5 あいにーでゅー。

 あいにーでゅー。


「ここで乗り換えるの?」

「うん。ようだよ」

 白玉にとことことまるで小さな子供みたいついて行くようにようにして世間知らずのお嬢様である(白湯の家はお金持ちだった。まあ白湯の学校に通っている生徒たちはだいたいみんなお金持ちだったけど。そういうお坊ちゃんとお嬢様の通う伝統ある学校なのだ)白湯は電車にのって高いビルのある街の中を移動をしていた。

 白湯は人がいっぱいいるところや電車も少し苦手だったけど、今日はそんなことはまったく気にならなかった。白湯はお昼休みからずっとご機嫌だった。(そのわけはもちろん今の奇跡のような幸運な状況にあった)

 白湯は学校の指定の鞄ともう一つの自分の肩掛け鞄の二つの荷物を持っている。

 白玉は学校の指定の鞄と背中に小さめの黒いリュックサックを背負っていた。(白玉は鞄一つ持とうか? と言ってくれたのだけど、白湯は大丈夫と言って断った)

 美術館までの移動中、白玉はずっと無口でいつもの白玉のままだった。白湯もあんまりおしゃべりしないで、黙ったままで白玉にくっついていった。(それがいつもの二人だった)

 あいにく天気は悪かった。今日は朝からずっと曇っていたのだけど、電車の窓の外ではぽつぽつと冷たい冬の雨が降りはじめていた。(もしかしたら今年初めての雪になるかもしれないと天気予報では言っていた)

「ここで降りるよ」と白玉が久しぶりに口を開いて言ったので「わかった」と言ってにっこりと笑って白湯は白玉についてゆっくりと停車した緑色の電車から降りた。そのままたくさんの人たちの流れと一緒に(川に流される落ち葉のように)歩いて、大きな駅の出入り口のところまで移動した。

 空は真っ暗で、大きな駅の外では電車の窓から見たように雨が降っている。(冷たくて、静かな小ぶりの雨だった)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る