第13話座敷童子〜中編
「なるほどね・・・・・外から風が吹いてないのに音がしたと。」
彼女たちが驚いた顔をしてこっちを見てきたから何事かと思って聞いてみたら・・・・その理由は俺達だが・・・・よし、また怯えさせちゃうから言わないようにしておこう。そうしてあげたほうが安心するだろうし。『いるよ。』といった日には余計話をややこしくするだけだし。
「それって、風とかじゃなかったの?」
「風が吹いてなかったから驚いてるんだよ!!」
まぁ、ごもっともなことを言っている。
「でも、俺は聞かなかったけどなぁ〜。」
「えっ?じゃあ、私達だけ?」
朝比奈さんの言葉の後にみんな顔が青くなる。あっ、やばっ!『自分達だけ聞いた』ってのはホラー系だと十八番の展開だ。余計恐怖心を煽っでどうする!?
「まぁ、その・・・・・もしかしたらネズミかもしれないしさ。大丈夫だよ。ね?」
「た、確かに〜、ここ古いからその可能性はあるね〜。」
「え、えぇ。多分そういうことでしょう。」
な、なんとか誤魔化せた。それにしても、今までのパターンでそんなことあったか?
「まぁ、何もなかった事だし〜ご飯食べよっか!!」
「では皆さん!手を合わせて!!」
「「「「「頂きます!!」」」」」
俺達は、鯛や海老マグロと言った刺し身を食べた。それと一緒に日本酒が来たので一緒に飲んでいた。
「あっ、美味しい。」
「そうですね。」
どうやら結城さんはお酒を飲めたが、他の人はだめだったので二人で楽しんだ。なんというか、まぁ、賑やかな夕食だった。
☆☆☆☆
さざ波が鳴る。俺は、夜風を浴びながら考えてた。
「なんか、ブログのネタがなくね?」
そう、今回の宿は美味しいお酒と刺し身、これだけでもネタにできるかもと思ったが・・・・前回も同じネタを使った為に、ネタ被りになると飽きられるというジレンマを抱えてしまった。なので、少し違うネタを提供したいと思ったが・・・・・
「なんか、楽しんで終わりの記事ってどうなんだ?ヤタガラス。」
「まぁ、『自分の楽しかったですよ記事』になってしまう。そうなれば、つまらないクソ記事だろう。」
「言い方はキツイが・・・・そうなるよな。」
まぁ、ブログというのは自分の楽しかった日記だと返って相手に不快な思いをさせることがある。みんなだって、幸せな話より、少し不幸なことがあったり、不思議な体験とか有益な話のほうが聞きたいだろ?現実の他人の惚気話より空想のキャラとのラブコメのほうが面白いと思うとき、あるだろ?つまり、何が言いたいこと言うと、現実の嬉しい話より不思議な体験とか奇妙な体験、不幸話とかのほうが記事として伸びやすいということだ。だからこそ、このまま行けば「今日はアイドルの子とご飯を食べました〜!!」みたいな「エックスで投稿しろ」と言われそうな話になってしまう。
「さてと、どうやってブログに落とし込むか・・・・。」
少し記事のことで共有スペースのベランダで頭を抱えてると何か、缶の音がする。
「客人かな?」
振り返ると結城さんがコンビニ袋を下げてこちらに来てた。
「結城さん?」
「あ、バレちゃいましたか。」
少し、ギョッとしたかのような顔をしながら何やら袋から取り出す。
「一杯、どうですか?」
取り出したのは9%のストロング系のアルコールだ。
「俺はまだ飲めますけど・・・・大丈夫ですか?」
「えぇ。まだ飲めますよ。」
二人でプシュッと缶を開けて一口口をつける。うん。これはグレープ味か。少し口が寂しかったから嬉しい。
「あの、三人は?」
「三人とも今はお風呂に入ってます。私は先に入って、風呂上がりに飲みたいと思ってコンビニまで買ってきました。」
「近くにあります?」
「20分ほど徒歩で行くとありますよ。」
などとつまらない日常会話をしながら一口、一口と飲んでいく。
「そう言えば、三人とは高校生からの仲でしたっけ?」
「えぇ。私は高校生の時から応援してました。」
「どういう経緯で今に至ったんですか?」
それを聞くと心なしか、何処か嬉しそうに彼女は語りだす。
「そうですね、アレは、高校生1年の時です。私は、どの部活に入ろうか悩んでたとき、織莉子さんが必死に歌の練習を頑張ってたのが目に入ったんです。」
「一人でですか?」
「えぇ。一人で音楽室を借りてスマホで練習動画を見て学びながら行ってました。」
「本当に努力家なんだ。」
「それで、ある時に声を掛けました『私は踊るのは苦手ですが、作詞、作曲なら得意です』って。」
「え!?」
待て!この人もハイスペック人間?
「まさか、マネージャーやりながら作詞してたりしてます?」
「えぇ。時々行ってますよ。」
ヤバっ。仕事しながら作詞とか大変じゃないかな?・・・・・後で聴くか。
「安心してください。私にとって作詞は趣味みたいなものですので。」
前言撤回。やっぱ、人間好きなことだと苦にならないのかな?多分。
「それで、アレですか?小湊さんと高町さんが途中で仲間になってアイドルグループが出来た。」
「はい、よくある話ですが、出来た経緯はその通りです。」
「そんなグループが今も続いてるのは凄いですよ。」
「えぇ。時には喧嘩したり、すれ違ったこともありました。今回みたいなのが例外です。いつもならすぐ仲直りできますが・・・・・・」
彼女の顔色は浮かない。やはり、それだけこの話題は重いのだろう。
「でも、凄いですね。マネージャーやってあの子達の下へ戻れるなんて。」
そう切り出すと彼女の顔色は元へ戻る。
「結構頑張ったんですよ。高卒でいろんな人をプロデュースしていって、当時は黎明期と言われたバーバリアン・プロダクションを今ではアイドル界では有名な所まで押し上げたのですから。」
なるほど、だからこその社長からのここまでの信頼か。
「それで、アイドル養成学校を卒業した彼女達をここへ入れて欲しいと社長に頭を下げました。」
「そしたら?」
「『貴方が本気でそれを望むのなら構わないよ。私は、君の腕を見込んでいるから。』」と言われ、彼女達をこの事務所に入ることが出来ました。」
まじかよ、そんなストーリーが有るなんて。
「そんなドラマティックな話があるなんて、『現実は小説より奇なり』なんて言葉がありますが、貴方の話がそう言うかもしれませんね。」
彼女は新月の海を気にしないような美しくも可愛い笑みを向ける。
「ひろきさんも良かったらマネージャーになりませんか?絶賛人手不足なので募集してますよ。」
募集ねぇ。確かにありかもしれないが
「今は、辞めておきます。」
「なんでですか?」
理由?そんなの決まってる。
「日本を見てないから。」
「日本を?」
「えぇ。俺が、やりたいと思ったことを行ってます。今の俺がやりたいのは日本を見ること。」
最初の頃は日本一周をしてブログを書くことを目標としてた。それは今でも変わらない。だけど、旅を通して怪異とかと出会ったり、人と関わることでだんだんだけど日本という国が繋がってるけど繋がってない・・・・言い換えれば継ぎ接ぎのような国だと思ってきた。
「この国は確かに言語が同じで同じことを学んでます。けれど、土地によって人の温もりも過去も歴史も違う。そんな国のことを記事にしたいですし、そういう中で自分のできることを探したいんです。」
今の自分は何が出来るか分からない。この旅もブログも
続けるさ。自分の為に、答えを見つけるために!
「ふふ。」
彼女は嬉しそうに笑う。
「どうしたんですか?」
「いえ、今のひろきさん。他のみんなと同じぐらいかっこいいですよ。」
微笑みながら彼女は少し照れてしまうことを伝えてくる。
「そう、ですかね?」
少し照れくさそうに頭を掻きながら彼女へ返答する。やっぱり、こういうムードが出来てるときの仕草ってその・・・・照れるというか・・・エロいと言うか・・・・いい意味で困る。
「きゃぁぁぁぁぁ!!」
別部屋の方から今までに聞いたことのない必死な叫び声が聞こえる。
「今の声、まさか!?」
「みんな!!」
結城さんは叫び声を聞いた途端ウサギのように一瞬で跳ねる。
「はや!?」
まるでアスリートでないと追いつけないような瞬発力を見せながら走る。
「バケモンかよ。」
酔ってて少し足がおぼつかないところがあったが、千鳥足になってない事を確認し、俺も走り出す。
「酒カスなんだから無理しないでね。」
「酒カスじゃないし!」
「最近、どれだけ飲みました?」
「・・・・・昨日以外ほぼ〜」
「あのさぁ?」
と、ヤタガラスから長い説教になりかけた時に彼女達の部屋へ着く。
ふすまはもう開けてあった。
「結城さんが入っていったかな?」
部屋を見てみるとみんな顔を引きつっていた。
「ん?」
引きつった顔が見ている方向を見るとガラスのふすまがある。それだけなら良い。それだけなら。しかし、見えるのは子どもの手がガラスのふすまをバン!バン!と一定のリズムで叩いてる。
「手、手が・・・・手だけで叩いてる。
あぁ。見えるんだ。俺から見えるのはムカつく顔でクソガキがバン!バン!と挑発しながら叩いている顔が見える。
「楽しそうだねぇ〜、ホォラー、ホォラー!!」
まじでムカつく顔してやがる。だが、みんなの言い方的に恐らく彼の手首から先しか見えてないのだろう。いわゆる・・・・そうだな・・・・・手袋に隠れる範囲だけ見える。
「やれやれ。大丈夫だよ。俺が行く。」
俺があのふすまへ向かう。
「ひろきさん!」
止めてきたのは今でも泣きそうな朝比奈さんだった。
「怖く・・・無いんですか?」
怖くない・・・・はっきり言ったらそうだ。樹海であんな思いをしたんだ。アレより怖い思いなんて相当ないさ。
「大丈夫だよ。」
「呪われるかもしれないんですよ。」
そうかも知れない、だがー
「大丈夫だよ。俺一人の命で何とかなるなら安いものだよ。」
「・・・・・」
あっ!ヤバ。あの子の想いに気づかなくって、つい!!だけど、まぁ、本音だし、彼女に対した何をいうべきか、ごめんなさい?いや、違う。恐らく。
「そんな不安な顔しないで。大丈夫。絶対戻るから。」
そう言って廊下へ俺は駆けるのだった。
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