04.ニコレッタ、楽しいサバイバル

新しい拠点での毎日。

近場ではボアなどの大型の魔物も多く、岩塩も取れるしワサビも自生している。その近くには唐辛子も生えていた。


フェルは鼻が曲がる奴と言っていたが細かく刻んで保管してある。まだどちらも少量入れる程度にしか使わないけど、もう少し大きくなればきっとおいしく食べれるだろう。


だがここに移動して一番の収穫はカエデの木があったことだろう。

カエデと言っても色々種類があったはずだけどやってみなけりゃ始まらない。そう思って太い幹に魔法で作った切れ味抜群のステンレス包丁で傷を付ける。

土のお皿を木に固定するように作ると、少しずつポタポタポタポタと樹液が落ちてゆく。甘い香りがただよい涎が出てしまう。


翌日にはそれなりに溜まっていた樹液を鍋で煮詰め、鑑定すると無事にメープルシロップ[食用]と出たので舐めてみる。あの時は大喜びしたな。

フェルもついついペロペロが止まらなくなったようで、「虫歯になるよ?」と言えば『神獣だから病気にはならん』と返ってきた。結局フンフンいいながらフェルが全部舐めきってしまった。

追加で何本かに皿をセットしておいた。


そんな自由な毎日を送る私だが、お肉と野草でお腹は満たされるけどそろそろ穀物が欲しいかな?と思ってしまう。

フェルに相談すると、猪でも売ってその穀物とやらに交換してもらえば良いのではと的確なアドバイスを貰う。さすが神獣様だ。


早速私は猪、正確にはワイルドボアという大型の魔物を狩りに行く。土魔法で眉間を打ち抜き3匹分の肉と毛皮を確保した。


「こっから一番近い街ってどこ?」

『あっちに向かえば5キロぐらい走ったところに街があるぞ』


そう言って懐かしき我が家の反対側の西を向いて教えてくれた。

なるほど。5キロならそんなに大した距離では無いな。


意を決して明日は街へと向かうことにした。

フェルは心配していたようだが、多分だけど私は何があっても大丈夫。山で鍛えた体と、日々鍛錬を積んだ魔力で何とかなると思っている。久しぶりの街に行くことに楽しみになり中々寝付けなかった。


そんな時はフェルが優しく肉球でお腹をぽふぽふしてくれる。

これですぐに寝入ってしまう私は、まだまだお子ちゃまなんだろう。前世も入れたらもうとっくに三十路も過ぎたんだけどね。



翌朝、朝食を食べた私は、血抜きしておいた猪を解体すると肉を葉に包み、それを毛皮でさらに包む。3匹分の肉はそれなりの量になったが、それを軽々と背負い準備完了。いざ街までと森の中をフェルに乗って走り出した。


数分走るとすぐに森の端まで到着し、私一人で歩きで移動する。

多分だけどフェルが街まで行ったら大騒ぎになるだろうから仕方ない。流石に自重した私は不安そうなフェルと別れてのんびり歩く。


暫く歩くとチラホラと人とすれ違うが、何やらこちらも見ては目を反らされたり何やら陰口を言われているような気配が……


「あー!」

思わず叫んで注目を浴びる。


余計に恥ずかしくなり顔が赤くなる。

すっかり森の生活に慣れた私は忘れていたのだ。


自分が森に来た時の一張羅は1年たたずにつんつるてんになったので、伸びた背丈に合わせて毛皮などを羽織っていたことを……まるで山賊じゃん?身に纏いしはボア毛のコート。足には土魔法で土台を作って毛皮を合わせて作ったク〇ックスのようなサンダルを履いている。


一度認識してしまうと途端に恥ずかしさが倍増する。


一旦森に帰るかな?

そう思ったが、私は米と小麦粉が欲しいんだ!


そう思って周りをあまり見ないようにして街まで急いだ。

そして門番に止められた。


「お嬢ちゃん、でいいんだよな?」

「ええ。どっからどう見てもお嬢さんですよ?」

門番もやはりドン引いているようだ。


「身分証明書は持ってるかい?」

わけ合って何も……」

「そうかい、じゃあおじさんが相談に乗るから、少し待っててくれるかな?」

「お願いします」


そう言ってもう一人の兵士を残して奥へ消えてしまったおじさんを見送る。

残った兵士の探るような目線が突き刺さるので、一旦逃げて出直すか?恥ずかしさに負け再度そう思った。


他の人の邪魔にならぬよう少し横にずれて待っていると、先ほどのおじさんが手招きをしている。

私は素直に森に捨てられ今まで一人で生きてきたと説明する。おじさんと一緒に話を聞いてくれた綺麗なお姉さんが泣き崩れる。号泣で私を抱きしめる2人を見ながら、お姉さんは発育が良くて羨ましいなと思ってしまった。

私はちっとも育たないな……いや、まだ焦る時間では無いはずだ。私は成長期なのだから!


そんなことを脳内で考えているとお姉さんがシャシャシャと何かを書き殴り、それをおじさんに手渡すと受け取ったおじさんは部屋を出ていってしまった。


「ちょっと待っててね。これ食べる?」

そう言って紙に包まれた何かを差し出してきた。


中を開けると、白い粉にまみれた団子が入っている。

これ美味しいやつだ!と思ってお礼を言いながら口に放り込んだ。


んぐっ!喉が!

お姉さんが慌てて木のコップを差し出すのでその中の水を飲み干した。危うくまた神様に会いに行くところだった。この世界の団子はやや硬め。良く噛まないと喉に詰まるようだ。


「ありがとうお姉さん。走馬灯が見えるところだったよ!」

「慌てちゃだめよ。これも食べる?」

そう言って取り出したお団子パート2。いえいえ、悪いですからーと言いつつ口に放り込んでしまった。この手が勝手に……とつぶやいてみたがそれを見てお姉さんは笑っていた。


暫くすると先ほどのおじさんが息を切らせて部屋へ入ってきた。

そしてお姉さんにカードを一枚。


そして私には大きな袋が渡された。

あっちの部屋で着替えてこいと言われたのが、遠慮して受け取らない私に「見ているこっちが悲しくなるから!」と言われ、そりゃそうかもねと思ってお礼を言うと部屋を移動した。

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