第10話

「いらっしゃいませ、こんばんは」



レジで明るく挨拶をする若い女の子の店員さんに、こんばんは、と返す。



お酒を購入したことで年齢確認を促され、画面に触れた私に軽くお辞儀をしてから店員さんは商品にバーコードリーダーをあてていく。



それはもう、一つずつ、ゆっくりと。



バーコードを探すのにあたふたしている様子からして…新人さんかな?


店員さんの名札に視線を落とすと、思った通り名前の横には“研修中”の文字。



どんな職業でも新人時代は大変なんだ。



急いでいるわけでもないし…気長に待とう。




「合計で2862円になります。お待たせして申し訳ございませんでした」


「ううん、気にしないで。誰だって最初は新人なんだから」




大丈夫だよ、と言う私に店員さんの表情はパァッと明るくなる。




「そう言ってもらえて心が軽くなりました。ありがとうございます」


「どういたしまして。じゃあこれでお願いします」


「はい。3千円お預かりします」




そういえば、宏樹はこういう場面に出くわすと店員さんに舌打ちをしたり文句を言う人だった。



そんな宏樹を止めると今度は私が舌打ちされたりして…


なんだ。つまらないのは私だけじゃなくて宏樹も同じだ。



つまらない人間同士が半年も一緒にいて何が面白かったのだろうか。



価値のない時間を過ごすことほど無駄なことはない。




楽しかった思い出一つ浮かんでこないし…


やっぱり恋愛って面倒くさい。

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