第46話 20年前のプロローグ(凜風視点)


 ――梓宸と初めて会ったのは、7歳の時のことだ。


 勉強に飽きた、というか全て覚えてしまった私は暇を持て余し、実家の仕事場まで遊びに来ていたのだ。


 そんなときに見つけたのが、荷運びをしている少年。


 歳は私と同じくらい。そんな子供が大人に混じって働いていた。

 でも、珍しいことではない。そもそも平民にとって子供は労働力であり、ある程度の年齢まで育ったら働かせることが『常識』なのだから。


 だから別に注目していたわけではない。運んでいる荷物も軽いもので、無茶をさせている様子もなかったし。


 でも、私は視て・・しまった。


 私に勉強を教わって、知識を蓄える少年の姿を。

 数々の仲間たちと共に戦場を駆け抜ける青年の姿を。

 そして――この国の皇帝となり、名君として称えられる壮年の姿を。


 偉大なる皇帝陛下。誰からも慕われる皇帝陛下。歴史に名を残す皇帝陛下。


 ……その隣に、私の姿はなかった。


 私はあくまで彼の成長のきっかけ。彼が志を抱き故郷を離れるときに役目を終える存在だった。


(まぁ、それならそれでいいか)


 少年とは何の関わりもなかった私は、そう判断した。

 見るつもりもないのに視えて・・・しまったのだから、それはよほど強固な『運命』であるはずだ。


 この国をより豊かに。

 民の暮らしを幸せに。

 そして何より、洋の東西を結びつけ、人類と人類を繋ぐ架け橋に。


 そのためならば、まぁ、協力するしかないと判断した。


 まずは彼と仲良くなって。自然と勉強を教えられるくらいの関係になって。そうして立派な人間に育て上げ、彼の背中を押し、皇帝への第一歩を踏み出させる。それだけの関係だった。


 それだけの関係、だったはずなのになぁ……。


 気づけば私は梓宸に惚れていて・・・・・、どうにも離れがたい存在になってしまっていた。


 もう少し、このまま。

 もう少しだけ、このまま。一緒に過ごせたなら……。


 しかし彼はそんな私の気も知らずに。自分勝手な告白をして。さっさと私から離れて行ってしまった。


 これが今生の別れになるのだろう。

 なぜなら、皇帝となった彼の隣に私はいなかったのだから。皇帝ともなれば後宮に色とりどりの美人を揃えるものなのだから。私の存在なんてすぐに忘れてしまうはずだ。


 ……だというのに。

 分かっていたはずなのに……。


「――結婚しよう。いつか、俺が皇帝になったら迎えにくる。それまで、待っていてくれないか?」


 初恋をこじらせていた私は、結果として12年も待ってしまい。


 梓宸が本当に迎えに来てくれるとは思わなかったし、あの宴の席で、梓宸の隣に座る私・・・・・・・・の姿を視てしまうとは思わなかったんだけどね。


 はぁーあ、まさか『運命』を変えたとでもいうのかしらね? なんて非常識な……。


 まぁ、梓宸らしいと言えばらしいのかもね。


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