07.ニコレッタ、甘々な毎日

「まだ代わりの聖女は見つからんのか!」

国王陛下ピエルルイジ・ユリシースが苛立ちながらそう言い放つ。


現在、王太子であるレアンドロには3人の婚約者がいる。いずれも聖魔法の素質ありと認められた女達だ。王家は代々そうして聖魔法の素質がある女性たち、いわゆる聖女候補を集めその血をつないできた。

聖女の子は聖女と成りやすいと言われているからだ。


だが、いずれの婚約者もその素質は多くはない。


数年前に聖魔法の素質がかなり高く聖女候補だと言われたクレメンティ家の長女のニコレッタという者もいたが、そのニコレッタは3才になる前に病気で亡くなってしまったということだった。

代わりにとクレメンティ家はニコレッタの妹であるファビオラという娘を差し出してきたが、大した素質ではなかった為、その妹とは婚約には至っていない。


現在王国では聖魔法の素質はあるがその能力が軽微な聖女モドキ、と言った微妙な立ち位置の者達が多数おり、その全ては教会で働いている。そんな聖女モドキに対しても現状の能力を確認し、急成長を遂げ聖女候補と成り得る者を探しているのだ。


王国は今、国家存亡の危機が迫りつつある。

今代の聖女はもう80を超え聖魔法の使用量も弱りつつある。その分を陛下の第二夫人、皇太子の三人の婚約者、その他の王家の者に連なる者の中にいる聖女候補達に補ってもらっている。


王家では他に5名の聖女もどきがいるが、いずれもその穴埋めをできるほどではないどころが、それらを全員足しても補う事は難しい。

今代の聖女が100の力で結晶石に力を注いでいるとしたら、現状一番見込みのある陛下の第二夫人でさえ5~7と言ったところ。それ以外の聖女においては1有るか無いかといったところだろう。


聖女の魔力がなければ、不帰かえらずの森や死霊の森、黒竜の谷を覆う結界が解けてしまう。そうなればこの国は、それどころかこの大陸は終わりだ。


一応、大陸中の支援もあり聖女たる資格を持ったものが生まれたら報告が入ることになっているが、他国にも期待はできない。嘘か誠か知らないが、聖女の資格があるほどの者は今のところ生まれてはいないのだ。


「陛下、御耳に入れたいことが……」

不意に部屋に入ってきた男から声がかかる。


「なんだ!さっさと話せ!」

「はっ!王都の東部の冒険者ギルド付近で、子供の傷を瞬時に癒した者がいるようです。我々も把握していない聖女候補なのではと……」

「なに?把握していない聖女候補?そんなことがあり得るのか?」


通常聖魔法の素質ありの者は、どんなに小さな力であっても教会に所属し監視の目が付く。教会が秘匿していなければそのような事態には成り得ないのだ。


「これは、司教にも話を聞かねばならないなかもしれぬな。その者をすぐに予の元へ連れてくるのだ!」

「仰せのままに……」

報告を終えた男は頭を下げるとすぐに部屋から出ていった。


教会も力をつけすぎてしまっているやもしれぬ。

そう思う国王はどのように弱らせ、従わせようかと彼是思案する。


まずはその我々が把握していない聖女候補を確保しておくのが先決か。本当に教会が秘匿している者がいるのであらば、それを証拠として敵対する意志を見せたと何人か処分し……そうなれば少しは御しやすくなるやもしれぬ。


陛下の頭の中には、すでに自分にひれ伏す司教たちの姿が思い描かれていた。


◆◇◆◇◆


私は今日もフェルと森を駆け回り、新しい食材を探す。


この森は本当に実り豊かで、果物類はリンゴにバナナ、ブドウにイチゴ、ブルーベリーといった多種作用な種類が四季や気候も無関係とばかり多数自生していた。

前世の世界とは少し違う形をしているやつもあったが、同じ名前で鑑定されてしまうので私も同じものとして扱うことにした。見た目の違いはきっと品種の違いのようなものなのだろう。


そう思って拳大もある実を沢山つけているブドウの1つに齧り付く。口いっぱいに甘みが溢れて幸せ気分に酔いしれる。そしてもう一つ実をもぐと、メープルシロップの入った陶器の小瓶に皮を剥いて入れる。

明日にもブドウの香りが合わさった味変シロップになるだろう。


私は調子に乗って同じように別のシロップの瓶にリンゴにバナナ、イチゴにブルーベリーをそれぞれ加えると蓋をして拠点の冷暗所に保管した。念のため適度に魔法で氷を出して冷やしておこう。


明日になったら味見して、美味しくできたらまたエレナに持って行こうと思っていた。


ちなみにこの世界は1日24時間。1週間は6日間。

月曜日から金曜日、土曜日が無くて日曜日はお休みする人が多い日。同じ呼び名なのはきっと私がそう脳内変換してるからだろう。月が30日で12ヶ月で360日。だから1月1日は必ず月曜日になる。


エレナがお休みは月曜日で東門の詰所にいるのはその前日の日曜日。

明日は日曜日なので私の中ではエレナの日と決まっているのだ。


一夜明け、勝手に命名したエレナの日のお昼頃、私はお土産を持って詰所を訪ねていた。いつもの様に猪肉と毛皮、木の実などをノルベルトに託す。そして戻ってからはノルベルトが購入してきた米や小麦、野菜類を見て頬を緩ませていた。

毎回米と小麦以外はお任せにしているので毎回中を見るのが楽しみな私。今日は葉物も多くあったので猪肉と一緒に炒めたら美味しいかな?


確認が終われば2人が準備していた昼食と、私が用意したものをシェアしながら楽しい昼食タイムを過ごしていた。

今日は一番美味しいと思ったブルーベリーの入ったシロップを持って来ている。少し味見しすぎたので半分ぐらいになっているが、三人分のパンに載せるには十分な量であろう。


三枚の厚切りパンにかかったシロップに喉を鳴らす。ベリーがいくつか載っている様はとても食欲がそそるものがあった。

私はそのパンに齧り付きながら、いつもの様に黙々と頬張るノルベルトと、魅力的な声を漏らすエレナを見て幸福感に包まれた。

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