43.ニコレッタ、魔道具師に私はなる(なった)!

森の拠点で暮らす私と2匹の神獣。私は15になった。


3年ほど前、魔道具作成師を志した私は、学園に行くための準備として魔道具ギルドを訪ねた。

通常の学園と違い年齢についてはバラバラだと言うが、結局若い人達が多く通っているというので、久しぶりの学園生活が始まるのか!とワクワクしていた。


そして魔道具ギルドで丁寧に持て成され、約束通りに次の週もう一度訪ねると、そこにはエレオノーレが待っており、個別に研修して3日で免許を頂けることになった。

順風満帆だね!憧れの学園生活は訪れないようだ。


そして3日目、基礎となる<照明ライト>の魔道具が完成し、無事免許が発行された。

もちろんそれだけでは新たな魔道具など作れることも無く、週3回はエレオノーレを拠点に招き師事を受けた。


そして1年ちょっと後、"界"と叫び魔力を流し込むことでディーゴの結界とまではいかないが、かなり強固な結界を体に纏わせる腕輪が完成した。

短くて分かりやすいその掛け声は好評だった。本当は"結"としとこうか?と思ったが、子供の頃に円盤で見たケツケツ連呼に笑ってしまった経験から"界"にした。


完成するまでには、それぞれの詠唱句を覚えなくてはならないようで、はじめから無詠唱の私はその時点で困り果てたのだ。


<照明ライト>なら『光の精霊よ、この部屋いっぱいを照らす光を、<照明ライト>!』と言うのが本来の詠唱らしい。それに慣れると<照明ライト>のみで魔法が発動するのだとか。

それぞれに決まり文句の部分もあるが、間にある効果を決める部分は曖昧でも良く、後はイメージで補うらしい。でなければ複雑な魔法を使うことなどできないのだと言う。


魔道具にはそう言った詠唱句を、決められたテンプレートで特殊なインクを使い書き上げるのだと言う。

だが、結界魔法の詠唱句が分からない私。


聖魔法だから『聖なる精霊よ』で良いのだろうことまでは分っていた。

試しに『聖なる精霊よ、身に纏いし固い膜により身を守れ。結界!』と叫んでみても何も発動しなかった。


他にも"固い甲羅"や"しゃぼんの泡"、"敵意から守る壁"など、多数の詠唱を試してみたが全て駄目だった。まったく発動しないというのは同じように転移や鑑定など高度な魔法は良くあることらしい。


簡単な魔法なら、間の句がそれなりに意味の通る言葉であれば発動はするのだと言う。

その句の内容により効果や効率などが変わり、それがその人の専売となるのだと。書き込んだ詠唱句は一度発動するとすぐに消えてしまうので、魔道具をバラしても他の人には分からない為、魔道具作成師という職業が成り立つのだと教えてくれた。


中二病を患った少年の様にいくつもの詠唱句を考え、やっとの思いで捻り出した『身に纏いしは害意を弾く光の壁』という詠唱句でやっと指の周りに結界を発動することが出来た。

今度はそこから魔法陣を試し書きし、発動できるかを確認する作業へ移る。

実際に腕輪にした際の効果を再現する為、詠唱句を『身に付けし者の身に纏いしは害意を弾く光の壁、<カイ>』とし、その魔法陣を書いた紙を腕に巻いた状態で試すと成功することができた。


そこからは魔道具としての本領発揮、長い詠唱句を増やすことで効率を上げたりできるようだ。

最終的に『聖なる精霊よ、捧げるは魔石からの魔力。身に付けし者の身に纏いしは強固にして害意を弾く無色の光の壁、<カイ>』となった。多少の魔力消費は激しいものの、私が魔石を作り出せるので問題無いとのこと。


だが、一番時間がかかったのがそれを魔道具化することだった。

魔道具として小さなアクセサリに仕込めるように、1センチ幅ぐらいのミスリル板に極細の針を使い少しづつ魔法陣を書き込んだ。少しずつ時間をかけて書き込む作業だが、それ用に拡大鏡まで作った。あのお医者さんなどが使っているようなやつだ。


何度かの失敗を経て、4時間程度で書き込めるようになったが、それ以上は集中力が続かず1日一個が限界だと思った。エレオノーレからは普通は何日かに分けて作るものだと言われたが……

魔道具が高い理由が分かったよ。


出来上がった魔法陣の小さなミスリル板を土魔法で生成したミスリル製の腕輪に仕込み、さらには凝縮した魔石を埋め込み魔法陣を繋げた。

ここ何年かの修行の成果により増えた魔力で、小型の魔石なのに<聖女の魔石/8451>となった。今の私の魔力は1万ちょっとなのでこの辺が限界であった。


"聖女の"という部分は全力でスルーした。聖なる魔力を使っていないから聖魔石にはならなかったが、なぜそうなったかは不明だ……聖女はもはや種族なのか?だがそのことが原因かは分からないが、問題も生じた。

その聖女の魔石には他の人が魔力が籠められないようなのだ。なので減ったら私が補充しなくてはならない。籠められた魔力量だけに早々無くなりはしないから良いのだが……


こうして、何日もかけて作成した半自動で結界を生み出す腕輪は、"守護の腕輪"という大層な名を付けられ、後に王家に献上することになるのは別の話だ。


私はその守護の腕輪にフェルの魔力も使った魔石も埋め込んでみた。フェルに魔力を駄々洩れにしてもらってそれを私が無理やり魔石として押し込めるようにして作った魔石だ。

小さく歪な5ミリ程度の魔石だが、神狼の魔石という名で魔力は100前後の魔石がポンポンできた。それを森の魔物の群れに放り込むと皆一目散に逃げて行った。

その結果、この魔石を埋め込んだ腕輪を装着することでこの森の中なら自由に移動できるようになった。魔物達もフェルの魔力には敏感に反応するんだね。


完成した結界装置についてはエレオノーレとエレナ、それにノルベルトにも渡しておいた。


目的を果たした私は次は何をやろうかな?と思い彼是と思案していた。


そんな中、国王陛下の即位20年を祝うための式典が行われるというので聖女として参加してくれると嬉しいと連絡があった。

なんでも帝国の王族も祝いに来るとのことで、ここで聖女をお披露目して良好な関係を築きたいようだ。良好な関係と言っても『我が国には最強に強い聖女がいるけど?お前たちそれでも歯向かう気か?』と言いたいのでは?とギルド長が言っていた。


まさかそんな?と思ったが、エレナも多分そうなのでは?と言うので、正直出るのは止めようかなと思った。

だが、最近毎週のように私がくるタイミングで冒険者ギルドに来ているローランド殿下に、「僕もお姉ちゃんが出てくれると嬉しいです!」と言われ仕方が無く出ることにした。


ローランドは年上にもかかわらず「お姉ちゃんって呼んでみる?」という私の言葉に素直に従い、いつも甘えるように"お姉ちゃん"を連呼してくれるのですっかり心の癒しになっている。


私は2週間後の式典に向け、王族御用達の貴族街のお店で式典用のドレスを作ったり、式典の流れと私が行わなければいけない彼是をエレオノーレから習うのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る