

 

「新入部員の二人はまず後衛で私たちの戦うところを見ていてね」

「あ、はい」


 ヒメコ先輩の装備はモンスターの革で作られたドレスに、鉄製のムチ……? 完全な後衛だと思うけど、武器にムチは珍しい。どういう風にモンスターと戦うのだろう?

 大剣を背に担いだタツキ先輩が僕らのところに来て言う。


「揃ったな。それじゃ、これから俺たちはこの六人でダンジョン探索パーティだ。先生は戦闘に参加しない。パーティ内では名前で呼び合う。いいな、アユム、ユキノ!」

「はい、タツキ先輩」


 タツキ先輩がリーダーってことね。

 本来、前衛の装備の僕が後衛なのは不満だけど、今はおとなしくしていよう。


「よろしくな、アユム!」


 そう言って二年のシンゴ先輩が僕の肩に手をおいた。

 シンゴ先輩の装備は片手剣に大型の盾。前衛のタンク役だね。


「私はアカネ。って自己紹介したっけ。アユムくんとユキノちゃんね。これからわかんないことあったら私たちに聞いてね。名前呼び、慣れないかもしれないけど慣れてね。ま、このルール、タツキ先輩がヒメコ先輩を下の名前で呼びたいだけって気もするんだけどさ」

「おい、アカネ。何も知らない子たちにぶっちゃけ過ぎ」

「シンゴ。あの二人見てればすぐわかることだって」


 アカネ先輩は短剣と動きやすそうな軽装を身につけている。おそらく僕と同じく前衛でスピードを活かして立ち回るスタイルだろう。

 シンゴ先輩とアカネ先輩の仲は良さそうだな。

 僕は噂されたタツキ先輩とヒメコ先輩の方に目をやった。


「よーし、見てろよ、ヒメコ。今日も俺が守ってやる」

「ええ? Dランクだよ?」

「見ろよ、この剣。この間、Cランクでドロップしたんだ」

「へえ」

「なあ、ヒメコもそんなムチじゃなくて、今度俺とさ……」

「あ、他のみんなも準備できたんじゃないかな」

「おい、ヒメコ、聞けって」


 ……うーん。どう見てもタツキ先輩の一方的な片思いって感じだな。

 パーティ内での恋愛ってこじれると面倒そうだけどなあ。

 僕はなにげなしに隣の白神さんを見た。

 彼女は僕の視線にすぐ気付いて反応する。


「どうしたの? ……アユムくん」

「いや、なんでもないけど……。えっと……ユキノさん。ダンジョンは初めてなんだよね?」

「うん。アユムくんは経験者なんだっけ?」

「ああ、うん。『ちょっと』ね」


 思わず言っちゃったけど「ちょっと」ってなんだよ。本当は小学生の時からやってるんだって。

 答えが変になったのは、パーティのルールとはいえ、急な名前呼びへの変更にドキリとさせられて焦ったからだ。

 ……うん。タツキ先輩の気持ちが少しわかってしまったかも。


「そうなんだ。いろいろ教えて」

「うん、いいよ」


 緊張しているのか、ユキノさんが持っているメイスを握り締めた。

 なんかこういう雰囲気も新鮮だな。ずっとAランクのキリコたちとしか接してこなかったから。

 ダンジョン部。やっぱりそんなに悪くないのかもしれない。



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 登場人物


 天童アユム……高校一年生。生身の体が弱く、アバターを使えるダンジョンに夢中になる。県内ダンジョンの自由な探索のため、ダンジョン部に入部する。

 白神ユキノ……高校一年生。五歳の時に事故にあって以来サイボーグの身体になる。ダンジョン部に入部する。

 成澤タツキ……高校三年生。ダンジョン部の部長。

 厚田ヒメコ……高校三年生。ダンジョン部の副部長。

 水野シンゴ……高校二年生。ダンジョン部。

 日崎アカネ……高校二年生。ダンジョン部。

 林先生……ダンジョン部の顧問の先生。

 九藤キリコ……高校二年生。アユムの幼なじみでダンジョン塾の先輩。有名ダンジョン配信者。

 コン……アユムの身体維持をサポートするスーパーAI。アユムのタブレット端末に常駐している。

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