第6話
せっかく雰囲気のいいバーだったのに、美味しくお酒を飲むことができなかった。
失恋したばかりだというのに帰路に就く私が考えているのはそんなことだった。
「やっぱりテキーラもいっとけばよかった…」
秋空の下で呟く私の頭の中は完全にお酒が占めている。
私を“酒豪”と呼び始めたのは誰だろうか。
恐らく…高校時代からの友人、芽衣子だろう。
二十歳の頃、芽衣子に誘われてコンパに行った私は浴びるほどお酒を飲んだ上、全く酔わず男性陣にドン引きされた過去がある。
芽衣子は、そのコンパで知り合った男性と二年前に結婚して、今では子供にも恵まれ幸せいっぱいだ。
当然だけど、そのコンパに行かなかったら芽衣子は旦那さんと出逢えていないわけで…
出逢いって奇跡だ。何億分の1の確率で出逢い、友達になったり恋人になったり。
そんな出逢いを経て、恋人同士になったのち結婚まで結び付いた芽衣子を本当にすごいと思う。
まさに奇跡の連続。
でも…羨ましいとは思わない。
私は結婚なんてしたくない。
それは、自分を犠牲にする行為だと思っている。
他人に尽くして、自分の気持ちを抑えて、やりたいことを我慢して…
そんな人生、絶対にイヤ。
だから私は、これからも誰にも振り回されることなく好きなように生きていく。
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