49.ニコレッタ、帝国の騎士と決闘しちゃう。
静まり返った会場で、耐え切れなくなった皇帝が口を開く。
「聖女様。我が国では、王となる者にはかならず騎士の者が護衛に付きます。なので強さは不要なのですよ?」
「そうですか。でしたら、その騎士すら私より弱い、という事はないですよね?」
そう言って人差し指を顎にあて小首をかしげてみる。
もう大根演技でたまらなく恥ずかしいが、一度作ったイメージを変えるのはなおのこと恥ずかしい。今さらながら自然体で行くべきだったと強く後悔した。
フェルはそんな私を見て首を傾げているし、ディーゴは少し頬をピクピクさせている。カーリーは相変わらず表情を崩さない完ぺきな執事であった。
そのまま周りを見渡すと、今更ながら背後にいた騎士の1人、体格の良い男が顔を真っ赤にしてこちらを睨んでいるのに気付く。
その様子にまた面白くなって頬がゆるんだ。
「ぐっ!この……」
私の笑みを見て何かを言おうとした騎士の脇腹を、隣の見目の良い騎士がガシンと肘で打ち、怒っていた男は口を閉じた。
そんな見目の良い騎士の方も同じように目が笑っていない。どうやら帝国は目が笑わない民族なんだと感じた。
隣の女騎士だけはオロオロと戸惑っている様子だった。
「面白いことをいいますね。聖女様はそこの獣、失礼?神獣様でしたっけ?その男を出して戦う?ということでしょうか?」
「え、違うけ……違いますわよ?」
咄嗟に素になってしまうことに反省。
「ではどうでしょう?我が妻、ローザの護衛騎士はあの、クラリス・ルシュールという者です。晩餐までは時間もあるようですし、同じ女性同志、軽くお手合わせでも?」
「そんな、陛下!いくらなんでも」
「だまれ!お前はいつの間に私の言葉に反するほど偉くなった!」
クラリスと言われた女騎士は、皇帝に一喝され俯いた。
「まあ、良いですわ?クラリス様、少しお付き合い頂ける?」
「え?いや、その……よろしく、お願いします」
女騎士は私の返答に戸惑いながらも、途中でまた皇帝に睨まれ頭を下げた。
気が付けば周りにも各国の代表達が集っていた。
「では一時間後でどうでしょう?我が主は残念ながら夕食がまだなのです。しばしお時間を頂ければありがたい」
そう言って綺麗にお辞儀する執事モードのカーリー。
その言葉に周りからも肯定する声が聞こえ、その場は一度お開きに。
帝国の面々は離れていった。
私は安心してテーブルの上を見て、伸びてふやけたラーメンをジッと見つめた。
皿から溢れそうなその麺を見ながら"仕方ないな"と器を持つ。
「ニコ様」
そう声を掛けられ瞬時、代わりの物がテーブルに置かれ、冷えた麺とお肉はカーリーがヒョイっと手を横に振ると、器から飛び散ったそれらはディーゴがパクリと口に収め咀嚼していた。
「うーん、3点」と言いながら首をひねるディーゴを見て、「新しいの持っておいで」と声を掛けておく。
ディーゴは嬉しそうに料理の乗ったテーブルへと駆けて行った。
私はやっと夕食をお腹に収め、その美味しさを堪能した。
料理長はまた腕を上げたようだ。香ばしい色付き麺を味わってそう思った。
軽くお腹を満たす程度にとどめた私は、今夜の晩餐を楽しみにしながらデザートのミルクプリンのベリーシロップ掛けを味わった。
控室に戻り、少しお腹を休めた頃合いで城の訓練場へと向かう。
すでに他の者達も集まり、周りに観客席のような物まで設けられていた。
多分すぐ終わるだろうに態々ご苦労様と思いつつ、中央で待ち構えている帝国の面々に向かい歩きだす。
「では、ニコレッタ様?こちらは手加減をさせて頂きますので、お怪我などなさりませんように」
「私、腕がちぎれた程度なら直せますし、お気になさらずに全力でどうぞ。それでも無理でしょうけど?」
皇帝の言葉にさらりと煽る。
段々と話し方が分からなってきたので、もうどうでも良いかな?と思い始めている私。
「あの、怪我させないように頑張るので、早めにギブアップしてくださいね?」
木剣を手に持った女騎士クラリスから声がかかる。
「大丈夫よ」
騎士さんも大変だなと思いつつ笑顔でそう返しておく。
帝国の面々も少し離れこちらも見ていた。
「では、はじめ!」
どこからら始まりの合図が聞こえる。
「えっ?いや、ちょっと待って?聖女様、何も持ってないんだけど?」
目の前であたふたするクラリスにキュンとする。
「大丈夫」
そう言って一歩足を進めるとクラリスも身構えるが、未だ腰が引け戸惑っているようだ。
まあそりゃそうだと思ってはいる。見た目は子供だし。
伊達に幼児の頃から強化していないし、3つの加護持ちでもあるからね。
でも少しやり難いな。いっそあのおじさんならな。そう思ってあの体格の良いおじさん騎士を見る。
「わ、私にはできません!」
視線を戻してさらに一歩進んだところでクラリスが叫び、木剣を手放しその場にうずくまった。
「この!根性無しが!」
そう言って出てきたのはやはりあの体格の良いおじさん騎士だった。
出てきた勢いのままクラリスを足蹴にしようとしていたので、私は慌ててそこに割り込み結界でガードした。
結界に勢いよく足を打ち付け、無様な悲鳴を上げて転がりまわるおじさん騎士。
「相手の力量も分からないおじさんの方がカッコ悪いよ?その程度の痛みでのたうち回って……無様だね」
「ぐっ!いきなり攻撃してきたのはお前だろ!」
顔を真っ赤にしながらそう言うが、攻撃なんてしてないんだよね?
「ジェローム!お前までなんてざまだ!帝国の誇りに泥を塗るつもりか!」
見目の良い騎士から怒鳴られる男。ジェロームね。まあ覚える気はないけど。
こちらを睨みながら未だ足を摩っているジェロームを鼻で笑うようにして見ていた。
「聖女、様?」
座り込んでいたクラリスが声をかけるので、笑顔で振り向いた。
「クラリスさんは優しい騎士さんだね。私の事を気遣ってくれてありがとう」
「そんな、私目如きに勿体ないお言葉です聖女様……」
上目遣いでそう言うクラリスに思わず頭を撫でてしまう。この子もきっと苦労してるんだろうなと思ったらつい手がでてしまった。
「舐め腐り、やがって……」
そんな私に罵声をあげながら起き上がり近づいてくるジェロームだったが、その前にはクラリスが立ちふさがった。
「もう、やめましょう!」
「そこをどけ!そいつを打ちのめさねば、騎士の誇りが砕け散る!」
「誇り?女の子を打ちのめさないと砕け散る誇りなんて、元から無いも同然です!そんな腐った
胸熱なセリフを言い放ったクラリスは、胸元のペンダントに手をあてるとヌヌヌと細身の剣が現れた。
「なにそれ素敵!」
私は思わず叫んでいた。
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