第41話 自白
「まさか、自分で自分の皿に水仙を混ぜたと?」
「死ぬことは滅多にないんだ、自らがお仕えする上級妃が命じればやるだろう。……特に、
「自らの侍女に毒を食べさせるなんて、何のために?」
「そうだねぇ……。皇帝からの歓心を買うために、とかかな? なにせ前々から噂になっていた皇帝の初恋相手・凜風がやって来たんだ。焦ったとしても不思議じゃない。妊娠したばかりの侍女が毒で狙われたとなれば、あの陛下だって心配してくれるだろう。……実際、事件の次の日には朝から雪花の宮を訪れたのだからね」
凜風が付いてきて丸投げしたのは予想外だっただろうがね。と、瑾曦様は付け足した。
「まるで欧羅の名探偵みたいですね」
「めいたんてい?」
「欧羅の物語で、事件を解決する人間をそう呼ぶのだそうですよ。明晰な頭脳と深い知識を持ち、事件現場に赴けばその鋭い観察力で証拠を見つけ、もしも犯人が抵抗しても制圧できるだけの力がある……」
「……それはあたしじゃなくて凜風の方が相応しいね」
「いえいえ私なんて。名探偵にはなれませんよ。事件の解決だとか、真相の究明になんてまるで興味がないのですから」
やれやれと首を横に振る私。瑾曦様の目は厳しいまま。どうやら追及の手を緩めるつもりはないみたい。
さて、どうしたものかなと私が悩んでいると――
「――お待ちください!」
まだ年若い少女の声が響き渡った。
振り向いた先にいたのは雪花様の侍女・铃ちゃん。毒を食べたばかりとは思えない、まるで罪の告発をする正義の味方のような強い目をしている。
いや、事実として。雪花様に
気丈にも私たちを睨め付けながら铃ちゃんは断罪した。
「雪花様は悪くありません! 何も知らなかったんです! ――私が! 自分の意思で! 勝手に毒を食べたのですから!」
「……へぇ?」
まるで
「じゃあ、あんたは雪花に命令されたわけじゃなく、自分の意思で毒を食べたと? 何のために? まさか、自分が毒を食べれば皇帝陛下が心配してくれるからと……?」
「もちろんです!」
「あぁ、そういうことか。自分も陛下のお手つきになりたいから――」
「危うく毒を食べそうになったとなれば、陛下も
あまりにも自分勝手な物言いに、思わず铃ちゃんの頭に手刀を叩き込んでしまった私である。
「いいかげんにしなさい」
「り、凜風様……?」
「雪花は確かに聡明で、見た目より度胸があって、私なんかより遥かに皇后に相応しい人間なのでしょう。……でもね、雪花は本当に皇后になりたがっているの?」
「そ、それはもちろん……」
「もちろん? よく思い出してみなさい。一度でも、雪花の口から『皇后になりたい』と発せられたことがあるの? 誰かから求められて肯定したことはあっても、自分の意思で、自分の言葉で意思表示したことがある?」
「そ、それは……。…………」
思い当たる節があったのか、力なく床に両膝を突く铃ちゃんだった。
あーあ……。これ、どうするんですか瑾曦様?
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