『けいじ』
塔
ケース① 不動産屋の客
──そうなんですよ。けっこうホラーとか好きで。
不動産屋さんなんかはそういう体験とかしてるんじゃないですか?
ほら、事故物件とか。あるでしょう?
え? 僕ですか?
うーん、まああるっちゃありますけど……。
20年くらい前ですかね。
僕が小学生の頃──高学年の頃の話なんですけど。
通学路に、ほらあの、掲示板。
たぶん町内会かなんかが管理している掲示板があって。
町内のお祭りの案内とか、サークルのメンバー募集とか、スポーツ教室みたいなのの広告とかが貼ってあって。ね、よくあるじゃないですか。
別に、普段はそんなに気に留めることもなく。まあ『掲示板がある』って程度の認識で。前を通りがかっても、そんなに注意して見ることなんてなかったんですけど。
その日、掲示板の前を通りかかった時──っていうか、少し手前から「あれ? 何かおかしいぞ?」って気付いて。
こう、ああいう掲示板って、板がガラスで覆われてる感じになってるじゃないですか。雨に濡れないようにってのもあるでしょうけど、勝手に掲示出来ないように。
何かね、その、手前のガラス戸のところに、数枚のテープで無造作にね。紙っペラが1枚、ベタッと貼り付けてあったんですよ。
そりゃ「何だろう?」って思いますよね。で、前を通る時に、何の気なしに見たんですよ。
そしたらね、チラシの裏かなんかに、マジックみたいので
────────────────────
■■月■■日 ■■時■■分
ゆうれいにあえますよ
────────────────────
って、平仮名で書いてあって。
で、日時の他に簡単な地図が描かれてたんです。あ、手描きです。手描きで。それが、近くの山──山っていっても小さなやつですけど──そこにある神社の裏手に、こう、グリグリって印がつけてあって。
子供心に気味が悪いと思いました。
指定している時間も夜中ですし。そんな時間に、ねえ。ロケーション的にもマジで幽霊に会えそうじゃないですか。
それで、まあちょっと怖かったんで、さっさと走って学校まで行ったんです。
帰り道。正直、気味が悪かったから別の道で帰ろうかとも思ったんですけど……小学生でしたし、けっこう真面目な子だったんで、別の道で帰るとか良くないことだと思って。仕方なくいつもの通学路で下校したんです。
掲示板の前に差し掛かって、朝みたく走って通り過ぎようと思ったんですけど、すぐに変化に気付きました。
貼り紙がなくなってたんです。
「ああ、町内会の人が剥がしたんだろうな」と安心しました。
まあ明らかに勝手に貼ってましたからね。当然ですよね。
僕は安心して帰りました。
そしたら、数日後。また貼り紙があったんです。
同じです。チラシの裏ではなくてちゃんとした紙でしたけど。やっぱりガラスに直接ベタッと貼ってあって。
マジックで、平仮名で。
でもね、書いてある言葉は違ってたんです。
────────────────────
あえました ありがとう
────────────────────
って。すごい汚い字で。紙もなんか汚れてて。
もちろん走って帰りましたよ。
でも次の日、恐る恐る前を通ったらやっぱり剥がされてて。
これが僕が体験した、怖い話です。
──あれ? どうしました?
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