第26話 雪花とのお茶会
「――それはそうですわ、お姉様。なにせあの御方は大華国九代皇帝・劉宸陛下なのですよ? 先帝陛下は不老不死を追い求め、暴政を繰り返していましたが……そんな暴君から国と民を救った英雄。就任から
「おぉ……」
梓宸が仕事に戻ったあと――というか、「さっさと仕事しろ!」とケツを蹴り上げて退散させたあと。親睦を深めるためと称したお茶会の席で。雪花様はつらつらと皇帝陛下の凄さを語ってくださった。……うん、大丈夫? それほんとに梓宸と同一人物? みんな狐狸の類いに騙されてない?
「そんな皇帝陛下にあんな態度を取れるお姉様! わたくし、感服いたしましたわ!」
「いや、それはただ幼なじみなだけで……あの、その『お姉様』ってなんですか?」
「? お姉様は毒を食べた
「初耳ですね、そんな習慣……」
貴族ってこんな感じなの? と私が戦々恐々としていると、雪花様はなぜか不満げに頬を膨らませた。そんな顔も可愛いのだから美少女って得よね。
「もう! お姉様! 妹分に対して敬語など不要ですわ!」
「いやいやいつから妹分に? というか貴族に対して、上級妃に対して、平語とか絶対無理ですから」
「ならば貴族として、上級妃として命令すれば従っていただけますのね?」
「権力の振るい方はもう少し考えるべきでは……?」
助けを求めるように雪花様の侍女さんたちに視線を移す。お茶会の最中は部屋の隅で待機してくれているのだ。
先ほどはずいぶんと敵意を向けてきたから、雪花様の発言にも「こんな平民にそのようなことを許すなど!」という感じに反対してくれるはず。……だと、思ったのだけど。なぜか全員から視線を逸らされてしまった。あっれー?
唖然とする私を嘲笑うかのように雪花様が説明してくる。
「それはそうでしょう。お姉様はかの皇帝陛下相手に
何でそんな楽しそうな顔をしているんですかね雪花様は? そもそも私はそんな頼み事なんてしませんし。梓宸だってさすがに聞き入れないでしょう。あの子は筋が通らないことには断固反対するのだ。自分は12年も筋を通さなかったくせに。
あと、この場合の『首が飛ぶ』って物理的な意味ですよね? 職を失うという意味ではなく。
なんか下手に抵抗していると私の首も飛ばされそうね。というわけで私は色々と諦め、雪花様に平語で話しかけることにしたのだった。どうせ雪花様の心のケアが済めば後宮を出るのだし、この調子だとすぐ終わりそうだし、それまでの期間限定だ。
「え~っと、じゃあ遠慮なく喋らせてもらいます――いや、もらうわね」
「はい、どうぞ」
まだ慣れない平語がおかしいのかクスクスと笑う雪花様。なんだかいい雰囲気だし、ここはちょっと踏み込んでみましょうか。
「私って妃たちから見ればかなり邪魔くさい存在に見えると思うのだけど、雪花様は大丈夫なの?」
「雪花、様?」
「……雪花は大丈夫なの?」
私が呼び捨てにすると雪花様――雪花はたいへん満足そうな顔をした。貴族ってよく分からない……。
「えぇ。それはまぁ。自分が皇后になりたい方や男子を産みたい方からしてみればお姉様は邪魔な存在なのでしょうけど……。わたくしは別に。むしろお姉様に興味が向けば嬉しいなぁ、みたいな?」
「おぉ……」
いくら梓宸がもう帰ったとはいえ、ここまでズバッとした返事が来るとは思っていなかったので驚いた。そりゃあ後宮なんだから自分の意思じゃなく連れてこられた人も多いとは思っていたけれど……。
「むしろわたくしの好みは『王子様系』ですし」
「おうじさまけい?」
「こう、線が細くて顔が良い感じですわ。性格は穏やかで優しくて、態度は上品で……」
「あー」
なんというか、欧羅の物語に出てくる『白馬の王子様』っぽい感じか。なるほどだから王子様系ね。ちなみに梓宸は
「それと、お姉様が皇后になられたときのために、今のうちから媚を売っておこうという理由もありますわ」
「何とも正直なことで」
「お姉様に嘘はつけませんもの」
「……そもそも私は皇后になるつもりなんてないわよ? というか平民だし」
「南朝貴族『許家』の末裔なのでしょう? その血筋で平民と名乗るのは無理があるのでは?」
「あら、ずいぶんと詳しいのね?」
「四夫人という地位にいますと、様々な情報が耳に入ってくるのですわ。わたくしが望む望まぬに関わらず」
「へぇ? じゃあ例えば、昨日の毒殺未遂事件については?」
「水仙毒。人を死に至らしめる可能性は低いので、わたくしの子供の堕胎を狙った可能性が高い。皇帝陛下にお願いされ、お姉様が私の様子を見に来た。といったところでしょうか?」
「この国の防諜が不安になるわね……」
「世間の口には戸は立てられぬと言いますし」
クスクスと笑う雪花だった。やっぱりこの子見た目と精神年齢が合っていないわね。
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